日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

「Newton」出版社
多角化の失敗で沈む

藤森徹 authored by 藤森徹帝国データバンク東京支社情報部部長
「Newton」出版社多角化の失敗で沈む

 科学雑誌「Newton」を発行するニュートンプレス(東京・渋谷)が2月20日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請した。豊富なカラー写真やイラスト、分かりやすい解説を盛り込んだ誌面に定評があった。一方で、前社長は経営破綻のわずか3日前に出資法違反の疑いで逮捕されていた。30年以上の歴史を持つ人気科学雑誌を手がける出版社にいったい何があったのか。

定期購読の会員数は約1万人

 ニュートンプレスは1974年10月に小・中・高校生向けの家庭用学習教材「トレーニングペーパー」発行の教育社(現キョーイクソフト)の販売部門として設立。81年にはNewtonの発行を開始した。この分野の草分けの一つとして知名度があったほか、誌面の評価も高く、著名な大学教授らが頻繁に誌面に登場していた。国内で発行するだけでなく、アジア、イタリアなどでも事業を展開していた。

 ニュートンプレスにとって最初のつまづきは、教育社からトレーニングペーパーを移管したことだった。

 事業拡大を狙ったものの、少子化や他社との競争で実績が伸びなかった。返品率は70%を超えていたといわれ、2004年9月期は4億円を超える赤字となった。これを契機に借入金の返済が滞り、一部のメガバンクが取引の見直しを実施。証券会社系のサービサー(債権買い取り会社)に債権が売却された後、最終的には信用組合が債権を肩代わる形でメーンバンクとなった。

ニュートンプレスの本社が入居するビル(東京都渋谷区)

 取引金融機関が次々に変わったことは、その後の経営改革の遅れや混乱につながった面があるかもしれない。また一時、上場準備を進めたが結局、投資事業組合が所有していた株式は前社長が買い取る形になった。

 それでもNewtonの事業自体は比較的堅調だった。その理由は直販を生かした独自の販売体制にあった。

 Newtonの国内販売は、取次店経由による書店での販売と定期購読会員を対象にしたニュートンプレスの直接販売の2本立てで行っていた。このうち、定期購読の会員数は約1万人ほどだった。直販部門の強みを生かすため、読者モニターからのフィードバックで評判のよかった特集や企画を調査。その結果を本誌や別冊ムックなどの誌面づくりに生かしていたようだ。その結果、例えば、11年6月号の「福島原発・超巨大地震」、7月号の「原発と放射能」の返品率が1ケタという号もあったという。直販を持つ強みを背景にして発行部数自体の絞り込みも進めており、通常50%ともいわれる書店の返品率を30%以内に抑えていた。

 ニュートンプレスは2011年9月期に売上高が約17億600万円とピークとなった。出版不況もあり、ここ3年間の売上高はピーク時には及ばないものの、12億円台で推移。営業利益も出ていた。

 だが、その背後では別の危機が迫っていた。

 08年ごろから前社長が出資する別の会社、ニュートンを通じて新規事業の開発を進めたが、これが裏目に出た。タブレット端末による双方向学習が可能な教育アプリケーション開発だったが、見込みが外れた。総投資金額は23億円にまで膨らんだが、収益化に時間がかかり、回収が困難となった。

逮捕の3日後に民事再生法の適用を申請

 これらの資金のうち、約6億円を14年12月から16年10月にかけて、定期購読者会員や株主など約300人から借りていた。許可なく出資を募っていたうえ、ニュートンプレスでは仮払金として処理されていたが、ほとんどが回収できなかった。ニュートンプレスは実質的な債務超過状態となり、個人、金融機関からの借り入れに対する返済がストップ。1月30日と2月13日に説明会を実施したが、出資者の一部は山口県警に相談。その結果2月17日、前社長と社員一人が出資法違反の疑いで逮捕される事態となり、古くからの読者や科学ファン、書店・出版関係者を驚かせた。

 逮捕がメデイアで報じられたことで債権者による個別回収が予想され、ニュートンプレスは任意での再建を断念。逮捕からわずか3日後に東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約20億円となった。

 ニュートンプレスはNewtonの発行の継続を表明している。科学を通して真実を追究する雑誌の出版社が法令違反で逮捕者を出し、経営が行き詰まる皮肉な結果となった。
[日経電子版2017年3月1日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>