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高級カメラ、インスタグラム向けに
若者が熱視線

高級カメラ、インスタグラム向けに若者が熱視線

 スマートフォン(スマホ)におされ、苦戦続きのデジタルカメラに救世主が現れた。10代から30代前半までの若年層だ。「スマホを最も活用する世代じゃないの」。そんな声も聞こえてきそうだが、実は違う。彼らは写真共有アプリ「インスタグラム」に投稿するため、デジカメで味のある写真を撮影しようとしている。スマホでは撮れない写真に集まる「いいね」という評価を少しでも多く得ようと、本体にレンズ込みで10万円の出費もいとわない。

「もっと『いいね』をもらうには」

 渋谷駅すぐのヤマダ電機の「LABI渋谷」。カメラ売り場は各メーカーの製品とともに、「最強セルフィー」などと書かれた黒板が並び、いくつもの写真が貼り付けられている。「ネイルをこういう風に撮ってみたい」と店員にスマホをみせる19歳の女性。画面に映っているのはインスタグラムに掲載された写真だ。

 売り場担当の平松良AV主任は「インスタグラムの写真を見せ、相談する10~20代の来店客が多くなった」と話す。実際に購入するのは、被写体を大きく写せる「マクロレンズ」や、背景をぼかすことができる「単焦点レンズ」など。7万円前後の本体に3万円程度のレンズを合わせて買うという。

単焦点レンズなどを購入する人も多いという(渋谷区のヤマダ電機LABI渋谷)

 機種もインスタグラムに積極的に投稿している著名人の愛用機だったり、お気に入りのインスタグラムのような写真が撮れるタイプだったり。「買った後に、もっと『いいね』をもらうにはどうしたらいいかと問い合わせをもらうこともある」(平松さん)。子供の運動会などを撮りたいママ世代に人気だったオリンパスの「PEN E―PL8」なども、時には高校生が手にしている。

 ヨドバシカメラの「マルチメディアAkiba」(東京・千代田)でも、20代女性が「自撮りを交流サイト(SNS)に上げたい。軽くていろんなシーンで使える」と、キヤノンの「EOS M3」を買っていった。21歳の男性もインスタグラムの写真を手に店員に助言を求めるなど、共有ソフトがここでも活躍している。

マップカメラでは店員がパソコンを見ながらイメージを伝えている

 量販店だけではない。初心者は尻込みしそうなカメラ専門店にも学生などが足を運んでいる。

 中古カメラも扱う「マップカメラ」(東京・新宿)。「こういう背景をぼかした写真がとりたいんです。予算は10万円くらいで」と来店した女性の質問に、担当者はパソコンやタブレットを見ながら、「こういうボケ感ですか?もっとぼける?」とこたえていた。売り場担当の相浦瑞希さんは「専門店でも物おじせずに入ってくる。インスタグラムで写真をよく見てイメージもはっきり伝えてくれる」と10~20代の来店者について分析する。初心者で「F値」などのカメラ用語は知らなくても、「目は肥えている」。

市場が再び盛り上がる可能性も

 同店での人気は本体価格が7万円前後のミラーレスカメラ。自撮りを楽しみやすいパナソニックの「LUMIX DC―GF9」や、片手で持ちやすいキヤノンの「EOS M10」、肌の色がきれいにでると口コミが広がった富士フイルムの「X―A3」などを指定することが多い。こちらもレンズ込みで10万円程度が中心価格帯で、「SNSで自分をより良く見せるための投資と思えばそう高くないのかもしれない」と相浦さんはみる。

 業界団体のカメラ映像機器工業会によると、高性能なカメラ機能がスマホに付いたこともあり、デジタルカメラの出荷台数は2016年が2419万台とピーク時の10年に比べ5分の1以下に落ち込んだ。もともとカメラの愛好家は50代以上の男性と言われてきたが、スマホの登場でその傾向はさらに顕著になり、若年層が振り向かない傾向に。そこに出てきたのがインスタグラムへの若い投稿者だ。

 「インスタさまさま」。そんな声が上がるほど、メーカー各社は熱い視線を送る。新たな利用者の登場で、デジカメ市場が再び盛り上がる可能性も出てきた。

 もっとも、環境変化を喜んでいるだけでは苦境を打破することはできない。「メーカーが用意してきた『これでデビューしましょう』というセットでは満足しない」とマップカメラの相浦さん。友達にも自慢できる写真を撮影することが主目的。メーカーへの愛着があるわけでもなく、使いやすい、美しく撮れるなど欲しい機能が付いた製品を選ぶ。

 キヤノンはミラーレスカメラでマクロレンズとのセットも販売。自撮りしやすいように180度回るディスプレーや、自撮りの時にシャッターを押しやすいレイアウトなども出てきた。次を担う顧客層となってもらうために、カメラメーカー各社も知恵の絞りどころにいるのは間違いない。
(企業報道部 小河愛実)

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