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career-働き方

曽和利光の就活相談室将来のキャリアは
「わからない」でいいのか

曽和利光の就活相談室 将来のキャリアは「わからない」でいいのか
authored by 曽和利光

 就活生の皆さん、こんにちは。人材研究所(東京・港)の曽和利光です。外資やベンチャーでは選考も進み、すでに面接を受けている皆さんも少なくないと思います。「就活相談室」の模擬面接に今回新たに集まってくれた3人の就活生には、「将来のキャリア形成」について聞いてみました。これも面接ではよく出てくる質問ですが、未来のことを答えるという性質上、特に留意すべきポイントもあります。どこに気をつければよいのか、さっそく見ていきましょう。

今回の参加者
▽辻野奈々美さん(中央大学経済学部3年)
▽浜口綾子さん(法政大学キャリアデザイン学部3年)
▽橋本賢さん(関西学院大学社会学部4年)
※希望する方の氏名を仮名にしてあります。

「わからない」は正直に

「将来目指しているキャリアは?」。よく聞かれる質問だ(就活生を模擬面接する曽和さん)

――将来目指しているキャリアや人物像について教えてください。

橋本さん 特定の専門分野で、会社の枠にとらわれない実力を身につけたいと思っています。大企業がベンチャーと協業するなど、事業を進める上で会社の垣根が薄れてくる中で、どの会社でも仕事をできるような人材になりたいからです。

――なるほど。スペシャリストになりたいということですね。なぜそう考えるのでしょう。

橋本さん 実はちょっと、自分でもどこからそういう思いが出てくるのか、まだはっきりとはわかっていません。そういう仕事のやり方が自由ですてきだな、という感覚はあるんですが。

 早くも留意すべきポイントが出てきました。面接の問いは、過去の経験を尋ねるものと、未来に向けた考え方を聞くものの2種類に大別できます。未来については、極端なことをいえば、どんなことでも答えられてしまいます。自分でも本気で思っていないようなことを、無理に理屈をつけて語ってしまいがちです。

 「なぜですか?」と突っ込まれたときに、論理が破綻(はたん)してしまうと、面接官は、「知的誠実さに欠ける」という印象を持ちます。「何だかよくわからない」という不快な印象が先に立ってしまうということです。将来のことについて「わかっている」ふうを無理に装う必要はなく、わからないならわからないでよいのです。橋本さんは「はっきりとはわからない」と答えてくれましたが、それで十分だと思います。

成長重視か、貢献重視か

――続けましょう。浜口さんはどんなキャリアを目指していますか?

浜口さん 私はゼネラリストになりたいと思っています。ただ、単に守備範囲が幅広いというだけではなく、しっかり専門スキルを持ったゼネラリストとして働いていきたいという思いがあります。5年後10年後を考えたときに、自分の専門知識を生かしながら周りとつながっていく人材が求められるようになると思うからです。

――辻野さんはどうですか?

辻野さん はい。ちょっと私はあいまいなんですけど、自分のしたことで人を笑顔にさせてあげたり、元気を出させてあげたりできる人間になりたいと思います。

 辻野さんの答えと、前の2人の答えの内容が、くっきり色分けされているのにお気づきでしょうか。前の2人は、どんな実力を身につけていきたいかという、自分のキャリアや成長を重視した答えでした。一方で辻野さんは、どうやって世の中の役に立ちたいかという、社会的な関係性を念頭に話してくれました。この2つの答え方は、どちらがよい、悪いというものではありません。

 ただ、企業によっては、自分の成長を重視しているか、能力の役立て方を重視するか、という人間のタイプをここから読み取り、欲しい人材かどうかを判断する場合もあり得ます。例えばコンサルティングなど、支援する顧客次第で自分の姿を変えていく必要のある企業なら、「自分がどう役立つか」にこだわりが強すぎる人材は扱いづらいと考えるかもしれません。逆にそのこだわりと企業理念がピッタリ合致していれば、評価される可能性もあります。志望企業に応じて、どんな答え方をすればよいかを見極めるとよいでしょう。

理由の説明は「激変系」に注意

――橋本さんがスペシャリストは自由でいいな、と思ったのはなぜですか? ゼネラリストでも自由な働き方はありますよ。

橋本さん えーと、それは自分の適性に関係しているかもしれません。部活でも、部の運営に携わる仲間は、調整能力に優れていたりしましたが、自分は競技に集中して結果を出して、それで周りを引っ張っていくタイプでした。そういった感じで、領域を限定して突き詰めていくスペシャリスト的な働き方に可能性があると思っています。

――辻野さんが人を笑顔にさせられる人物になりたいと考える理由を教えてください。

辻野さん はい。学生時代に「よさこい踊り」に取り組んでいたんですが、本場の高知県の祭りに参加した時に、観客のおばあさんが笑顔で手を振ってくれました。そこで、自分が踊ることで笑顔になってもらえたことに感動したのが大きな理由です。

 面接官が「なぜですか?」と尋ねるのは、将来に対する思いに、しっかり「根っこ」がついているか、つまり確固たる裏付けがあるかどうかを知りたいからです。裏付けがあれば、その思いを実現するために仕事も頑張るだろうな、と判断するのです。以前、「志望動機をどう答えるか」を説明したときと同じです。未来の話題なので、より「根っこの生えていない」ことを答えてしまいやすい点に注意が必要です。

 将来への思いの根っこを証明するには、その思いが過去の豊富な経験に裏打ちされているかどうか、その思いを持つに至ったきっかけにどこまで説得力があるか、がポイントになります。橋本さんがこれまでの部活の経験から自分の向き不向きを説明してくれたのは、よかったと思います。辻野さんはちょっとハテナマークですね。私は「激変系」と呼んでいるのですが、ある一瞬の出来事をもって自分がこうなった、という説明は、「それは単なるきっかけであって、理由ではないよね」と思われてしまいますので、注意してください。

「抽象的=かっこいい」の勘違い

「かっこいい」言葉はえてして抽象的で情報量が少ない(就活生を模擬面接する曽和さん)

――浜口さんにもうかがいます。ゼネラリストになりたい理由は何でしょうか。

浜口さん いままでリーダーのポジションに立つことが多く、ゼミでも産学連携プロジェクトのリーダーをしていました。そういった、人と人とをつないだり、チームのマネジメントをしたりする経験が多かったので、ゼネラリストなら自分の強みを生かせると思っています。

――そこでどんなリーダーシップを発揮したんですか?

浜口さん 始まったばかりのプロジェクトで、連携相手との信頼関係もできあがっておらず、チームとしての価値観も共有できていない状態でした。そこで、お互いの考えていることや価値観について意見を出したり共有したりする場をとらえて、メンバーの強み弱みに応じた役割を振り分けたり、連携相手との信頼関係を構築するために、何度もアプローチしたりしました。

 実は私は、浜口さんへの質問を途中であきらめてしまいました。面接官として教えてほしい具体的なエピソードが出てこなかったからです。就活生の皆さんに共通していえる傾向なのですが、どうも抽象的な言葉を駆使することがかっこいいと勘違いしているようです。「信頼関係の構築」「アプローチ」......。「かっこいい」言葉のオンパレードですが、残念ながら面接官にしてみれば意味がわかりません。極端にいえば「情報量ゼロ」です。

 通常のコミュニケーションであれば、信頼関係の構築といえば、まぁだいたいこんなことをしたんだろうな、と想像で補います。しかし、面接官は補ってくれません。例えば会食の機会をつくってお酒を酌み交わしたなどと、具体的に何をしたのかを自分からしっかり説明するように心がけてください。抽象的な言葉は全体の2割程度で、残りの8割は、皆さんがいつ、どこで、どんなことをしたのかを物語る、具体的な事実を盛り込むべきだと思います。

 今回の面接からも、就活生にとっての教訓を得られました。将来のキャリア形成については、(1)わからないことを無理に理屈づけない(2)志望企業に応じて人物像の訴え方を見極める(3)思いの「根っこ」を意識する――この3点に留意しましょう。また、具体的な説明を求められるのは、面接のすべての質問に共通するポイントですので、忘れないようにしてください。

曽和利光(そわ・としみつ) 1971年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルート人事部ゼネラルマネージャー、ライフネット生命総務部長などを経て2011年、主に新卒採用を対象にしたコンサルタント事業の人材研究所を設立。著書に「就活『後ろ倒し』の衝撃」(東洋経済新報社)、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」(明日香出版社)などがある。
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[日経電子版2017年3月22日付]

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