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[ liberal arts-大学生の常識 ]

人生を経済学で考えよう(1)女子校出身者は競争心が強い!?

authored by 慶應大学 中室牧子ゼミ
人生を経済学で考えよう(1) 女子校出身者は競争心が強い!?

 こんにちは。慶應義塾大学中室牧子ゼミナールです。私たちは、「人はなぜ結婚するのか」「どういう勉強が一番効果が上がるか」など、人生や社会で感じるさまざまな疑問を、経済学の手法で明らかにしようと勉強しています。皆さんも、これから私たちと一緒に考えてみてください。

なぜ女性のリーダーは少ないのか

 さて、今回は「女性の『競争嫌い』は本当か?」を検証したいと思います。というと、男性も女性も「女性だけが競争嫌い? そんなことないよ」と思う人が多いかもしれません。確かに、男女の平等が進んできた日本ですが、大学までは男女同じように勉強してきても、社会に出ると、働き方という点では男女の差は大きくなります。

 賃金や昇進など、労働市場での成果に男女差があることを示す研究は枚挙に暇がありません。厚生労働省によると、2013年現在も女性の賃金は男性の約7割でしかありません。昇進や昇格にも差があることを示した研究もあり、先進国の中でも依然として課題を抱えた国と見なされています。

慶應義塾大学三田キャンパスで(左から2人目が中川舞音)

 昨年、トランプ大統領と米国大統領選挙を戦ったヒラリー・クリントン氏が、その敗戦を認めたスピーチで「いまだ最も高い『ガラスの天井』は打ち破られていません。しかし、いつか誰かが、願わくは私たちが考えるよりも早く、その日はやってくるでしょう」と述べたことは大変印象的でした。日本だけでなく、アメリカにすら、女性がリーダーシップを取り社会で活躍することには高いハードルがあるのだということを改めて認識させられたからです。

 そもそもなぜ、労働市場における成果に男女差があるのでしょうか。これには様々な仮説がありますが、最近の経済学で注目を集めているのは、「男女では競争に対する姿勢や選好に違いがある」という仮説です。つまり、「男子は競争を好み、女子は競争を嫌う」というのです。この違いで、労働市場での成果の男女差の一部が説明できるのではないか、ということです。

 アメリカの経済学者が面白い実験をしています。アフリカのタンザニアの2つの村で、村人にボールをバケツに投げ入れるという、玉入れのゲームをしてもらったのです。玉入れに成功すれば成功報酬をもらえます。しかし、この実験では、その成功報酬には2つの選択肢が与えられました。1つは、ボールが1個バケツに入るごとに1.5ドル(=約150円)の成功報酬がもらえます。もう1つは、ボール1個あたり4.5ドル(=約450円)なのですが、競争相手よりもボールが多く入らなければ報酬は受け取れません。

 このような2つの選択肢があったとして、後者を選択する人は、「競争を好む人」らしいと考えられます。さらにこの実験が面白かったのは、男性が力を持っている父系社会であるマサイ族の村と女性が力を持っている母系社会であるカーシ族の村で行われたという点です。

 さて、結果はどうなったのでしょうか。マサイ族(父系社会)では、男性の50%、女性の26%が競争を選びました。アメリカで行われた同様の実験では、男性の69%、女性の31%が競争を選んだことがわかっていますので、やはり競争を好むのは男性であるということがわかります。

 しかし、カーシ族(母系社会)については、全く逆の結果が得られています。男性の39%、女性の54%が競争を選んだのです。つまり、競争を好むかどうかは、生来の男女差というよりは、女性が社会の中で果たす役割と無関係ではないということのようです。

女子校出身者は競争心が強い?

 そうだとすれば、社会的な環境が変われば、女性の競争心を高めることはできるのかもしれません。最近、国内外で行われた経済学の研究の中には、女子高や女子大で教育を受けた女性は、共学で教育を受けた女性よりも競争心が強いということを示した研究があります。

慶應義塾大学中室牧子ゼミナールのメンバー

 これがなぜかということを考えてみると、女子高や女子大で教育を受ける時には、男性の存在を意識することがないため、挑戦しやすいということがあるのかもしれません。男性がいれば、社会的に期待されている役割を果たそうとして行動するということもあるでしょう。

 例えば、「ジェットコースターの先頭に乗りたい人!」と聞かれて、(本当は先頭に乗りたいのに)手を上げられなかった、なんていう経験がある女性はいるはずです。「ジェットコースターの先頭に乗りたがるのは男子だ」という性役割意識があるので、ついそれに従ってしまっているのです。

「競争嫌い」はもったいない!

 このような仮説を検証できないかと考えた私たちは、女性が男性の存在を意識すると、競争を選択するかどうかの選択に変化があるかどうかを検証するため、キャンパスでいくつかの実験を行いました。

中室牧子・慶應義塾大学総合政策学部准教授は、教育経済学が専門。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。最新刊は写真の津川友介との共著『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)。

 ここでは、アフリカで行われた玉入れのゲームに近いようなことを行っていますが、このゲームに参加しているのが誰なのかということを被験者は知らされていません。そういう環境の中で、男性が参加していることを故意に知らされると、それを知らされない場合に比べて、女性は競争を選択しなくなることがわかったのです。やはり女性は性役割を意識している可能性があるということになりますし、それは彼女らが社会に出る前の大学生の時に、既にはっきりしているということがわかります。

 私たちがこの研究から発したいメッセージは、第一に女性には性役割意識を強く持たずに、大いにチャレンジすることを大切にしてほしいということです。能力が高いのに、競争心が低いことで労働市場における成果が低くなってしまうのは大変もったいないことです。

 しかも過去の研究の中には、能力の高い人ほど競争心が低くなっていることを示した研究もあり、もしこれが正しいとすれば、女性が競争をしないという消極的な選択をすることは、社会にとって大きな損失となっているかもしれないのです。

 第二に企業のほうにも、男性を採用するときと同じやり方で女性を採用しても、能力の高い人は獲得できないかもしれないということは知っておいてほしいということです。「競争が好きな男性は能力が高い場合が多いとしても、競争が好きな女性が能力が高いとは限らない」ということなのです。
(中室牧子・中川舞音)