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格安スマホ一人勝ち
「ワイモバイル」のしたたかさ

格安スマホ一人勝ち「ワイモバイル」のしたたかさ
「ワイモバイル」のヤング割発表イベントに登場したピコ太郎さん(左)と桐谷美玲さん(1月18日、東京都中央区)

 格安スマートフォン(スマホ)市場で一人勝ちを続けているのがソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」だ。1月の発表会では調査会社のデータを引用し「大手3社を除くスマホ販売台数で40%のシェアを獲得し格安スマホ市場をけん引する存在になった」(ソフトバンクの寺尾洋幸執行役員)とアピール。ワイモバイルの強さの秘密は、どこにあるのだろう。

堂々と「格安」うたえる強さ

1月の発表会では「格安スマホ市場をけん引する存在になった」とアピールした

 ワイモバイル最大のアピールポイントは、なんといってもテレビCMを大量投入していることだ。女優の桐谷美玲や猫のキャラクター「ふてニャン」、最近では話題のピコ太郎を積極的に起用し認知度を高めている。

 そのCMの中で、ピコ太郎ははっきりと「格安SIM」といい切っている。他の格安スマホ会社にもCMを放送しているところはあるが、「格安=安かろう悪かろう」というイメージがついてしまうことを懸念して「格安」という言葉は一切使わずにブランドをアピールしようとしているところがほとんど。ワイモバイルもCMの最後で、SIMは「すごくいいものです」の略という言い訳をしてはいるが、それでも自ら「格安」といい切るのは勇気が必要だったはずだ。

 「格安スマホの認知度が高まる中、消費者が『どの企業を最初に想起するか』の戦いになっている。そこで最初に出てくるのがワイモバイル。これが圧倒的に有利に働いている。格安という言葉もブランドを落とすか心配したが、いまのところネガティブな反応はない」(寺尾氏)と、その効果を評価している。

 ワイモバイルはもともと、PHSのウィルコムと第4のキャリアであったイー・モバイルの2社を統合してできた会社だ。そのため、全国に約1000のキャリアショップが存在する。街中でも「ワイモバイルショップ」を見かけることが多く、「気軽に相談できる」という安心感や信頼感が他の格安スマホにはない強みとなっている。

スマホ初心者をロックオン

ワイモバイルは日本全国に約1000のショップがある

 格安スマホは、これまでケータイしか使ったことのない人がスマホデビューする際に選ばれることが多い。そのため、ショップ網の充実に加え「いかにスマホ初心者に対応するか」が重要だ。

 寺尾氏の元にはショップの店員から「スマホ初心者に対して、電話としての使い方をイチから教えないといけない。我々の身にもなってほしい」という悲鳴の声が届いていた。そこで、ワイモバイルでは様々なオプションやサービス、機能をできるだけ取り払い、シンプルな設計にしていくことに徹してきた。

 たとえば、ワイモバイルのスマホ料金には、1ギガバイト(GB)の「S」、3GBの「M」、7GBの「L」という月間のデータ通信容量だけが異なった3プランしか存在しない(新規や他社からの乗り換えユーザーには2倍増量のキャンペーンを実施中)。

ソフトバンクでワイモバイル事業推進本部の本部長を務める寺尾洋幸執行役員がインタビューに答えた

 格安スマホを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)のなかには細かなデータ容量ごとの様々なプランを用意し自由に選べることを売りにするところもあるし、大手3キャリアは大容量プランなどを出してきている。そんな中で、3つのプランの中からデータ通信容量だけで選ぶというシンプルさが、逆にわかりやすさという強みとなっている。ワイモバイルは「3プランという料金の構成は維持し続けたい」(寺尾氏)という。

 端末ラインアップに関しても、人気のアップル製品はiPhone5s、もう一方のAndroid(アンドロイド)搭載スマホは「アンドロイドワン」に集約してきている。アンドロイドワンは開発元の米グーグルが提供する素のアンドロイドに近い操作性を実現しているもので、これもスマホ初心者に対しての「わかりやすさ」を提供するための戦略だ。「スマホはキャリアやメーカーのアプリをたくさん入れすぎていた。アンドロイドワンでは(最初に)3つか4つしかアプリがなく、スッキリしていて評判がいい」(寺尾氏)

 昨年に発売したアンドロイドワン端末はシャープ製だったが、この春商戦からはシャープと京セラの2メーカーが開発した新製品を投入した。異なるメーカーの製品ながら、素のアンドロイドであるため操作性はほとんど一緒だ。iPhoneのようにほぼ同じ操作性となるアンドロイドワンならば、スマホを売るショップでも客からの質問に答えやすくなり、結果として応対を受ける客の満足度につながっていくのだ。

オプション商法もやめる

 スマホの販売で、これまで何かと不評だったオプション契約も、ワイモバイルではあまり積極的には売らないようにしているという。端末に余計なアプリを入れなければ、それらに関連したオプションを売りつける必要もなくなる。

 「(申込書に次々とチェックをつけて契約させる)レ点商法といわれるようなオプション販売などはとにかくやめていくようにしている。(必要性の少ない)オプションを一生懸命に売ろうとすると、客にとっては嫌な体験になるし、他の客を待たせることになって店は混雑していく。その後にオプションを解約するためコールセンターに電話をかける人が殺到すれば、コールセンターが混雑して、そこでも不満がたまる。(それらの不満が蓄積していった)結果、2年後にやめていくという負の連鎖になっているのが見えている。まだ道半ばだが、複雑なサービスは極力やめる方向に舵(かじ)を切っている」(寺尾氏)

 ただし、アンドロイドワンを納入するメーカーとすれば、独自のアプリを入れられないと各社としての個性を奪うことになりかねない。だが、寺尾氏は「メーカー間での競争原理が働きやすくなる」とメリットを強調する。

 「基本的に同じ操作性なので、メーカーはスペックを上げようと努力する。さらにコストも抑えようとする。結果としてはユーザーのメリットにつながる。日本でアンドロイドワンを独占的に扱いたいと思う一方、他の国でも大量に販売してくれれば、さらにコストが下がるメリットが出てくる。悩ましいところだ」(寺尾氏)

裏技的にキャッシュバックも

 ワイモバイルがうまいのは、キャリアとして提供する端末ラインアップはアンドロイドワンに集約していく一方で、「いろいろ選びたい」という人向けにSIMフリースマホでも契約できるプランを用意している点だ。中国の華為技術(ファーウェイ)や台湾の華碩電脳(エイスース)といった人気のSIMフリースマホを別途購入し、ワイモバイルのSIMカードを組み合わせられるのだ。しかも、ネット上でSIMプランを契約すれば最大2万円のキャッシュバックも受け取れる。

ワイモバイル発足当初からIoT分野に注力していきたいとしていた

 昨今、総務省に目の敵にされている高額キャッシュバックだが、それはあくまで「端末購入に対するキャッシュバック」が標的だ。高額な通信料金と引き換えに、端末代金を割り引くようなキャッシュバックのやり方を規制しているのだが、ワイモバイルの場合はあくまでSIMカード単体の契約となる。通信料金に対してのキャッシュバックとなるため、総務省の規制には該当しないのだ。

 「スマホに詳しい人にむけて、SIMフリー端末にチャレンジできる環境を用意した。もし困っても、SIMとセットにして安心して買える端末を用意してあるので、戻ってくれば、なんとかなる」(寺尾氏)

 単なるスマホ初心者向けだけでなく、スマホを使いこなしたいというユーザーニーズへの受け皿も用意しているのだ。

IoTへの進出も着々

 ワイモバイル発足当初、寺尾氏はあらゆるものをネットにつなぐIoT分野に注力していきたいと語っていた。ワイモバイルが誕生した2014年7月から2年半が経過するが「ワイモバイル=IoT」という印象はほとんどない。

 しかし、いま現在もワイモバイルとしてIoTを商材として扱うための布石も着々と打っている。ワイモバイルのユーザーはヤフーショッピングで大量にポイントが付与されるキャンペーンを展開している。これはユーザーニーズに対して、「スマホで買い物をする」という習慣を普及させる狙いがあるのだ。

 「ニッチなニーズでしかないIoT商材をショップで扱っても在庫の山になりかねない。しかし、ネット販売であれば、ニッチなニーズを大量に集めることで、十分に採算ベースに乗せることができる。ネット通販を拡充することは、今後、次の展開をしていく上で、効いてくると信じている」(寺尾氏)。はた目には「単なるポイント倍増キャンペーン」にしかみえないが、スマホユーザーのリテラシーを上げるという重要な役目を担っているのだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで趣味どきっ!「はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

[日経電子版2017年2月27日付]

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