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[ career-働き方 ]

歌う看護師(4)人の心を動かすには
自分の言葉で歌うこと

瀬川あやか authored by 瀬川あやか看護師、シンガーソングライター
歌う看護師(4) 人の心を動かすには自分の言葉で歌うこと

 はい。春が近づき、心も鼻もいろんな意味でソワソワしている花粉症の瀬川あやかです。連載も第4回となった「歌う看護師」。前回までは私がなぜ歌う看護師になろうと思ったかについてお話してきました。今回からは私が「歌う看護師になろう」と決意し、具体的に行動し始めたときのことをお話していきたいと思います。

周りの友達が就職活動の中

 大学4年生になる少し手前で一番大きく長い看護実習が終わりました。私たちはその実習で小児・母性・急性期・精神などの領域で様々な看護を学び、自分の描く理想の看護師像と実際の現場をすり合わせながら、卒業したあとのことを本格的に考えなければいけない時期にさしかかっていました。周りの友達が病院の説明会に行ったり大学の進路相談室に足を運んでいたりと、まさに「就職活動」と呼ばれるような毎日を過ごしている一方で、私も「歌う看護師」という私なりの理想を描くようになっていきました。

 「歌う看護師」の「歌う」の部分がシンガーソングライターでなければならなかったのは、自分から出た言葉やメロディーの方がより説得力を持って人の心に寄り添うことができると思ったからです。思い入れが強ければ強いほど、その楽曲には言霊やパワーが宿ります。これは看護実習中に患者さんと接した際にも感じたことで、人の心を動かすものはやはり人の心であると実感したためでした。しかし、「歌う看護師」という理想を掲げた時点で1度も曲を作ったことがなかった私。事務所の社長の「とりあえずかいてみて」という無理難題に音楽理論皆無の頭で感覚的に曲をかきはじめました。

家に引きこもって楽曲制作

 「かきはじめました」と簡単に言いましたが本当に困っていました(笑)。「楽曲にはサビになる部分とそうでない部分とがある」という初歩的な確認から始まった楽曲制作。昔から聴きこんでいたものから初めて聴くものなど、とにかくたくさんの楽曲を聴きまくりました。当時、アーティストやミュージシャンの友達がまだいなかったので、完全独学で家に引きこもり、楽器に向かう日々を送っていました。

 途方に暮れながらも明確だったことは「自分が今、何を伝えたいのか」ということ。それが自分自身のことなのか、誰かを想ったものなのかはバラバラでしたが、走り始めの迷いすら楽しんでしまえるほど、ウキウキしながら作業していたのを覚えています。それくらい、夢を夢だと言える今が幸せでありがたかったのです。そんな中で生まれた6曲。まずはワンコーラスだけ作り、ケータイで録音したものを社長に聴いていただきました。そのうちの2曲を「フルで聴いてみたい」と言っていただいたのがきっかけでできた楽曲の1つが、3月にリリースした初めてのアルバム「SegaWanderful」のリードトラック「妄想スニーカー」でした。

ゼロから1を生み出す大変さ

 ゼロから1を生みだす。それはすごく大変で苦しいこと。ましてや自分の心の内をさらけ出しまくって作った楽曲を人に聴いてもらうなんて、自分の裸を見られているのと同じくらい恥ずかしくて自信のないことでした。少し楽曲のお話になってしまいますが、「妄想スニーカー」では「"かもしれないこと"が大切なんじゃない」と歌わせていただいております。

 何か新しいことを始める時には「失敗するかもしれない」「わかってもらえないかもしれない」と不安に思ってしまうものですが、そこで諦めるのはとてももったいないことなのだと実感しました。私が最初にかいた6曲のうち半分以上がボツになり、今となっては自分でもどんな曲だったのかすら思い出すことができません。しかし、あの瞬間「もしかしたら可能性はゼロじゃないのかもしれない」と思えたことは事実で、それがアルバムのリードトラックとして生まれ変わったことを考えるととても嬉しい気持ちになります。

 気持ちの持ちよう1つでゼロにすることも簡単にできてしまう可能性を信じて、1を作り出す努力をすること。ここで「私努力しました」と言いたいわけではありませんし、そう聞かれると私もまだまだだと思うことばかりなので、「とりあえずやってみる」ことの素晴らしさが少しでも伝わればいいなと思っております。

 知識も経験も圧倒的に少なかった私は「ないならないなりに数を生みだして模索するしかない」と思ったので、デモとして残してあるもので約70曲、波はありますが日々楽曲制作をしてきました。きっと世に出ずに終わっていく楽曲たちもたくさんあるとは思いますが、それらも決して無駄にならないと思うので、これからも1を生み出す私なりの努力をしていきたいと思っています(もちろん世に出すことを大前提に)。

 偉そうな文章になっていないかが大変不安なところではありますが、今回は「歌う看護師」としての走り出しのお話をさせていただきました。次回はそんな私と周りとのギャップや先生・親に対する負い目などにフォーカスをあて、情緒不安定感をアピールしながら(そういう時もありますよね)、看護師として働きながら歌手としてメジャーデビューするまでのお話をさせていただきたいと思いますので、どうぞまた足を運んでやってくださいませ。