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東大推薦入試への道(2)思ったよりも抽象的な募集要項に困惑

笹森ゆうほ authored by 笹森ゆうほ東京大学1年
東大推薦入試への道(2) 思ったよりも抽象的な募集要項に困惑

 日経カレッジカフェをご覧の皆さん、こんにちは。東京大学1年の笹森ゆうほです。東大推薦入試の1期生として連載をさせていただいています。第1回では私の高校2年生頃の活動について書かせていただき、推薦入試の受験を決意したところまでお伝えしました。2回目となる今回は高校3年生の頃、私自身が受験の準備をした過程を振り返りつつ、そもそも東大の推薦入試はどのようなものなのか書いてみようと思います。

中央が筆者

東大推薦は思ったよりも抽象的!?

 「推薦入試を受けてみよう」と決心したのはいいものの、どうやって対策を立てればいいのかは全くわかっていませんでした。このとき既に3年の4月。周りの友人たちの中にはすでに志望校対策に取り組んでいる人もいる中、私はまず、東大推薦入試についての情報を集めることにしました。

 調べて分かったのは東大推薦入試には①1次審査②センター試験③2次試験という3ステップあるということです。1次審査は志望理由書や提出資料による書類審査。2次試験ではセンター試験の点数と、面接、小論文、ポスター発表などの結果で審査されます。センター試験は他の国公立大学文系と同じように900点満点で、「おおむね8割程度」の点数が必要とされています。1次審査の締切が10月末だったこともあり、私は東大の一般入試対策の勉強と並行して推薦入試の準備をしていました。

 準備の中で最も厄介だったのが、私が志望していた教育学部の募集条件が「卓越した探求能力を持っていること」という非常に抽象的なものだったということです。東大の一般入試は「文科一類」「理科三類」のように科類で大まかに分けられていますが、筆記試験の問題は共通です。しかし、推薦入試は学部によって条件が異なります。

 工学系や文学系の募集要項にある「高い数学の能力」や「英語能力」なら数学オリンピックや英検等のスコアで示すことができますが、「探求能力」のような抽象的なものを示すにはどうすればいいのでしょう。探求能力というものに明確な基準などあるわけがなく、私が持っているものといえば、自己流でインタビュー調査をしてきたという事実だけでした。学会発表を行ったわけでもなく、論文を書いたわけでもありません。この抽象的な条件に私はひどく悩まされてしまいました。

 高校の担任に相談をしてみたのですが、初めて行われる入試とあって情報はゼロ。募集要項を見ても、周りに相談してみても何も情報が得られなかったので、私はついに開き直ることにしました。これまで自分がやってきたこと、自分が持っていることを総動員してできるところまでやってやる!と決心しました。

抽象度を逆手にとって

 開き直ったところで、自分が何を持っているのか、これまでのことを見つめ直してみることにしました。前回の記事にも書きましたが、私はカンボジアでの体験をきっかけにしたエッセーで全国規模のコンテストでの受賞歴があり、その後も自己流ではありましたが、カンボジアで抱いた疑問を解明しようと外国人へのインタビューや考察などを繰り返してきました。

 これまでは、自分のノートや頭の中だけにこれらのインタビュー結果や考察を蓄積してきました。もしかすると、これらを改めて文章化しまとめれば「探求力」を示す材料になるかもしれない。入試の条件が抽象的であるということは、自己流の資料であっても正当に評価してもらえるということではないか? この「自己流」が認められるのであれば、これほど自分に合っているものはないのではないかとすら思えてきました。

 この頃既に季節は3年の夏になっていました。募集要項に悩まされた半年間でしたが、結果的に今後すべきことが明確になり、前に進むことができるようになりました。

負の連鎖に落ち込む

 募集要項に悩まされた時期を乗り越えると、次にやってきたのは「受験勉強との両立」です。私は冒頭にも書いたように、東大推薦入試と東大一般入試の両方の準備を進めていました。

 夏休みに入ると、部活動を引退した周りの友達が一斉に勉強に取り組みはじめ、1日に10時間以上勉強する人が多くなっていきました。周りが勉強一色の中、私はエッセーコンテストの副賞のベトナム研修に出かけ、現地の高校生の人たちにインタビューしたり、JICAベトナム支部の方々にお話を伺ったりして過ごしていました。

ベトナム研修

 今となってみれば、推薦入試にとっても自分のキャリア形成にとっても非常に価値のある経験だったと言い切れますが、当時は勉強に勤しむ友人たちを尻目に「本当にこんなことをしていてもいいのだろうか」と不安に思っていました。

 周囲との差に不安を抱えたまま夏休みもあっという間に終わり、学校に行けば友人たちの会話の中で「センター試験まであと何日」というようなフレーズを頻繁に耳にするようになります。しかし、私はというと、センター試験よりも前の11月に推薦入試の一次審査資料を提出する必要があったので、センター試験対策どころではありませんでした。毎週のようにある模試でも、科目と科目の間の休み時間に教室を飛び出しては担任の先生と資料の書き方について相談しました。また、家に帰れば自室にこもり、参考書を広げるのではなく、パソコンを立ち上げこれまでの経験を文字にする毎日。気づけば11月いっぱいはほとんど受験勉強をしていませんでした。

 当然、こんな生活をしていて模試の成績が上がるわけはありません。推薦入試だけでなく一般試験受験も考えていた私にとっては、ここで推薦と一般をダブル受験する難しさと大変さを実感しました。同時に、「自分は一体何をやっているんだろう」と考えることが日に日に多くなり、資料作成も手につかず、受験勉強も周りとの差を意識し焦りばかりが募っていくという負の連鎖に陥っていきました。

目の前のことに全力で取り組むということ

 このように、推薦試験の準備と一般入試の勉強との両立の間で悩んでいた私は、高校の先生にそのことを相談しました。そうすると、その先生は次のようなことを言ってくれました。

 「確かに一般入試が心配な気持ちもわかる。でも、今推薦と一般どちらも中途半端に対策していたら、どちらも失敗してしまうよ。今目の前にあるのは推薦入試。まず一次審査までは推薦入試に全力投球して、提出が終わったら頭をしっかりと切り替えて受験勉強を再開すればいいよ」

 この言葉で推薦入試へのモチベーションを持ち直し、まずは目の前のことに集中して全力で取り組もうと決めました。それからは、再び毎日パソコンのキーボードを叩き続け、ついに2万7000字を超える資料を完成させることができたのです。

完成した2万7000字の提出資料

 資料を提出し終えたのは11月。1カ月後の12月1日の1次審査の結果発表までの間、先生に言われたように頭を切り替え、これまでの遅れを取り戻すようにセンター・一般試験対策に没頭しました。

 特にセンター試験は一般入試にはもちろん必要ですが、推薦入試で一次審査に通った場合にも必要です。推薦入試に必要なセンター試験の基準点は一般的な国公立文系と同じ国語・数学・社会(2科目)・英語・理科基礎の合計900点満点で「おおむね8割程度」。

 東大の一般入試を受ける人にとってはさほど高い目標ではありませんが、少しでも合格確率を高めたい私にとっては気が抜けないものでした。毎日予備校に通い、勉強する日々はこれまでの資料作成とはまた違った苦しさがありましたが、推薦入試の準備を通して「東大に行きたい」という思いが強くなっていたので、モチベーションを維持することができました。

 推薦入試と一般入試を併願することは決して精神衛生上良いとは言えませんが、その苦しみの中で自分のこれまでを見つめ直したり、それを人に伝えるために試行錯誤したりでき、今だからわかる今後の人生で必要な大事なことを多く学ぶことができました。

 次回は1次審査の結果発表から2次審査の対策についてお伝えしたいと思います。