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学生のための業界ガイド2017(11)旅行会社
ネット系急成長で変わる業界地図

学生のための業界ガイド2017(11) 旅行会社ネット系急成長で変わる業界地図

 「日経カレッジカフェ」では皆さんの就職活動の参考になるように、業界研究を連載しています。今回、取り上げるのは「旅行会社」です。航空会社や総合商社などと並んで、就活生の人気の高い業界ですね。ただ、他の業界と違って、企業による業務内容の違いが多く、規模の大小の差も大きいです。基本的には手数料で稼ぐ構造なので、薄利多売のビジネスともいえます。最近ではネット販売が急成長し、業界地図が変わりつつあります。

国内旅行市場は伸び悩み気味

日本人の海外旅行客は減少傾向にある

 少子化や若者を中心とした海外旅行離れの影響で、日本人の旅行市場は伸び悩んでいるのが実情です。国内の旅行市場の規模は観光庁によると、2016年で約25兆円と見込まれます。内訳は宿泊を伴う国内旅行が15.8兆円、日帰り旅行が5兆円で10年以降、国内旅行はほぼ横ばい。海外旅行は円安が進んで逆風になった15年の数字ですが1兆円で、最近のピークだった12年より3000億円減っています。

 一方で、ご存知のように外国人旅行者の急増で、日本国内での訪日客旅行消費総額は3.7兆円と前年に比べて8%増えました。ただ、インバウンドの恩恵は宿泊施設や土産物では大きいものの、旅行費用としては海外の旅行社などに流れ、国内の旅行会社はあまり潤っていません。観光庁の調査では、訪日外国人の宿泊や交通などの費用のうち日本の旅行会社の取り扱い割合は13%ほどです。政府は訪日外国人数を2016年の2404万人から20年に4000万人まで伸ばす目標を立てています。国内の旅行会社にとっては、いかにその需要を取り込むかが成長のカギといえるでしょう。

企業規模や機能、販売形態は様々

外国人旅行者の需要取り込みが課題

 旅行会社は比較的少ない資本でも開業できることから、国内には多くの業者がいます。その数は16年4月時点で1万100社。減少傾向にありましたが、16年はやや増加し1万社を回復しました。このうち、一般からの募集も含む海外、国内旅行すべてを扱える第1種旅行業は708社です。機能によって分けることもできます。JTBやKNT-CTホールディングス、エイチ・アイ・エスなどの大手の多くはあらゆる旅行を取り扱う総合旅行業。海外旅行などを扱うジャルパック、ANAセールス、JTBワールドバケーションズ(「ルックJTB」です)などはパッケージツアーの企画・実施を行い、販売は他の旅行会社に委託するホールセラーと呼ばれます。このほか、規模は小さくなりますが海外旅行の現地手配を行うツアーオペレーター、航空券やホテルなどの旅行素材を旅行会社に卸すディストリビューター、旅行商品の販売を主に行うリテーラーなどがあります。

 販売ルートによる違いもあります。阪急交通社やKNT-CT傘下のクラブツーリズムは主に新聞や雑誌の広告、折込チラシなどを使って旅行商品を売るメディア販売系で、中高年に食い込んでいます。最近、急速に売り上げを伸ばしているのがネット系。トップの楽天(「楽天トラベル」)はいまや旅行業界全体でも第3位に位置します。リクルートホールディングスが運営するじゃらんネットやエイビーロード、ヤフー子会社の一休、外資系のエクスペディア(オンライン旅行世界最大手です!)など、皆さんも利用されたことがあるのではないでしょうか。

収益性の低さが課題

店舗での人件費やパンフレット印刷代など高コスト体質

 最近では旅行の予約はインターネット経由が主流で、ヤフー調査ではネット経由が88%を占めます。航空券、ホテルなどを消費者が旅行会社を通さず直接予約することも増えていますので、旅行会社にとってネットの進展は諸刃の剣ということもできます。

 旅行業は他の業種と比べ、販売する商品の性質に大きな違いがいくつかあることを覚えておきましょう。最大の違いが商品をストックすることができないことです。旅行商品は宿泊、交通、食事などで成り立ちますが、いずれもその日、その時に消費してしまうものです。しかもその供給量、例えばホテルの客室数や航空機、列車の座席数は基本的に一定です。従って休日や年末年始、大型連休などの需要期には需要過剰、それ以外では供給過剰にどうしても陥ります。また、サービス商品なので、価格を下げて需要を伸ばそうとするとサービス低下、客離れにつながりかねません。ホテルや交通会社からの手数料収入に依存する一方、販売面では人手に頼る産業なので人件費率が高くなります。その結果、総合旅行業の営業利益率は3%程度で、収益性では他産業に大きく劣るのが課題です。

多彩な企業群で構成するJTBグループ

 それでは業界大手の動向です。最大手は業界のガリバーと呼ばれることもあるJTBグループ(2015年度旅行取扱高1兆6508億円)。1912年に当時の鉄道院(JRグループの前身)などが中心になって設立した旅行会社「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」が始まりです。戦後、日本交通公社となり、1963年に営利部門を株式会社化して以降、旧国鉄とともに発展し、業界トップを維持してきました。創業100周年の2012年に分社化し、事業持ち株会社と事業会社群からなる新しいJTBグループが発足。現在は旅行会社群だけでも北海道から沖縄までエリア別にある地域総合型会社、ショッピングセンターなどに出展して旅行商品を売る個人営業特化型会社、法人向け営業や外国人向け販売、会議や大会の企画・運営などを手がける機能特化型会社などがあります。新卒採用でも、グループのあらゆる事業を対象にしたグループ総合職、希望する事業会社を特定する各社総合職、事業会社や勤務地まで特定する各社基幹職などに分かれています。

シナジー効果狙うKNT-CT、国内旅行が95%の楽天

 業界第2位はKNT-CTホールディングス(同5092億円)。社名になじみがない方がいるかもしれませんが、13年に近畿日本ツーリスト(KNT)と子会社のクラブツーリズム(CT)が経営統合した会社です。KNTは近畿日本鉄道の旅行部門などを前身とする会社で、海外旅行の「ホリディ」、国内旅行の「メイト」などで知られています。日本旅行と業界2位を争ってきて、修学旅行に強みがあります。CTとの統合で、同社の持つ会員組織を活かしたマーケティングなどシナジー効果を狙っています。

 3位の楽天(同4885億円)はネット専業で、他社のような店舗を持ちません。旅行会社の楽天トラベルを14年に本体が吸収しました。国内旅行の扱いが全体の95%を占め、国内旅行取扱高でみればJTBグループに次ぐ業界2位です。15年に海外航空券販売のワールドトラベルシステムを子会社化し、海外旅行事業の拡大を進めています。

多角化進めるHIS、日本旅行は訪日客取り込みに注力

ハウステンボス内の「変なホテル」ではロボットが接客

 格安航空券で有名になったエイチ・アイ・エスが4位(同4284億円)です。創業が1980年と比較的若い会社ですが、格安海外ツアーや国内外でのホテル事業、航空会社(スカイマーク)の設立など、常に業界に新風を吹き込んできました。海外旅行が約8割を占め、取扱額では業界トップです。国内外に500店舗を展開。最近では、2010年に子会社化したテーマパークのハウステンボス内にロボットが接客する「変なホテル」を開業し、話題になりました。

 僅差で5位に入ったのが老舗の日本旅行(同4277億円)。前身の日本旅行会は1905年の設立です。株式会社となった戦後はJTB同様、旧国鉄との関係が深く、2001年にはJR西日本から旅行業部門を譲り受け、翌年には同社の子会社となりました。「赤い風船」ブランドの国内旅行が売上高の6割強です。JRとのセットプランを強化するほか、ネット系を含むアジアの旅行会社と提携し訪日客も取り込む方針です。

販売、商品企画、仕入れ・手配が業務の柱

 旅行会社の実際の仕事はどんな内容でしょうか。旅行業はサービス業ですので、お客様と接する機会が多くなります。新卒で総合旅行業の企業に入った場合、女性は店舗でのカウンターセールス、男性は団体セールスのセクションに配属されることが多いようです。カウンターセールスの場合、一般顧客にパッケージツアーや航空券、JR切符などを販売するのが主な仕事です。ツアー商品などでは顧客の旅行目的や予算を的確に把握し、ニーズに沿った商品を提案することが求められます。団体セールスは企業や学校、各種団体など大口の顧客を訪れて旅行商品をセールスします。顧客の要望に合わせて、自分で旅行商品を作り上げる面白さがあるでしょう。

 商品企画も重要な仕事です。ホールセラーでは基幹業務となります。旅行者のニーズをもとに、航空機や列車の座席、ホテル客室などの供給量や仕入れ値を踏まえ、他社の商品構成もにらみながら旅行商品を作り上げます。パンフレットの制作業務もその一部です。仕入れ・手配部門も同様に重要です。航空会社やホテルなどと座席・客室の量や価格を交渉して旅行の素材を確保する大切な仕事です。

 添乗員(ツアーコンダクター)になりたくて旅行会社を志望する方もいるでしょう。ただ、総合旅行会社の正社員で添乗員業務を行っている人はそれほどいません。添乗員の多くは専門の派遣会社に登録し、旅行会社からの依頼に応じて添乗するという形です。ツアーの催行数には季節による差があるので、年間通じて添乗員の仕事ができる人は意外に少ないそうです。

調整能力や打たれ強さも求められる

 では、どんな人がこの業界に向いているのでしょうか。まずはサービス業なので人と接することが好きな人ですね。多人数を対象にビジネスを行うので、調整能力やリーダーシップも必要です。トラブルやクレームも頻繁にありますので、冷静に事態に対応できる力や打たれ強さも求められます。旅行がなにより好きということは言うまでもありませんが。

 最後に気になる平均年収ですが、大手の総合旅行業では35歳前後で450万円から550万円ほどとみられます。ネット系は会社によりますが、同じ年代で600万円台のところもあるようです。
(若林宏)

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