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[ liberal arts-大学生の常識 ]

「ラブライブ!」の沼津
アニメは街を救うか

「ラブライブ!」の沼津 アニメは街を救うか

 モノからコトへと消費の主役は移り、自分の価値観にあえばお金を惜しまない。そんな現代の消費者の志向が新たな街おこしにつながっている都市がある。静岡県沼津市だ。アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台となり、多くのファンが訪れる。そこで、作品をうまく生かして、にぎわいを呼び込んでいる。

「ラブライバー」が続々訪問

 2月26日、横浜アリーナ。ラブライブ!サンシャイン!!の初ライブが開催された。声優陣がステージに上がり、アニメそのままに歌って踊る。「チケットを譲ってくれませんか」。会場外では開演ギリギリまでチケット購入を諦めないファンも。大阪から駆けつけたという男性は「明日の仕事を休んだ。きょうはこちらで宿泊します。沼津にも行きました」。ファンの何人かに声をかけたところ、ほとんどの人が伊豆半島の付け根にある地方都市に足を運んだと話す。

「ラブライブ!サンシャイン!!」は沼津市の街並みを忠実に再現する((C)2016 プロジェクトラブライブ!サンシャイン!!)

 沼津市は新幹線を使えば東京からわずか1時間余りだが、人口減が続く。ここにラブライブ!サンシャイン!!のファン「ラブライバー」が続々と訪れている。アニメは同市が舞台。架空の女子校「浦の星女学院」に通う9人がアイドルグループ「Aqours(アクア)」を結成する物語だ。

 横浜市のライブには沼津からも大勢の関係者が集まった。水族館「あわしまマリンパーク」の伊藤裕館長もそのひとり。「努力あってこその素晴らしいステージで、サービス業に従事する人間として多くを学ばせもらった。これからも応援していきたい」と声を弾ませる。

伊豆箱根タクシーは「ラブライブ!サンシャイン!!」のラッピングタクシーを走らせる。運転手はラブライブ!を猛勉強して市内の「聖地」を案内する(静岡県沼津市)

 アニメは沼津駅前や市内にある「あげつち商店街」の街並み、内浦地区の美しい海岸線、海沿いに置かれたサーフボードの向きや絵柄までを驚くほど忠実に再現する。メンバーの1人「小原鞠莉」の父親が経営する「ホテルオハラ」は実在の「淡島ホテル」がモデル。あげつち商店街では近辺に住む設定の「津島善子(ヨハネ)」を我が子のようにかわいがって応援したり、内浦地区の多比保育園はラブライブ!の楽曲を歌って楽しんだりと、地元では子どもも大人も親しんでいる。

 ラブライバーの消費行動はこれまでの観光客とは一線を画す。例えば、地元パンメーカーのバンデロール(沼津市)が製造する菓子パン「のっぽパン」(140円~)。アニメでクラスメートがメンバーへ差し入れするシーンが放送されると人気が急上昇し、「1日の生産量が1万6000本近くと過去最高を記録した」(同社)。

観光パンフレットになくても...

沼津バーガーは「堕天使の宝珠」を販売する(静岡県沼津市)

 9人が放課後に立ち寄るカフェのモデルになった菓子店「松月」では「みかんどら焼き」(180円)が1日500個売れる日もある。第5話でほんの一瞬だけ登場した「沼津バーガー」でもコラボした特別メニュー「堕天使の宝珠(オーブ)」(750円)が昨年9月の発売から1カ月で4360食を売り上げた。いずれも、沼津市観光交流課が発行するパンフレットにはない。

 「沼津のみかんを全国に広める好機だ」――。JAなんすんは2月、主人公「高海千歌」を描いた段ボール箱を制作し、沼津のブランドみかん「寿太郎みかん」の出荷を始めた。1箱10キログラム入り(送料込みで6700円)と大ぶりながら、公式の電子商取引(EC)サイトでは全国から受注が舞い込み、出荷はすでに1000箱を超えた。例年はせいぜい約100箱だ(受け付けは3月6日で終了)。

 さらに昨年11月~今年1月にかけてみかん収穫のボランティアを募ったところ、「ラブライブ!で沼津に興味を持った」という参加者もいたという。JAなんすん総合企画部の榎本朋介氏は「地域活性化、農業所得の向上というJAの理念に合致した取り組み」と話す。

 若者ほど車や家電などの所有ではなく、趣味嗜好が同じで、「話のわかる」仲間と思い出や感情を共有するためにお金を投じる。現代社会はそんな傾向が強い。決して消費に後ろ向きではなく、多額のお金も動く。原価やデフレとは無縁の世界ともいえる。代表がライブエンタメで、市場は5000億円を超えた。アニメや漫画の舞台を観光する「聖地巡礼」は、その場限りの生の現場にどっぷり浸るという点でライブエンタメと共通する。

 1月下旬、沼津市。アニメでメンバーが日々の練習に励む海辺のモデルとみられる島郷海水浴場を訪れてみた。「この季節に観光するところじゃないよ」とタクシーの運転手。冬の海は人影も少なく、もの寂しい雰囲気さえする。しかし、観光ガイドには載らないこの場所が、ラブライバーには何ものにも代えがたい景勝地に映る。「アニメなんて所詮は虚構」と思う人もいるだろう。侮ってはいけない。ファンタジーが現実を超越する時代がやってきている。
(企業報道部 新田祐司)[日経電子版2017年3月3日付]

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