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[ career-働き方 ]

曽和利光の就活相談室面接官に「刺さる」エピソードの選び方

authored by 曽和利光
曽和利光の就活相談室 面接官に「刺さる」エピソードの選び方

 就活生の皆さん、こんにちは。人材研究所(東京・港)の曽和利光です。「就活相談室」の模擬面接に今回新たに集まってくれた3人の就活生には、これもまた面接の定番といえる「自己PR」をしてもらいました。PRというからには、ともかく自分の「売り」を積極的にアピールすればよさそうですよね。でもあまりやりすぎると、落とし穴にはまることもあります。どこにワナが隠れているのか、3人とのやりとりから探ってみましょう。

今回の参加者
▽加藤誠也さん(高崎経済大学経済学部3年)
▽佐藤萌さん(早稲田大学スポーツ科学部3年)
▽高橋収美さん(津田塾大学学芸学部3年)

問われるのは自己分析力

――それでは自己PRをお願いします。

自己PRは積極的であればよい、というわけではない(就活生を模擬面接する曽和さん)

加藤さん はい。私の強みは、自発的に何をすべきか考え、工夫できるところです。私は居酒屋の厨房でアルバイトをしています。お客様に常においしいものを食べてもらうために、居酒屋の社員の方とまったく同じ味を提供できる技術を身につけようと考えました。そこで、食べ残しをつまみ食いして食材や調味料の特徴を覚え込むという手段を思いつき、調理全般を任されるまでに腕を磨きました。今ではメニューの提案もさせてもらっています。

――なるほど。その他にPRしたいことはありますか?

加藤さん 物事に粘り強く取り組む根性も強みだと思います。居酒屋のアルバイトも始めてから3年近くになりますが、これまでも中学ではバスケットボール、高校ではテニス、大学では学園祭の実行委員をそれぞれ3年ずつ続けました。どんなことでも節目までは必ず全部やり通すと決めて、行き詰まったときでも打開策を見つけようとあきらめずに努力します。

――どんなときにあきらめなかったのか、詳しく教えてください。

加藤さん 中学のバスケ部のときに足をケガしたことがあります。このまま続けても意味がないのではないかとくじけそうになりましたが、プレー以外でチームに貢献できることもあるはずだと思い直しました。ひたすら声を出し、応援でムードを盛り上げました。

 2つの強みを挙げてくれました。どちらも加藤さんの美徳を示しているようですが、実はじっくり眺めると大きな違いがあります。根性のほうは感心しました。継続するということについては、筋金入りの人物なのだと思います。自分の強みを把握し、適切なエピソードで説明できているといってよいでしょう。

 居酒屋の話のほうはどうでしょうか。加藤さんは、料理の腕を上げるために自発的に工夫したということをアピールしたいようです。しかし、「工夫」という言葉には、「創意工夫」というように、オリジナルのアイデアがどんどん湧き出てくるかのようなイメージがあります。

 それよりも私がこのエピソードから感じたのは、仕事として厨房に立つからには不出来な料理は出せない、そのために徹底して練習するという責任感です。強みとして訴えたいと考えている「看板」と、それを描写するために選んだエピソードの「中身」との間に、ズレが生じているといえます。こうなると、面接官にも「自己分析が足りないな」と思われかねません。

「看板」と「中身」がずれていないか

――佐藤さんはいかがでしょうか。

「看板」が格好よくても、中身とちぐはぐだと…

佐藤さん はい。私は反骨心をバネに前を向いて進むことができます。ラーメン店で接客のアルバイトをしているのですが、あるときお客様から店に「味はいいのに客あしらいがいまいちだ」という不満のメールが届き、自分ではおもてなしの心で接客していたつもりだったので、とても悔しく感じました。そこで、おもてなしの心とはどんなことかを考え直し、お客様のおなかを満たすだけでなく、心も笑顔で満たしてあげることを大切にするようにしました。

――具体的にはどんなことに取り組んだんでしょうか。

佐藤さん 常連のお客様の顔を覚えて、来店時に例えば「本日もこちらのメニューでよろしいですか」などとお声がけをするようにしました。そうすると、お礼の言葉をかけてもらえたり、私の名前も覚えてもらえたりするようになり、とてもうれしく思いました。

 佐藤さんの自己PRも、加藤さんの居酒屋と同じ問題を抱えています。反骨心というと、「接客が悪いなんていったやつを見返してやるぜ」といったニュアンスがありませんか? それよりも私が感じたのは、せっかく来てくれたお客様に満足して帰ってもらえたらうれしいという、おもてなしの心です。まさに佐藤さん本人が、そう説明してくれていますよね。

 工夫とか反骨心といった言葉を「看板」として掲げると、何となく格好いいように思えるものですが、「中身」とずれてしまっては本末転倒です。本当に工夫や反骨心が2人の人格のポイントであるならば、それを物語るために、もっとぴったりなエピソードが他に必ずあるはずです。本当に自分のアピールしたい看板なのか、言葉の意味をよく吟味した上で、適切なエピソードと組み合わせて語るようにしましょう。

人の性格は多面的

――続けます。高橋さんの自己PRも教えてください。

高橋さん どんなことでも正確に物事を進める真面目さに自信があります。私はアルバイトで、通訳者や翻訳者を育てる教務アシスタントを務めています。授業の30分前には教室に入り、パソコンにトラブルはないか、教材のプリントに誤字がないかなどを入念に点検します。人の将来に関わる大切な作業を担うという責任感をもって真面目に取り組み、大きなミスになりかねない事態を回避できたこともありました。

――どんなことがあったんですか?

高橋さん 通訳の勉強なので音声をパソコンで録音するのですが、その音声を入れるファイルが何かの拍子になくなってしまっていたことがあったんです。そのままでは録音できず、授業が台無しになるところだったのですが、事前のチェックで気付いて事なきを得ました。

――なるほど。ところで高橋さんが目指したい仕事はどんなものでしょう。

高橋さん 小さい頃から手芸や料理で何かモノをつくって人にあげることに喜びを感じていたので、メーカーでお客様のニーズに合った商品を考えて提供していく企画の仕事に興味があります。特に化粧品業界を中心に考えています。

 ここで、自己PRをするときに陥りがちな2つ目のワナを指摘しておきます。人の性格は多面的なものです。粘り強いのか、真面目なのか、おもてなしの心に秀でているのか......数ある特徴の中で、どれを選んでアピールすべきなのか。これは、どんな企業、どんな職種を目指すのかによって違うのです。自己PRを通して企業側が確認したいのは、「この学生はうちの仕事にマッチした性格や能力を持っているのか」ということだからです。

 高橋さんは真面目さが自分の看板だと話してくれましたが、化粧品会社の面接官に、果たしてどこまで「おお、うちにぴったりだ」と思ってもらえるでしょうか。むしろ、そんな真面目さや入念さを買ってくれるのは、確実性が第一の金融機関や、鉄道などのインフラ企業かもしれません。自分にとっていちばんのセールスポイントを闇雲にPRするのではなく、まずは自分のどんな側面が評価されるのかを考えてみるのがよいと思います。

「ちょっと背伸び」の落とし穴

――佐藤さん、他にPRできることがあったら教えてください。

佐藤さん 統率力にも自信があります。所属していたサッカーサークルはマネジャーが40人ほどもいる大所帯で、それぞれの意欲の温度差が運営に悪影響を及ぼしていました。そこで後輩マネジャーの思いをよく聞いて仕事を割り振り、一体感を高めました。チーム力も向上し、全国254のサークルの中で3位の成績を収めることができました。

――すごいですね。昔から強豪のチームなんですか?

佐藤さん えっと、私が1年生のときは日本一になりまして、その当時から上位の常連ではありました。

 まるで自分の貢献でチームが躍進したかのようなニュアンスの説明でも、実は以前よりも成績が落ちているわけです。面接官はそんな背伸びを感じた瞬間、「何だ、大げさに『盛って』いるのか。自分をよく見せようとしているな」と、評価をガクッと下げてしまいます。ごまかす意図が実際にあるかどうかにかかわらず、です。そんなふうに、自分の評価にゲタを履かせてしまう人が、同僚にいたら困りますよね。

 自己「PR」である以上、ちょっと背伸びをしても積極的に売り込んだほうがよさそうに思えるのかもしれませんが、それは誤解なのです。等身大の自分を素直にさらけ出せば、「きちんと自分のことをわかっているな」と評価も高まるものですので、「不必要に盛らず、正直に」を心がけてください。

 今回のやりとりからは、自己PRで注意すべきポイントが浮き彫りになりました。落とし穴にはまらないために、(1)アピールしたい「看板」に応じた適切なエピソードを選ぶ(2)企業が求めるポイントに合わせて看板を選ぶ(3)背伸びをせず、ありのままを話す――この3点を念頭において、面接の場に臨みましょう。

曽和利光(そわ・としみつ) 1971年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て2011年、主に新卒採用を対象にしたコンサルタント事業の人材研究所を設立。著書に「就活『後ろ倒し』の衝撃」(東洋経済新報社)、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」(明日香出版社)などがある。
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[日経電子版2017年2月22日付]

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