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意外と知らないバイトの常識(1)バイト選びで重視したいこと

上西充子 authored by 上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授
意外と知らないバイトの常識(1) バイト選びで重視したいこと
撮影協力:東京理科大学

 新年度が始まりました。この春に大学に入学した皆さんも進級した皆さんも、時間割を組んで新たにバイトを探そうとしているかもしれません。この連載では、そうした皆さんを念頭に、大学生活の中でのアルバイトとの付き合い方を考えていきたいと思います。

学生であることを尊重しない「ブラックバイト」に注意

 皆さんの多くは「ブラックバイト」という言葉を聞いたことがあるでしょう。その言葉から、何を連想するでしょうか? 暴言や暴力などのパワハラ(パワー・ハラスメント)が横行している職場でしょうか? ノルマを達成できないと自費で商品の買い取りを強要されるような職場でしょうか? 働いた分の賃金を正当に支払わない職場でしょうか?

 そういう問題ももちろん大きな問題であり、いずれこの連載でも取り上げたいと考えていますが、この言葉はもともとは、学生バイトに特有の問題に焦点を当てた言葉です。「ブラックバイト」の名づけ親である中京大学の大内裕和教授は、「ブラックバイト」を「学生であることを尊重しないアルバイトのこと」と定義づけているのです(大内裕和『ブラックバイトに騙されるな!』集英社、2016年)。

 では「学生であることを尊重しないアルバイト」とはどういう意味でしょう。典型的なのは「シフトの強要」(希望する以上のシフト勤務を求められること)です。例えば、週に3日だけ働きたいのに、週に5日の勤務を求めてくる。土曜は自由に過ごしたいのに、「なぜ土曜に入れないの? 授業はないでしょう?」と問い詰められる。夜9時までの勤務の約束なのに夜11時までの勤務延長を求められる、等々。

 「シフトの強要」の背景には職場の人手不足があります。実際にその職場で働いてみれば、「自分がシフトに入らないと、みんなが忙しくて大変になりそうだな」ということはイメージできます。そういう中で「いいえ、その日のシフトには入りません」というのは、なかなか勇気がいることです。

 けれども、シフト入りの要求に応え続けていると、自分の大学生活が危うくなります。

 「授業は出なくてもレポートさえ出せば単位はとれるでしょ?」と言われるかもしれませんが、今の大学は出席管理も厳しくなっており、期末レポートや期末試験だけでなく、授業内レポートや授業中のグループディスカッション・発表などを成績評価要素に加える場合も多くあります。日々の授業課題もあります。

 夜遅くまでの勤務を続けていると、朝起きるのがつらくなり、必修の語学の授業に出られなくなることもありえます。家で予習やレポート課題に取り組む時間も取れなくなるでしょう。単位取得が滞ると、留年の危険性もあります。

 土曜日は授業がないとしても、大学生らしく様々な場に出向いてほしいというのが教員側の願いです。大型書店で興味をひく本をゆっくり選んでみる、話題の映画を見てみる、大学内外で開催されるシンポジウムに参加してみる、サークル活動や社会活動に参加する、等々。

 つまり大学生である皆さんは、大学生活を送ることとバイトをすることをどうバランスさせ、コントロールしていくかに自覚的であってほしいのです。そのためには、より多くシフトに入ることを求めてくる職場に対し、「NO」を言うことも必要です。

労働契約のもとで働く

 職場の人手が足りなくて忙しい状況の中で、シフト入りの要求に「NO」と言うことは、「無責任な行為」や「わがままな行為」だと考えてしまうかもしれません。けれども、そこで考えてほしいのは、バイトをする皆さんは「労働契約のもとで働く労働者」だということです。

 「労働者」としての皆さんには、労働基準法や労働契約法、最低賃金法などの様々な労働法が適用されます。労働法に違反した働き方を皆さんにさせることは、認められていません。

 例えば地域の最低賃金を下回る時給しか払わないことは違法です。「君は仕事が遅いから時給は500円しか払えないよ」などという言い分は認められないのです。皆さんは地域の最低賃金を知っていますか? 知らないなら、ネットで「最低賃金 厚生労働省」と検索して、自分の地域の最低賃金を調べてみてください。

 労働法の一つである労働契約法にはこういう条文があります(ネットで法律の名称を検索すると見られます)。

(労働契約の原則)
第三条  労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

 皆さんは「労働契約」に基づいて働くのです。言われたことにすべて従わなければいけないのではありません(それでは奴隷です)。そしてその労働契約の内容は、労働者と使用者が「対等の立場」で話し合って「合意」した内容でなければなりません。無理やり押し付けられた労働条件のもとで働く必要はないのです。もしバイトの面接に行って、自分の希望と合わず、自分の希望を尊重してくれなかった場合には、そこで働くことを承諾せずに帰ってきてもよいのです。

 「合意」であるということは、自分の意志をはっきり持ったうえで交渉に臨む必要がある、ということでもあります。バイトを募集している多くの職場は皆さんに、より多くの日数とより多くの時間数に働いてくれることを求めています。けれども前述の通り、皆さんには大学生としての学生生活があります。

 その中で、どの曜日に、どの時間帯に、どのくらいの時間数、どういう仕事で働くのか。それをよく考えた上で、バイトを選び、面接に臨んでほしいのです。働く曜日・時間帯などは「週2日以上」「土日いずれか勤務できる方」など、募集の段階ではおおざっぱなことしか書かれていない場合がほとんどです。そうであるだけに、「こういう働き方をしたい」という自分の意志をあらかじめ明確にしておくことが大切なのです。

どんなバイトを選ぶか

 大学生になって初めてバイトをしようと考えている方は、できればバイトの内容の「おもしろさ」よりも、大学生活との両立のしやすさを優先してほしいと思います。バイトがおもしろいことは結構なことですが、バイトに自分の精力を注ぎこんで大学は留年や中退に至るような事態は、皆さんは望んでいないはずです。また、形だけ単位を取って卒業するのは、仮にそれが可能だとしても、高い授業料を払って大学に来ているのに、もったいなすぎます。

 では、大学生活と両立しやすいバイトとはどんなバイトだと思いますか?

 深夜時間帯(夜10時~朝5時)のバイトは、できれば避けたいものです。深夜時間帯は昼間の時間帯に比べ25%以上増しの賃金の支払いが労働基準法により求められているため(つまり、時給1,000円なら深夜は1,250円以上)、「お得感」があるかもしれませんし、授業とのバッティングも気にしなくて済みますが、どうしても生活リズムが夜型になってしまいます。午前中の授業に出られない、出ても眠くて集中できない、となる恐れがあります。

 シフトが固定であるバイト(この曜日のこの時間帯、と働く時間が決まっているバイト)に比べ、その都度希望を出してシフトを調整する形になっているバイトは、一見したところよさそうに見えます。けれども、自分の側に希望があるのと同時に、使用者側にも「この日は働いてほしい」という希望があります。その希望がうまく合うとは限りません。先ほど「合意」に基づいて働くと言いましたが、なんとか「合意」させようと強くシフト入りを迫られることもあります。LINEでしょっちゅう店長からシフト入りの要請がきて気が重い、といった学生の声も聞きます。そう考えると、最初のバイトは曜日と時間帯が固定であるバイトの方が、働きやすいように思います。

事前にバイト先を見てみる

 ただし、シフトが固定でも、休みたい日・休む必要がある日は出てくるでしょう。学部行事に出席しなければいけないとか、試合があるとか、期末試験期間だとか。そういうときに休めるためには、職場の人員配置がぎりぎりでないことが重要です。一人でも欠けるとお店が回らないような職場だと、休みたくても休めません。働こうと考えている職場があれば、事前に様子を見に行くとよいでしょう。

 様子を見に行くときには、どういう仕事をやっているか、忙しそうに働いているかどうか、を見ることはもちろんですが、それだけでなく、職場に正社員が配置されているか、従業員の年齢層は多様であるか、にも注目してみてください。

 職場に正社員が見当たらず、若いバイトだけが働いているような職場だと、「同じ年齢層の人と働けて楽しそう」と思うかもしれませんが、ちょっと想像してみてください。試験期間はどの大学もほぼ同じ時期です。自分が休みたい時期は、同僚も休みたい時期とかぶります。時間帯についても同様です。年度がわりの時期には、就職活動や卒業でいっせいに先輩が辞めていく、ということもありえます。つまり、「学生ばかり」という同質性の高い職場は、実は大学生活との両立という観点から言うと、あまり働きやすい職場とは言えません。

 職場の従業員の年齢構成が多様であれば、そのような問題を回避できます。学生である皆さんと主婦パートの方々が同じ職場で働いているような場合は、使用者もシフトの調整がしやすいでしょう。

 また、正社員ができれば常時2人以上いることが望ましいと考えます。その方が自分の休みが取りやすいだろう、ということもあるのですが、それだけでなく、正社員が店長一人だけ、といった職場は、その店長のやり方が自分の働き方に大きく影響してしまう恐れがあるからです。シフトを組んだり、日々の業務を指示したり、店長の権限は大きなものです。その店長がシフト入りを強要する人であったり、パワハラやセクハラをする人であったり、きちんと給与明細書を渡してくれない人であったりすると苦労します。正社員が常時2人以上いることは、そのような事態に陥ることをある程度予防する効果があると考えます。

 それらを総合して考えてみると、「職場の規模がある程度大きく、複数の正社員が配置されており、年齢層も多様で、曜日・時間帯固定で働ける職場」というのが、大学生活との両立が比較的しやすい職場と考えられます。例えば大手スーパーのレジ担当などがそれに該当します。大手スーパーであれば、個人の経営者によるお店などに比べ、労働法を遵守したしっかりとした労務管理を行っていることも期待できます。他にもいろいろな選択肢があるでしょうが、上記に紹介した判断基準を頭に入れて、バイトを探してみてください。

面接時には労働条件の書面をもらおう

 先ほど皆さんは労働契約に基づいて働くのだという話をしました。どういう仕事をするのか、いつ働くのか、時給はいくらか、交通費の支給はあるのか、自分で用意しなければいけないものはあるのか、などの労働条件は面接の際によく確認してください。アパレルで働くときには、売り場の洋服を社員割引で購入して着用するように求められる場合もありますので、そのような条件についてもよく確認し、納得のできるものであるか考えましょう。

 労働条件のうち、下記の6項目は必ず書面を渡すことによって明示しなければいけないことが労働基準法に定められています。

(1) 契約はいつまでか
(2) 契約期間に定めのある契約を更新するときのきまり
(3) どこでどんな仕事をするのか
(4) 勤務時間や休みはどうなっているのか
(5) 賃金はどのように支払われるのか
(6) 辞めるときのきまり

 労働条件を記したこの書面は「労働条件通知書」と呼ばれます。面接の際は口頭ではなく書面で労働条件を確認し、その書面を必ず持ち帰って保管してください。

 実は口頭の説明だけで済ませたり、書面を見せて説明するものの書面を渡してくれなかったり、という例も少なくありません。厚生労働省が2015年に行った調査では、大学生が経験したアルバイトの6割近くで労働条件の書面が渡されていませんでした(大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果)。

 書面が渡されていないと、あとで「話が違う」ということになりかねません。
「時給は1,000円のはずですよね?」
「最初は900円だよ」
「最初って、いつまでですか?」
「まあ、仕事ができるようになるまでね」
等々。

 そういうことにならないように、研修時の時給が通常の時給よりも低いのであればそれが何円でいつまでの期間がその時給であるのかなどを、書面にちゃんと書き込んでもらうことが大切です(なお、東京都の最低賃金は932円です。研修時であっても最低賃金を下回る時給は違法です)。

 また、働く曜日と時間帯が書面で確定していれば、それ以外の曜日・時間帯に働くことを求められても、断ることができます。皆さんはあくまで、「労働契約」の範囲で働けばよいのであって、それを超える要求に従う義務はないからです。

 なお、断り切れず、納得できない内容の合意をしてしまうこともあるでしょう。その場合、特に労働法に違反する内容については、たとえ一旦合意してしまったとしても、違法な約束には拘束されないことを覚えておいてください。例えば「遅刻をしたら罰金1,000円」といった約束をすることは法的に認められていませんので、合意した形になっていても支払う必要はありません。

トラブルに備える

 以上、さしあたりバイトを始める際に知っておいていただきたいことを書いてきました。その他、バイトをする際に知っておいておきたいことを、労働法の専門家である石田眞先生・浅倉むつ子先生と共に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)という本にこの春、まとめましたので、よろしければそちらにも目を通してみてください。アルバイトに加え、インターンシップや就職活動など、卒業までに直面しうる労働トラブルを43項目に分けて具体的に解説しています。

 そのほか、厚生労働省が設けている「確かめよう労働条件」というサイト(http://www.check-roudou.mhlw.go.jp/)にも、バイトをする際に知っておきたいことがまとめられていますので、一度開いてみることをお勧めします。困ったことがあったら、親に相談してもよいですが、そちらのサイトに記されている公的な相談窓口(都道府県の総合労働センターなど)も遠慮なく活用するとよいでしょう。

法律監修:嶋﨑量(弁護士・神奈川総合法律事務所)

大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A

著者 : 石田 眞, 浅倉 むつ子, 上西 充子
出版 : 旬報社
価格 : 994円 (税込み)

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