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「もっとゆっくり」効果的な謝罪、
AIが指南

「もっとゆっくり」効果的な謝罪、AIが指南
写真は本文と関係ありません

 このたびは誠に申し訳ありませんでした――。フラッシュがまたたく中、企業トップが深々と頭を下げる。ニュースでよく見かける謝罪会見の光景だが、釈明の仕方がまずく、反感を買って逆効果になってしまうことがある。こうした最悪の事態を避けるために、会見を見た人々が感じる印象をAI(人工知能)で見極める研究が東京大学で進んでいる。本番前のリハーサルなどで指南役として活用する。AIはピンチから企業を守る救い主になるかもしれない。

カラオケ風に採点

 「記者に伝わるよう、ゆっくり話しましょう。難しい単語が多く、用語の使い方にぶれも目立ちます」。東京大学の山崎俊彦准教授が開発を進めるAIは、会見の音声データを分析し、人々が受ける印象をとらえ、改善点を指南する。「総合点は70点です」とカラオケのように採点もしてくれる。ノートパソコンにAIを組み込めば、場所を選ばず評価や採点ができる。会見の前日に出張先で社内で練習する場合にも利用できる。

プラップジャパンによる謝罪会見トレーニング風景のイメージ

 このAIの開発は企業広報を手掛けるプラップジャパンと共同で2016年11月に開始し、17年初頭から本格化させた。同社は企業トップに記者会見での話し方を指導をするメディアトレーニング事業を手掛けている。トレーニング回数は5年前の年間約110件から16年は約160件と約1.5倍に増えている。「個人情報の漏洩など企業の危機管理のほか社長自らが説明責任を果たすという意識が広がってきた」(戦略企画本部部長代理で危機管理チーフコンサルタントの村清貴氏)ためだ。

 だが、これまではトレーニングにどれだけの成果があったか、実際に会見が成功したといえるのかを定量的に測る指標がなかった。同社のトレーナーが経験と勘で評価をしてきたが、評価の軸が人によってずれてしまうのは否めない。これを解消するために「トレーナーの知見をAIに学習させることで指標の軸とする」(村氏)。17年中に学習データの作成など研究を進め、18年の実用化を目指す。

TEDで学習

東京大学情報理工学系研究科電子情報学専攻の山崎俊彦准教授

 山崎准教授は画像、音声、テキストのビッグデータ解析を専門としている。これまでにSNS(交流サイト)の写真やコメントの人気予測、旅行先で人気の高い撮影スポットを推薦するサービスなどを研究してきた。山崎准教授は、こうした人の好みを工学的な知見で解析する試みを「魅力工学」と呼んでいる。

 13年からは、良質なプレゼンテーションが聞けることに定評がある米国の講演会「TED」のスピーチ音声をAIで分析する研究を山崎准教授は進めてきた。具体的には、ネット上で配信された約1600本の講演の音声と、視聴者が評価したアンケートの結果と照らし合わせてAIに学習させた。AIは、その音声を文字のテキストに変換したうえで、文章の長さ、文章を構成する単語の難しさ、話し方の抑揚などの特徴を把握し、聞いた人がどんな印象を受けるかを分析する。「独創的」「刺激を受ける」「説得力がある」「驚いた」「面白い」など14種類からどの要素の比率が高いか「90%を超える精度でアンケートの結果と一致する」(山崎准教授)という精度が出せるようになった。

 この学習の技術を企業の記者会見の分析に応用するのが今回の試みだ。プラップジャパンが持つ数千件の記者会見の音声データと、同社の複数のトレーナーによる評価データを指標として学習させる。謝罪会見のほか製品やサービスの発表会、新社長の就任会見にも対応できる。TEDの分析では海外のウィキペディアをAIに学習させることで英語の文章の難しさなどを判断できるようにしたが、日本語対応も問題ない。「国内のウィキペディアで同様に日本語も学習できる」(山崎准教授)からだ。

「ジョブズ度」も判定

 現状の弱点は、AI分析に音声のみを使うため、身ぶり手ぶりや表情などの見た目の印象を解析できないこと。そうしたことまでAIに学習させるためには、会場全体をとらえた固定カメラから撮影するなど、条件を固定した映像が必要となる。ところが、TEDの映像は講演者の上半身のみを映すシーンが多く、スライドの画面に切り替わることもあるため、映像の分析ができなかった。今後、固定カメラによる記者会見の映像がそろえば、映像の分析が実現する可能性はある。当面は会場で表示するプレゼンテーション資料の内容も分析に加えることも視野に入れている。

 企業トップが自ら登壇して製品やサービスあるいは企業ビジョンを話すようになったのは、スティーブ・ジョブズ氏をはじめビル・ゲイツ氏や孫正義氏など国内外のカリスマ経営者による影響も大きい。AIを使えば、プレゼンテーションの名人といわれる経営者にどれだけ近いかを示す「ジョブズ度やゲイツ度などの指標を導き出すことも簡単にできる」(山崎准教授)。そうした意欲向上に役立つ機能を加えれば、企業トップだけでなく、社内でプレゼンをするビジネスパーソンにも役に立つ技術となりそうだ。
(コンテンツ編集部 松元英樹)[日経電子版2017年1月12日付]

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