日本経済新聞 関連サイト

OK
[ liberal arts-大学生の常識 ]

世界に共存と対決もたらす
2人の「ドナルド」

世界に共存と対決もたらす2人の「ドナルド」
中国のマクドナルド店舗(遼寧省大連)

 「マクドナルドの店舗がある国同士は戦争をしない」

 こんな法則、外交理論があるのをご存じだろうか。著名な米ジャーナリスト、トーマス・フリードマン氏が1996年に提唱したもので、「レクサスとオリーブの木」(99年出版)の中でこう解説している。「マクドナルドを多店舗展開できるほどの国力、中産階級に厚みができると、戦争をしようとは思わず、マクドナルドのハンバーガーを求めて店の前で並ぶほうを選ぶ」

国際紛争を防ぐ黄金のM型アーチ理論

 タイトルにある「レクサス」は国際展開によって繁栄を目指すトヨタ自動車のレクサスを、「オリーブの木」は地域や文化、共同体を大切にすることを指している。

 フリードマン氏の著書によると米マクドナルド本社と共同でこの仮説を検証したところ「1999年までの時点で例外がなかった」と記している。そしてマクドナルドのMのマークになぞらえて「国際紛争を防ぐ黄金のM型アーチ理論」と呼んだ。

トランプ氏は2016年の米大統領選挙期間中、マクドナルドのポテトフライを手にしている写真を公開した(本人のインスタグラムから)

 果たして現在はどうだろうか。イスラム教徒が多いサウジアラビア、エジプト、レバノン、ヨルダンにもマクドナルドはある。さすがに2001年の米同時テロ以降は内戦も含めると黄金のM型アーチ理論も色あせているようにも見えるが、中東の紛争地域のシリア、イラン、イラクにはマクドナルドはない。

 フリードマン氏が言いたかったのはマクドナルドだけでなく、グローバル展開する企業は資材の調達から製造、販売までいろいろな国や地域と相互の依存関係が深まると戦争によってもたらされる経済的な荒廃を望まないということだ。

 さて米新大統領、ドナルド・トランプ氏は黄金のM型アーチ理論をどう思うだろうか。その結論を急ぐ前に、トランプ大統領は、名前にマクドナルドのマスコットキャラクターと同じ「ドナルド」(米国ではマスコット名は「ロナルド」)が付いているからかどうかはわからないが、マクドナルドのハンバーガーやポテトフライが好物なのは間違いない。米大統領選挙戦中にトランプ氏がプライベートジェットの機内でマクドナルドのポテトフライを手にしている模様を写真共有サイト「インスタグラム」で公開している。

 また、選挙期間中に米中外交について問われると「私なら、(中国の)習近平国家主席に(国賓用のディナーではなく)マクドナルドのハンバーガーを供し、仕事に取りかかろうと伝える。それも倍の大きさのビッグマックだ」と答えたほか、北朝鮮の金正恩委員長については「ハンバーガーを食べて対話をする」と語っていた。ちなみに中国にはマクドナルドがあるが、北朝鮮にはない。

米マクドナルド、中国事業を売却へ

 米マクドナルドの国際展開を巡っては最近、大きなニュースがあった。1月に発表された中国事業の売却だ。中国でMのマークは残るが米本社からの経営の関与は大きく薄まる。偶然でしかないが、トランプ氏の側近中の側近といわれるスティーブン・バノン米首席戦略官・上級顧問が米国家安全保障会議(NSC)の常任委員に抜てきされた。バノン氏は昨年、「5年から10年以内に中国と戦争をするかもしれない」という趣旨の発言をしている。

 「レクサスとオリーブの木」の中では18世紀に活躍したフランスのモンテスキューの歴史的名著「法の精神」の「商業はいかにしてヨーロッパの野蛮性を打ち破ったか」の章からこんな言葉を引いている。「人は、激情にかられて邪悪になりがちだが、それにもかかわらず慈悲深く高潔であることが自己の利益になるような状況に置かれているなら、その人は幸せである」。モンテスキューはマクドナルドが存在しない時代に「国際紛争を防ぐ黄金のM型アーチ理論」の命題を指摘していたのだ。

 トランプ新大統領にはビッグマックとポテトフライをほお張りながら「法の精神」を読んでもらいたいものだ。
(編集委員 田中陽)[日経電子版2017年2月8日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>