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[ liberal arts-大学生の常識 ]

数学にハマる大人の定理
解けた快感、醍醐味

数学にハマる大人の定理解けた快感、醍醐味

 数学を今一度学び、楽しむ大人たちが現れている。「子どもの頃からの苦手を克服したい」――。そんな大人の思いを捉えた教室や講座が盛況だ。数学ファンが数学の面白さをプレゼンテーションで紹介する交流会も人気を集めている。大人だから楽しめる数学の世界とはどんなものなのか。

長女に教えられずに奮起

 平日の日中、渋谷駅から徒歩3分のビル4階。間仕切りされた個室で講師がホワイトボードを使って数学の授業を行う。内容は三角関数や微分積分などの高校数学。1対1の個別指導だが、生徒は翻訳家、池田由美さん(48)だ。熱心にノートを取り、分からない点はすぐ質問する。

1対1の個別指導でじっくり学ぶ「大人のための数学教室 和(なごみ)」が人気を集めている。

 池田さんは英国の大学の経済学部を卒業後、数学とは無縁の生活を送っていたが、現在高校1年生になる長女が中学受験を控えていた時、算数の楽しさを思い出した。「かみくだいて教えられず、くやしかった」。改めて自分も勉強しようと、昨年春から「大人のための数学教室 和(なごみ)」に月2回通う。

 和(わ)から(東京・渋谷)が東京、大阪で運営する同教室では、1カ月あたり主に30~40代の男女約450人が学ぶ。授業料は50分間で7千~9500円程度。仕事活用、苦手克服、趣味など学ぶきっかけは様々だ。

 数学の魅力は様々な解法を用いて一つの答えを探し出すところにある、と池田さん。「テストのために勉強していた学生時代とは違い、今は数学をじっくり味わえる」。夜に家のダイニングで長女と向かい合い「私も数学やっていますから」という"ドヤ顔"を長女に見せつけるらしい。

 授業とはまた違うアプローチで数学を解説する講座も人気を集める。

方程式の歴史をテーマに行われた「大人のための数学カフェ」(東京都世田谷区の玉川高島屋S・C)

 1月中旬、玉川高島屋S・C(東京・世田谷)のアクティビティスペース「玉川テラス」。スクリーンにディオファントス、ガウスなどの数学者と数式が次々と表示されていく。毎月1回、日曜日に開催される講座「大人のための数学カフェ」では、数式の歴史といったユニークな視点で数学を学ぶことができる。

あっという間の2時間

 この日のテーマは「方程式物語」。1次から5次までの方程式に数学者が挑み続けてきた歴史的な経緯が、時代背景を交えて解説された。主に30~50代の男女十数人は桜井進講師の話に真剣な顔で耳を傾ける。2時間はあっという間に過ぎた。参加費は2千円。

 中学時代に試験によるクラス分けが原因で数学嫌いになった東京都世田谷区の主婦、黒須怜奈さん(31)は2歳の長男に同じ思いをさせまいと参加した。「自己満足ですが、数学が好きと言えるようになれてうれしい」。数学者たちが人生を懸けてきたと知ると方程式が尊く感じられる。

 日本初の暦づくりに挑んだ天文学者を描いた「天地明察」などの映画も講座の題材に。算数でつまずいた横浜市の音楽講師、ヘルツレ・雅子さん(54)は「教科書を越えた数学を分かりやすく学べて楽しい」と語る。

 数学ファンが集う交流会も盛況だ。昨年12月、東京メトロ六本木駅(東京・港)近くのクラブで「ロマンティック数学ナイト」が開催された。数学好きがステージで数学の面白さを約5分間プレゼンテーションする。200人以上が参加した会場は熱気であふれた。

 ある男性(39)はカップルの交わらない会話を例に挙げ「前提」が大切と説明。別の男性は「『行けたら行く』と言う人はなぜ来ないのか」について「行ける」と「行く」の真偽を用いて、「行けるけど行かないという行動を取らない限り嘘をついたことにはならない。だから来ない」と結論付け、会場が沸いた。

「ロマンティック数学ナイト」の歓談タイムではプレゼンターと参加者の議論が白熱した(東京都港区のスーパー・デラックス)

 数学を専攻する都内の大学4年の女性(22)は同級生と一緒に参加した。「数学は社会問題からどうでもよさそうな事象まで説明することができる」と話す。マニアックな数学に関する話ができる友人がいないという団体職員の女性(32)は「イベントでは思う存分語り合える」と楽しそう。

 子どもの頃からの数学嫌いに共通する理由は、試験のため、公式や定理を頭に詰め込まされていたから。「なぜその答えになるのか」「成立しない場合はないのか」を理解できた時に快感を得られるのが数学の醍醐味だ。学生時代に数学が嫌いになったあなたも、大人になった今だからこそ、その魅力に気付くことができるかもしれない。
(小田浩靖)[日経MJ2017年1月27日付、日経電子版から転載]

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