適性検査は本当に不公平、不平等なのか?
ホンネの就活ツッコミ論(4)
2017年1月、新潮新書から『キレイゴトぬきの就活論』を刊行。この中で、大学名差別について取り上げました。具体的なデータをまとめ、過去から現在までにどんな変化があったのか、初めて提示できた、と自負しています。
刊行後のイベントで、ある学生にこう言われました。「就活って、結局のところ、大学名差別が続いている、ということですよね?」。大学名差別については別の機会に譲りますが、本で言いたかったのはそこではありません。説明すると、「いやー、大学ジャーナリストを名乗る人が、そういう不平等、不公平がない、と言っちゃ、ダメなんじゃないですか」。そうじゃないんだけどなあ。
適性検査は不公平か?
就活中の学生からは、この「不公平」「不平等」という話がよく出ます。大学名差別のほかに学生でよく話題となるのが適性検査。それも自宅で受検できるタイプのものです。「ああいうのって、友達同士で答えを出し合えば満点か、それに近くなりますよね? それって不公平じゃないですか?」。こういう質問をよく受けます。
そういえば、某難関大学では回答が出回っているとか。「そういう話を知っておくことが就活の情報戦なのでしょうか」とも聞かれます。適性検査、特に非言語分野(数学)の、それも、推論・集合などの分野を勉強しておくことは重要です。
一方、友達と回答を出し合うことや、ネットに出回っている回答を知ることはどうでしょうか。知っておくべき、就活の情報、とは考えません。「でも、そういうのを知っている人が結局は次の選考に進むわけですよね? それって、不公平で不平等じゃないですか」。またしても出ました、不公平・不平等。実は就活の本質は大学受験とは大きく異なります。すなわち、不公平で不平等なのです。
大学受験であれば、公平性・平等性が徹底して求められます。その典型が大学試験。当日、寝坊など本人の責任による理由で欠席した場合は再受験できません。では、就活ではどうでしょうか。仮に寝坊など本人の理由で説明会・選考に遅刻・欠席したとしましょう。すでに説明会・選考が終了していたとしても、連絡があるかどうかで事態は大きく変わります。
企業はなぜ不公平な対応をするのか
全ての企業、とまでは言いませんが、「でしたら、別の日程(での選考・説明会)はいかがですか?」と、再調整するはずです。大学名差別も同じ。満席表示が出ている説明会にも、ダメ元で電話をかけられるかどうか。私が調べたところ、電話をかけて参加できる確率はざっと7割程度あります。
大学受験であれば、どちらもまずありえない対応です。不公平とも言える対応をなぜ企業はするのでしょうか。理由は簡単、実社会が不公平・不平等であり、それに対応できる人材が欲しいからです。何らかの理由で会議や商談に遅れることは社会人でもあり得ます。そのとき、オロオロするだけか、それともきちんと連絡をして次善策を考えられるかどうか。「満席表示」も同じです。商談に行って断られることなどよくあります。一度、行ってあきらめるのか。それとも、別の方法などを考えられるかどうか。
ニトリの似鳥昭雄会長はこんな名言を残しています。「3回断られてからスタート。4回目は1回目、断られている間にライバルがどんどん減っていく」。
不公平・不平等は存在します。しかし、やり方によっては、その不公平・不平等が味方にもなるのです。実に不思議なことですが、社会に出ればこうした話はいくらでもあります。そして、社会に出る準備段階たる就活でも同じように、いくらでも起こり得るのです。
「不公平、不平等」と非難しても何も解決しない
不公平・不平等を気にするのは、大学生だけではありません。実は社会人にもそこそこいます。福島から避難してきた児童・生徒を「賠償金貰えていいな」と、イジメるのも、元を正せば、「楽して賠償金もらいやがって」という発想からでしょう。福島から避難せざるを得なかった苦労を思いやる、という発想などはどこにもありません。
生活保護の不正受給なども構造は同じです。「不公平で、不平等で」と非難したところで、非難した分だけメリットがあるのか、と言えば、特にメリットなどありません。あえて言えば、「社会の不公平を一つ減らせた」と思い込める自己満足感くらいでしょうか。
実際には、何一つ、問題が解決したわけでもないのに、実に残念な対応です。「不公平で、不平等」かもしれませんが、ある部分では、公平かつ平等です。では、どの部分か、それは人間力です。急なトラブルに対応できる、一度や二度であきらめない、などの行動ができる学生は入社後も強いだろう、と評価されます。
2回目の適性検査で不正がわかる
適性検査の友人同士で答えを出し合うことだって、実は公平に評価されています。そもそも、企業側だってバカではありません。答えを事前に知っていること、友人同士で答えを出し合うことなど織り込み済みです。正しい結果が出ないと分かっていて、あえてそうした適性検査を使うのは、値段が安く、最低限の足切りができるからです。正しい結果が出ないから意味がない? そんなことはありません。ある程度、人数を絞りこんでから、今度は会社の会議室で別の適性検査を受検させます。そこで点数のかい離が極端に激しい学生は、「最初の適性検査は、きちんと受けていない。だったら落とそう」と判断するのです。
ね? 公平でしょ?
しかも、こういう話、公表しているわけではありません。かくして、ネットでは、最初の適性検査選考に通過した学生が浮かれて、「友人と協力してどうにかなった」「回答集が出回っていて、それが参考になった」と、喜んでいるわけです。浮かれた本人は後日、ぬか喜びになるのですが、ネットではそうした話は出てきません。
就活は不公平かつ不平等か。いえいえ、そんなことはありません。不公平で不平等な部分もあれば、そう見えるだけの部分もあります。そして、本質では公平かつ平等なのです。冷酷なまでに。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
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