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[ career-働き方 ]

お悩み解決!就活探偵団2018「転勤ノー」 あえて一般職を選ぶ
就活生の反乱

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 「転勤ノー」 あえて一般職を選ぶ就活生の反乱

 一昔前までは女子学生の就職の「定番」で、職場の華とのイメージさえあった一般職。事務職、あるいは転勤のない「エリア限定職」などと呼び名はさまざまだが、いわゆる総合職と別の採用区分を設け、職務内容に差をつけている企業は今も多い。近年、この職種に、「総合職でも当然」と思える高学歴の就活生が殺到しているという。就活探偵団が実態を探った。

単なる「ゆるキャリ」志向なのか

 企業の説明会が連日開かれている3月下旬。説明会の合間に取材に応じてくれたAさんは、偏差値では3本の指に入る都内の私大3年の女子学生だ。第1志望は総合商社の一般職。「周りには『総合職を目指す』と言っている女子もいますけど、自分とはタイプが違うと思うんです」と屈託がない。「仕事がつらくてヒイヒイ言っている総合職の先輩の話もよく聞きます。転勤と結婚のタイミングがぶつかったら、婚期を逃しそうだし。仕事の内容よりも人生設計が優先ですね」

イラスト=篠原真紀

 同様の私大トップ校を今春卒業するBさんは、第1志望の夢かなわず、4月からIT(情報技術)企業の一般職として社会人生活のスタートを切る。「志望の業界に行けないのなら一般職と決めていました」と就活を振り返るBさんにとっても、決め手はプライベートの充実だ。「結婚しても仕事を続けられそうですし。転勤がないという理由で、金融などのエリア総合職を選ぶ女子もいますよ」

 転勤せずに済む仕事に就いて、プライベートを大切にしたい。一般職を目指すメリットはまずはそこにあるのだろう。ある大手商社では、一般職への応募者が金融のエリア総合職と併願しているケースが多いという。「そこそこ稼ぎたいが転勤はイヤだという理由なのだろう」(採用担当者)

 法政大学キャリアセンターの内田貴之課長に尋ねると、「企業が支援制度を整えても、総合職のキャリアは結婚や妊娠、出産のタイミングで断絶しやすい。そう気付いて、ゆるゆるとキャリアを続けられる一般職のほうがいいと考える学生が目立つ」と指摘してくれた。早稲田大学の佐々木ひとみキャリアセンター長も「そういう学生は以前もいたが、最近は『働き方の信条』としてはっきり口に出す傾向が強い」と明かす。バリバリ働く「バリキャリ」ならぬ、いわば「ゆるキャリ」志向がはっきりしてきたというわけだ。やはり、転勤がなく残業も少ない「ゆるさ」がキーワードなのか――。

「プロ意識」で地域にどっぷり

説明会の合間に取材に応じてくれたAさん。「仕事の内容より人生設計が優先です」

 上智大学を昨年卒業し、IT企業で社内向けシステム開発の部署に勤めるCさんは、「あまり総合職と仕事の内容に差はありませんよ」と話す。Cさんが面接の際に強調したのは、「心身ともに健康に働けること」。だが、他に総合職で受けた企業では、「これだからゆとりは......」というような反応ばかり。今の会社は、「そういう要望を理解してくれて、一般職を薦めてくれたのがポイントだった」という。総合職は成果に応じて報酬が出るが、一般職は時間で報酬が決まる。「効率の悪い働き方はしたくない」という信条を持つCさんにとっては、「限られた時間で成果を出す仕事があっている」という。

 NTT東日本は、昨年6月から、本社採用のほかに、総合会社と呼ばれる地域子会社での採用を開始した。「NTT東日本-北海道」や「同-南関東」など4社には合計5000人の就活生が応募。今春、100人が入社する。本社採用はここ数年250人前後だが、それにプラスして100人が加わった格好だ。

 初任給の給与水準は本社採用よりも抑えられているが、転勤はない。同社広報によると、「転勤がない、ということよりは、生まれ育った場所で、慣れ親しんだ企業や人を相手に仕事をしたい、というプロ意識を持つ学生の要望が多かったのでは」と話す。

 メガバンクの一般職で活躍中のDさんは、やはりトップレベルの都内女子大出身だが、「入社当初は総合職よりも残業時間の上限が低く、給与に差が出たが、ある程度昇格すると上限は同じになるので、今は問題ない」と話す。それよりも重視しているのが「総合職より異動が少ないので、プロになれる」という点だ。

 転勤がない、ということは逆にいえば、その地域や市場にどっぷり没頭できるということ。ゆとりだけでなく、「プロ意識」という言葉は見過ごせないポイントだ。

レベルが上がる一般職の仕事

 「一般職の仕事が高度になっているのも人気の理由では」と話すのは三井物産の古川智章・人材開発室長だ。「一般職の役割は総合職のサポート役だが、最近では職務内容も広範囲にわたる。責任も裁量もある仕事を任せているし、ときには海外出張もある」

 住友商事の藤和恒・採用チーム長も、「お茶くみとかコピー取りだけだということはあり得ない。総合職が契約獲得に専念できるように、レベルの高い後方支援をするパートナーと位置付けている」と説明する。「契約獲得は基本的に総合職の仕事だが、取引先とやりとりする中で仲良くなり、契約の話をしてくる一般職すらいる」という。

 採用コンサルタントの谷出正直氏は、こうした実情を踏まえ、「高度なノウハウを職場で継承するために、派遣社員ではない正社員としての一般職の重みが増している。大手企業が一般職に求めるのは、もはや単純労働ではなく高付加価値の仕事だ」と見立てる。つまり、一般職の仕事が高度化して、やりがいや手応えのあるものに変化しているという構図だ。

 同じく私大トップ校から商社の一般職を志望する3年女子のEさんは、「ただ言われたことをこなすだけだと思っていたけど、説明を聞いたら違いました。総合職の誰からでも、一緒に仕事をしたいと言われる一般職になりたいです」と目を輝かせる。

Eさんは一般職として「総合職の誰からでも一緒に仕事をしたいと言われたい」という

 「転勤なし」「プロ意識」「時間内で仕事をこなす妙味」――こうした新しい価値観の学生が殺到する一般職は、もはや「狭き門」だ。三井物産の場合、競争倍率は「総合職と同程度」(古川室長)だ。住友商事では、20人程度の採用枠に1500人規模が殺到。140人前後の枠に「7000人ほどエントリーする」(藤チーム長)総合職より、競争倍率は高い計算になる。

 リクルートキャリア就職みらい研究所の岡崎仁美所長によれば、「そもそも日本で一般的な採用の考え方では、学力が高いと成長の伸びしろがあるとみられ、有利になる」。結果として、一般職の採用でも、高学歴で「履歴書がピカピカ」(岡崎所長)の学生たちが競い合う選考になりがちだという。

総合職との違いは結局......

 総合商社の一般職をめざす冒頭のAさんも「一般職だからといって簡単に入れると安心はしていません。でも働きやすい職種はどこも人気です。競争が激しいからといって逃げずに挑戦します」とけなげに語る。やりがいのある仕事と余裕のあるプライベートを両立できる「理想の人生」(Aさん)をつかむチャンスと思えば、いかに門が狭くとも、ぜひとも一般職でと熱望するのは自然ともいえる。

 一般職が高度化し、やりがいのある仕事になったため、実質的には総合職に近くなり、互いを隔てる垣根が薄れてきた――。大まかにみれば、一般職と総合職の違いを巡る実情はそんなところだろう。ならば、一般職の採用枠に殺到する就活生にとって、この両者の区別は、結局は転勤があり得るかどうか、ということに帰着するのかもしれない。

 岡崎所長は、「職種も配属も会社のいいなりになりながら、管理職を目指していくという、日本型の働き方そのものに、シビアな目を向ける学生が増えている」と指摘する。確かに、会社の都合で好きなように転勤させることのできる雇用慣行は、欧米ではまれだ。転勤の有無を尺度に会社を選ぶ高学歴の就活生の姿は、この慣行に対する無言の反乱ともいえそうだ。
(岩崎航、松元英樹、松本千恵、夏目祐介)[日経電子版2017年3月30日付]

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