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オックスフォード奮闘記(6)ミャンマーでの音楽教育から学んだ大切なこと

日置駿 authored by 日置駿オックスフォード大学法学部修士課程
オックスフォード奮闘記(6) ミャンマーでの音楽教育から学んだ大切なこと

 第2学期(Hilary term)が終わりました。冬の間はどんよりした厚い雲に覆われていたオックスフォードの街にも春がやってきて、街は息を吹き返したかのように青い空や緑の芝生、色とりどりの花で彩られています。学生たちの多くは休暇中には母国に帰るようですが、相変わらず多くの観光客で街は賑わっています。

 さて、前回の連載では私が音楽と出会い、オックスフォード大学への留学のきっかけとなったオーケストラを立ち上げたところまでお話しさせていただきましたが、今回はその続きです。「音楽を通して人々の背中を押す動機やきっかけ(モチーフ)になりたい」という思いからOrchestra MOTIFを立ち上げ、なんとかミャンマーでのコンサートを成功させた私たちですが、大きな達成感と同時に将来への不安も芽生えていました。

 「どうしたらこの活動を継続できるだろうか」。私たち学生には当然学業という最優先事項があり、ミャンマーという異国の地での音楽教育活動に継続性を持たせることは大きな壁として立ちはだかりました。私たちは「子供たちの将来の夢の選択肢の中に音楽も入れてあげたい」と意気込んでミャンマーを訪れたのですが、たった一度訪れて音楽を届けただけではきっかけにはなっても、子供たちが具体的な一歩を踏み出す事にはなりません。そもそも子供たちは喜んでくれたのか? 興味を持ってくれたのか? それがわからないままこれ以上の事をしたら文化を押し付け、自分たちが自己満足に浸ることになってしまうのではないか? と様々な事に思い悩む日々でした。

支援をした養育施設Dream Trainの校長先生から感謝状をいただく

バイオリンを弾けるようになってみたい

 そんなある日のことです。私たちの元に一通のメッセージが届きました。送り主は、私たちの現地での活動を大きくサポートしてくださったNPO法人ジャパンハート:ミャンマー事務所の方で、そこには私たちが寄付していった楽器を子供たちが毎日楽しく触ってくれている様子が書かれていました。そして、その中に添えられていた、たった一言のメッセージに私の心は高鳴りました。

 「バイオリンを弾けるようになってみたい。 カーター 10歳」

 コンサートが成功することよりも、自分たちの活動がどんな意味を残すことができるかを真剣に考えていた私たちにとって、この一言は何よりも嬉しい言葉でした。

第2回ミャンマーツアーにて。ピアニカと教科書40セットを寄贈した

 かくしてミャンマーにもう一度渡航することを決めた私たちは、第2回目のアプローチとしてどのように活動を発展させられるかを考えました。たどり着いたのは、東京藝術大学や桐朋学園大学などで音楽を専門としている学生が多く在籍していたMOTIFの強みを生かし、MOTIFオリジナルの教科書をしっかりと作って音楽教育を届けよう、ということでした。この教科書作成のプロジェクトは、音楽の教職員になる勉強をしているメンバーが中心となり真剣そのもので取り組んでくれ、演奏に関しても音楽教育に関しても一切の妥協を許さずプロ意識を貫く姿勢に深く感銘を受けたことを思い出します。

オリジナルの教科書は日本語とミャンマー語の2カ国語で作成。何物にも代えがたい作品となった

 
 

 子供達の反応はまさに大喜び。渡航したメンバーからも充実した活動に誇りと喜びを感じる声がたくさん聞こえてきました。この後、現地からさらに「MOTIFの皆さんに演奏を聴いてもらいたい」という声をいただき、これをきっかけに翌年Orchestra MOTIFと子供達との夢のジョイントコンサートを開催する目的で3度目の渡航を果たすことになります。

 MOTIFが蒔いた種が大きく成長し、今度は子供達から与えられる。与えるつもりで始めた活動が与えられる喜びをもたらしてくれました。MOTIFは誰かの背中を押す動機(仏語でmotif)になりたい、という思いで命名されましたが、実はMOTIFの活動は他の誰かではなく、正に自分たちの背中を押すきっかけになっていたことに私たちは気付かされたのです。

子供達にとって初めての音楽の授業中

点と点が繋がり、一本の線になる

 この3度の渡航のアプローチは「音楽を衝撃と共に紹介し(聞く)、演奏の仕方を教え(学ぶ)、拍手を貰う喜びを知ってもらう(演奏する)」という3段階のモデルになっています。音楽家にとって不可欠なプロセスであることを今ではMOTIFの音楽教育事業を説明する時に用いているのですが、初めからこのプランを描いていたわけでは全くありませんでした。

 故スティーブ・ジョブズ氏が言う、"点と点が繋がり、一本の線になる"という言葉に深い共感を覚えます。夢中になっている間は気づきませんでしたが、こうして振り返ってみるとMOTIFが歩んできた一つ一つの挑戦はその都度悩みながらも大きな線で結ばれていたのだと思います。そして常に一つ一つの点を描くことに対して誠実で真摯に向き合い、全力を傾けることによってこそ道は拓かれるのだということを私たちはこの経験から学んだのでした。

子供達もMOTIFの団員も眼差しは真剣そのもの

 

 次回は東北出身の団員も数多い中、特別な思いを持って臨んだ福島県相馬市における活動をご紹介します。次回でOrchestra MOTIFの活動についての連載は一区切りし、またオックスフォードでの生活の様子をレポートしたいと思っています

Orchestra MOTIFカンボジアツアー開催中
Orchestra MOTIFは現在、カンボジアでの新たなプロジェクトに挑戦しています。私は英国におり参加はかないませんでしたが、クメール・ルージュという暗い過去を持つカンボジアに対し、団員たちはミャンマーの経験を生かしつつも国民性や支援先の学校の子供達にとって最善なアプローチを見つけるべく現地調査やヒアリングを経て懸命に臨んでいます。是非皆様の温かい応援のコメントなどをよろしくお願いいたします。
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