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お悩み解決!就活探偵団2018ビジネス資金は100万円、
驚きのインターン

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 ビジネス資金は100万円、驚きのインターン

 優秀な学生は大手企業に奪われてしまう。なんとか阻止できないか。企業の採用活動が過熱する中、中堅企業やベンチャーのインターンシップが異彩を放っている。元手は100万円、アメリカで市場調査――。規格外のインターンに飛び込む学生たちを追った。

会場キャンセル代35万円

 「人からお金を集められる内容ではないよ。中止にすべきだ」。こう宣告されて建物から外に出ると、明治大学3年の男子学生Uさんは、電柱の影で泣き崩れた。2月下旬、すっかり日が暮れたJR五反田駅付近は勤め人たちが家路を急いでいたが、人目を気にする余裕もない。「会場費の35万円はキャンセルが効かず、もう戻ってこない。自分のミスだ」と思うと情けなくなった。だが悲嘆に暮れている暇はない。翌日朝には、チームのあらたな事業計画をまとめて発表しなければならないからだ。

イラスト=篠原真紀

 Uさんは、ジャスダック上場の人材派遣会社、UTグループが2月に実施した100万円を元手にビジネスを立ち上げるインターン「ミリオン」に参加していた。高校のサッカー部で部長を務めた経験があり、チームをまとめるリーダーとなった。事業アイデアは、高校生向けに大学4年生が就活の経験を語るイベントだった。1週間の準備期間で参加者を募集したが、集まったのは2人だけ。「ほかに参加者はいるんでしょうか」という問い合わせに正直に答えると、2人ともキャンセルしていった。

 UTグループの本社を訪ねて担当者に実情を話すと、返ってきたのは冒頭の厳しい言葉だ。「事業計画は白紙で、今から新しく作らないといけない」。Uさんがチームのメンバーにてん末を伝えると、夜9時をまわっていたにもかかわらず、5人のうち2人のメンバーが来てくれた。

利益はわずか461円

 喫茶店やファミリーレストランをハシゴをしながら、深夜に思いついたアイデアは、「関西のひなあられを東京で売る」だ。関西出身のメンバーが「東京のひなあられはなぜ甘いのか?」と言い出したのがきっかけ。既に午前3時。眠気を振り切ってプレゼン資料を作り始めた。

チームで関西ひなあられを販売。手作りポスターでアピールして140袋が完売となった

 次の日のプレゼンはなんとか終了。関西ひなあられは三重県の問屋から140袋を仕入れ、東京・板橋の雑貨店の軒先を借りて4人で販売した。1袋は100円。懐かしさで買ってくれる関西出身の人も多く、夕方ごろには完売となった。その日がインターンの最終日だった。

 ひなあられの利益はわずか461円で、全体の収支はイベント会場費が影響して36万4699円の赤字になった。ビジネスとしては失敗だが、「後半は収益にこだわらず、人を笑顔にするという信念を持って取り組めた。苦しくてもやり遂げる喜びを感じられた」とUさんは振り返る。

 UTグループで初の取り組みとなる今回のインターンには3チーム、15人が参加。1チームにつき事業資金の100万円を用意した。1995年創業の同社は、製造現場への人材派遣が好調で成長を続けている。新卒採用ユニット統括部長の藤崎陽平氏は、「今回のインターンは、3年後に経営層に入る人材を探すことを目的」という。2021年3月期には2万9000人と従業員を3倍に増やす目標を立てている。役員も3倍の規模になる見通しで、「18年入社で、2021年の目標に届かせるには、3年後には役員になってもらわなければ間に合わない」(藤崎氏)という。

 計300万円は回収不能のコストと割り切っているが、説明会などで学生から「100万円のインターンをしている会社ですよね」と声をかけられることも増え、宣伝効果を感じている。

製品開発プランも

 ビジネスモデルだけでなく、学生にIT(情報技術)を活用した製品開発プランを立案させる試みもある。

 「この靴を子供に履かせれば、迷子になっても大丈夫。歩数や姿勢を測定して健康状態も分かります」。2月26日、東京・秋葉原の会場で、ステージに立った学生が声を張り上げた。彼がプランを立てた製品は、あらゆるものがネットにつながるIoTを活用した子ども向けのシューズ。ステージの前に集まった企業の採用担当者からは、「販売方法は」「コストはどう計算したのか」「既存製品と差異化はできるのか」といった厳しい質問が飛ぶ。

 このイベントは職業教育カウンセリングを手がけるグローイング(東京・新宿)が主催した「Glowing CAMP」。参加した計25人の学生は、4日間の研修の後、3~6人のチームに分かれて10日間にわたって事業アイデアを詰めた。

 「プレゼンにあえて情報を詰めすぎず、いろんな角度からの質問に答えられるように準備をしてきた」と立命館大学3年の男子学生Aさん。「就活では人前でアピールしなければいけないが、自分のアイデアを自信を持って話すことができるようになった」(Aさん)と満足げだ。

米国各地でユーザー調査

 「ニューヨークに行く方、いますか」「ワシントン州の人はいますか」。2月25日、週末でひと気のない六本木ヒルズの一室。フリマアプリを手掛けるメルカリ(東京・港)が今年から開始したインターンの説明に、22名の学生たちが集まった。

メルカリ社内のホールで米国でのインターンについて学生たちが説明を受けた(2月25日、東京・港)

 学生たちに与えられた課題は、米国各州での個人向けアプリの利用実態を探るユーザー調査だ。ヒアリングの相手は、事前にSNS(交流サイト)などを駆使して探すか、大学内や街中などで現地の人に声をかける。渡米の期間は1週間で、担当の州を越えない限り行動は自由。帰国後はレポートをまとめて提出する。同じ州には2~3名が割り当てられ、協力しながら調査を進めていく。

 「実力主義のベンチャー企業ではどういう仕事が求められているかを知りたい」。そう話すのは東京大学大学院1年の女子学生Mさん。大学の専攻である都市計画に関する大手企業を志望しているが、ベンチャー企業のインターンに参加したのは「自分が本当に大手に向いているのか見極めたい」(Mさん)からだ。「保守的にはなりたくない」とMさんの決意は固い。

 4カ月の留学経験もあり、英語の日常会話は問題ない。「他社のインターンは内容がある程度予測できるが、今回のインターンは自由度が高く、現地で何をしてもいい。その先の見えないところが逆に面白い」(Mさん)と課題にひるむ様子はない。Mさんの担当はマサチューセッツ州となった。まもなく渡米する。「ボストンにはハーバード大学もあるので行ってみたいですね。おいしいロブスターも食べたい」と余裕の笑顔だ。

 メルカリが海外インターンを実施する狙いは「米国への事業展開が本気だと示し、就活生たちに認知を広めること」(HRグループマネージャーの石黒卓弥氏)。本来、経団連の指針でインターンは採用活動に関係なく実施とされているが「レポートの内容が素晴らしければもちろんラブコールの可能性はある」(石黒氏)と本音を話す。

初心者を敏腕プログラマーに

 幹部候補の即戦力を求めたり、新規事業のマーケティングに活用したり、企業がインターンで学生に期待することはさまざまだ。だが、もう少し長い視野でインターンを実施する例もある。

FiNC(東京・千代田)は有望な学生にプログラミング技術を教えるインターンを実施している

 「プログラムができる人だけを候補にすると、より多くの優秀な人を見落とす可能性がある。新たな可能性を発掘したい」と話すのは、健康指導サービスを手がけるFiNC(フィンク、東京・千代田)の取締役CTOの南野充則氏だ。同社では約3年前から、プログラミングのまったくの初心者をインターン生として採用し、塾のように一からプログラミングを教えるインターンを続けている。1~2カ月ほどみっちり育成プログラムをこなし、簡単なアプリが作れるようになったら、社員の下で実サービスを開発する人もいる。

 無料で実務クラスの最先端スキルが身に付くとなれば、学生にとってはおいしい話。すぐに飛びつきたくなってしまうが、相当な覚悟がないと途中で振り落とされてしまう。1回の募集で届く応募は100~300人。そこからプログラムの素養を測るロジカルシンキングのテストで25人に絞る。育成プログラムの開始後、しばらくすると、指導についていけない人のほか、学業との両立が難しい人などが抜けて「15~20人に減っていく」(南野氏)。

 技能を持つ人材を手早く集めるには中途採用すればいい。それでも初心者の学生を一から育てる理由は「中途ばかりだと画一的な会社になってしまう。真っ白なキャンバスから会社にとって最適な人材に育てたい」(南野氏)という狙いがあるからだ。もちろんインターン生がフィンクに就職しないケースもあるが「いいエンジニアを育てれば同じ業界で働くことになる。お互いに刺激しあいたい」という。

 インターンは採用活動か、あるいは純粋な就業体験にとどめるべきか。そんな議論が続いている中で、わずか1日数時間で終わらせてしまう「企業説明会」のようなインターンも増えてきた。それに比べればガチンコのインターンは非効率かもしれない。だが得られるものは比較できないほど大きい。
(松元英樹)[日経電子版2017年3月9日付]

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