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[ career-働き方 ]

お悩み解決!就活探偵団2018「日本に電柱何本ある?」
難関入社面接のなぜ

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 「日本に電柱何本ある?」 難関入社面接のなぜ

 「日本に電柱は何本あると思う?」。面接の場で突然、こう聞かれたら就活生はどうしたらいいだろう。就活の最高峰ともいわれる外資系コンサルティング会社などでは、「フェルミ推定」や「ケース面接」といった採用手法が取り入れられている。こんなやり方で、学生の何を見ようとしているのだろうか。「日系の大手もこの方法を取り入れ始めている」という情報を聞きつけ、就活探偵団が調査した。

「コンビニの売上高」情報なしで推定

 ドアをノックし、部屋に入ると面接官が1人待っている。緊張をほぐすための「アイスブレーク」が終わると、紙とペンを渡されてこう伝えられる。

 「あなたの最寄りのコンビニを1つ決めて、その店舗の1日の売り上げを10分で推定してみて」

 「ではその店舗を経営する立場として、年内に売り上げを30%伸ばすにはどうすればいい?」

 フェルミ推定やケース面接は、こんな感じで進められる。外資系コンサルティング会社の受験にくわしい採用支援サイト・ワンキャリアの編集長、KEN氏(ペンネーム)に聞いてみよう。

 「フェルミ推定とは、手持ちの情報が何もない状態で、『コンビニの1日の売り上げ』など、とらえどころのない数字をいくつかの手がかりをもとに論理的に概算すること。ネットで検索すればわかることだが、自分がもっている前提知識だけで解く」。ノーベル賞を受賞した物理学者、エンリコ・フェルミが得意だったことからこの名がある。

 一方ケース面接は、「どうやってコンビニの売り上げを伸ばすか」など、経営やマーケティングの視点、あるいは発想が試される。学生が出した答えに対して、面接官が「あなたはこう言ったけれど、その数字は実際はもっと少ないのでは」などと質問しながら議論し、合否を決めるのだ。「日本の国内総生産(GDP)を上げるにはどうすればいいか、などといった抽象的なテーマを扱う場合もある」(KEN氏)

面接官は顧客だと思え

 実際にケース面接を行う企業の採用担当者はどう考えているのだろうか。外資系コンサル会社は一般に採用面接については情報を公開しない。何社か取材を断られた末に、PwCコンサルティング(東京・千代田、以下PwC)人事部の金子賢典シニアマネージャーが、実情を打ち明けてくれた。

 2018年卒は積極的に新卒を採用している、という同社。ケース面接は重要な位置づけにある。2017年卒の場合、「エントリーシート→Webテスト→グループディスカッション→ケース面接(個人)→最終面接」という流れで選考活動を行った。

 「待機児童問題をどのように解決すればいいか」。ケース面接では、まずこんな題がだされる。学生は10分から15分で考えをまとめ、2分ほどプレゼンテーションする。面接官との質疑応答は30分から、人によっては1時間の場合もあるという。その後、志望動機など一般的な質問も行い、ケース面接と普通の面接の時間配分が半々というイメージだ。

 「とにかく数多くの保育園をつくればいいのでは」。学生がこう答えると、面接官は「今は足りないが、日本の子どもは減少していく。もし大量に建てて余ったら、その箱物はどうするのか」と返す。こんな具合に質疑を繰り返していく。

「面接官が重視しているのは正解ではなく考えるプロセス」と語る金子氏

 ここで重要なのは、面接官が重視しているのが、「正解ではなく考えるプロセス」(金子氏)である点だ。金子氏は「要素分解をして、抜け漏れなく考えられるかを見る。これはコンサルの仕事の基本だから。無理な難題をいわれたときに、あきらめずに自分の力で考えることができるか、実現可能な提案か、考え方が面白いかなども見ている」と説明する。

スマホの持ち込み自由 しかし...

 実は、同社のケース面接では、スマートフォン(スマホ)の持ち込みが自由だ。しかし安心するのは早い。「スマホを使いすぎる学生ほど、待機児童問題のニュースを調べるなど、情報におぼれて失敗するパターンが多い」。ケース面接のねらいは、あくまでも自分で物事を考えるプロセスや、取り組む姿勢を見ることなのだ。

 ネットなどには対策を伝授するサイトも多いが、対策だけにおぼれるのはマイナスだという。金子氏は「結局は、面接官がその学生と一緒に働きたいかどうか」だと断言する。「コンサルは客商売。うちは特に人事部でなく現場のコンサルタントが面接するので、いわば『仲間探し』のようなもの。学生は、クライアント(顧客)がどう思ってくれるかを考えて、面接官に向き合ってほしい」

 しかし、難関といえる面接を突破したい学生にとっては、対策が気になるのも本音だろう。探偵団は、フェルミ推定やケース面接を突破した学生らに当たってみた。

「独学ではまず無理」

 この春から大手外資系コンサルに就職予定で、有名私大理系大学院2年の男子学生Aさんは、「フェルミ推定は書籍が出ているし、『数字を推定するお題が出たらフェルミ』という対応の仕方が広まってきた。そのため、外資系コンサルを目指す上で対策をしない人はまずいない。むしろ、フェルミ推定だけでは面接官が優劣をつけがたくなってきたのか、ケース面接の比重が高まっている印象だ」と自身の就活を振り返る。

 Aさんの場合、サークルの先輩のつてをたどり、自分が行きたい企業に勤めている社員を探してケース面接やフェルミ推定の特訓をしたそうだ。「基礎的なビジネスの構造を勉強するのも最低限は必要だが、ケース面接は実践あるのみ。独学ではまず無理で、批評・フィードバックしてくれる人を見つけて練習する必要がある」という。

 ケース面接は、論理的に物事を考えることができればいいというだけではない。Aさんが参加したグループディスカッション形式のケース面接では、専門家きどりで、「このケースは、顧客×単価だから......」などといきなり説明をはじめ、「じゃあみなさん考えてください」と仕切り出す学生がいたという。「こうした学生はグループで結論を導き出す目的を達成できないと判断されたのかも」(Aさん)。次の選考には残っていなかったという。

 ワンキャリア副編集長の長谷川嵩明氏は、「ケース面接は、地頭のよさを測る面接と思われがちだが実は違う。コミュニケーション力や素直さを測る側面が大きく、そのことを認識していない学生には思わぬ落とし穴が待っている」と話す。

 仲間探し、顧客目線――こうした採用手法がいかに、その後のビジネスに直結しているかを示すエピソードにも出合った。

 見るからに切れる感じの若手男性社員Bさん。新卒で日系大手企業へ入社し、米国へのMBA(経営学修士)留学などを経て、中途採用で外資コンサル大手に転職した。コンサル業界を目指していた米国留学中に、ケース面接の対策を繰り返すうちに、新たにビジネスを立ち上げた。

 同じくコンサル業界を目指していた仲間と問題を出し合い、毎日6時間、1カ月間集中して模擬面接をしあった。その結果、自分たちでビジネスを立ち上げるほうが早いじゃないか、という結論にいたったという。日本では一般的だが、米国ではまだ普及していない製品の代理店を設立し、年間1千万円の売り上げを計上するまでにいたった。

 その後事業を売却し、最終的に現在のコンサル会社に入社したが、「その製品が、米国ではなぜ普及していないのか、というケース面接を繰り返すうちに、ビジネスを思い立った」という。

空港で一晩一緒に過ごせるか

 こうした採用手法をとっているのはコンサル会社だけなのだろうか――。情報をたどって行き着いたのは就活生が憧れる企業の代表格の一つ、グーグル日本法人(東京・港)だ。聞くと、「かつてフェルミ推定やケース面接を取り入れていたこともあったが、入社後のパフォーマンスに直結しないだろうと判断してやめた」という。

「エアポートテスト」は採用に対する考え方の一つだという(グーグルの小山氏)

 拍子抜けしたが、さらに食い下がると、採用活動でグローバルに用いられるユニークな考え方を教えてくれた。面接で聞かれる詳細なテーマなどについては非公表だが、一つのヒントが「エアポートテスト」という考え方だという。これは、面接官がその学生と出張し、飛行機が欠航となり空港で二人きりになったときに、一晩一緒に過ごせる人かどうかを頭において面接する概念だ。

 人事部プログラムリードの小山弥生氏は「『テスト』とあるが面接の方法ではなく、あくまで考え方の一つ。これを念頭に対話することで、グーグルが求める人材要件を満たすことにもつながる」と話す。

 グーグルの面接も、正解を追求するのでなく思考プロセスを見る点で、ケース面接と大枠は似ている。「学生の多くは、面接官がどう答えてほしいかを一生懸命考える。そうではなく、あなたならどうするかを深掘りする。仕事の場で問題解決するときに正しい答えはないのだから」(小山氏)

目的設定が大事

 ワンキャリアのKEN氏によれば、ここ2~3年でフェルミ推定やケース面接の考え方はより一般化してきているという。ある大手商社でも「まだ要素を取り入れるレベルではあるが、入社後の適応力を測る目的で試している」と明かす。

 論理的に物事を考える発想は、こうした難関企業だけでなく、一般の就活にもためになりそうだ。KEN氏は「フェルミ推定やケース面接は目的設定から始まる。この目的設定こそ、すべての学生が面接前にすべきことだ」と主張する。

 例えば「アリの脚はなぜ6本だと思うか」という問いは、「そもそもアリの脚はなんのために存在するか」という目的設定から始まる。「エサをとりにいく」「緊急時に逃げる」という目的を見極められれば、「6本あると機動力が高まるため」などといった考え方が導かれる。

 志望動機や自己PRに転用してみよう。なぜこの会社に自分が必要なのか。会社の目的と自分の目的を合致させることができれば、その会社で自分が活躍する姿を面接官にイメージさせることができるだろう。「面接は自分が言いたいことを言う場ではない」(KEN氏)。難関面接と敬遠せずに、自分の就活準備に取り入れてみたらどうだろう。
(夏目祐介、松本千恵)[日経電子版2017年3月16日付]

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