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高校生社長までいる
「東大に一番近い進学校」の素顔
筑波大学付属駒場中学・高校を訪問

高校生社長までいる「東大に一番近い進学校」の素顔筑波大学付属駒場中学・高校を訪問

 「東京大学に一番近い進学校」と呼ばれる筑波大学付属駒場中学・高校(筑駒)。2016年は東大に102人が合格、1学年の定員はわずか160人のため、東大合格率はおよそ3人に2人と全国トップの実績だ。『ガリ勉集団』と思いきや、名物の文化祭を訪ねると、意外な『神童』たちの素顔が垣間見えた。

 「筑駒生にもイケメンはいますよ」。10月30日、東京都世田谷区にある筑駒を訪ねると、文化祭の真っ最中。中庭には特設ステージが設けられ、男子校にもかかわらず、かわいらしい女子高生たちとゲーム大会に興じていた。しかも、筑駒生には金髪や青く髪を染めた生徒が目立つ。

校則は事実上なし、金髪もOK

 後日、筑駒高校の浜本悟志副校長に聞くと、「頭髪をいろんなカラーに染めていたのは体育祭があったから。色別にチームを分けて対抗戦で盛り上がります。でも普段も金髪の生徒はいます。身なりなんて個人の自由ですから」と笑い飛ばす。筑駒の卒業生に尋ねると、「とにかく自由な学校。校則も事実上ない」と異口同音に答える。

 林久喜校長は「以前、『授業中にガムをかむことを注意する程度』とメディアに報じられたが、それもウソ。生徒を縛るルールは基本的にはない。まあタバコや酒をやる生徒もいませんが」と話す。

林久喜校長

 実はこの文化祭などの行事こそが筑駒生の真価を発揮する場だという。文化祭は例年10月末、実に3日連続で開催される。しかも主役は大学受験を3カ月後に控えた高校3年生だ。他の進学校ならまさに追い込みの季節だ。この文化祭の準備のために「まあ1年かけます」(浜本副校長)とのこと。

 高2は文化祭が終了した翌週から全員で来年の催しに何をやるか会議を開く。その半年後の5月にリハーサルをやり、審査して面白くなければボツになる。浜本副校長は「1人の生徒が文化祭準備にかける時間は100~200時間ですまないでしょう」と明かす。

 にわかに信じ難い話だが、筑駒では文化祭、音楽祭など生徒全員参加のクラス対抗別行事が目白押しだ。とても受験勉強する暇があるように思えない。

受験指導は一切しない

 では授業で難関大学対策の受験指導をしているのか。林校長は「いいえ、各教師が信じたアカデミックな授業はやりますが、受験対策は一切しません」と話す。私立の中高一貫校は高2までに6年間の学習科目を終え、最後1年を受験勉強に集中させる学校も少なくないが、「うちは高3までに範囲まで終わらない科目もありますね」(林校長)という。

 本当なのか。筑駒の卒業生らに聞くと、「受験対策は難関大学進学塾の『鉄緑会』とか、塾でやる生徒が多いですね」(英単語アプリのmikan社長の宇佐美峻氏)という。受験勉強が塾任せならば、筑駒の存在意義は薄いのではないかというとそれは違う。あくまでも生徒の才能を磨き上げているのは、この数多くの学校の行事と授業にある。

 「将来、革新的な電子マネーのシステムをつくりたい」。あどけない笑顔でこう話すのは中2の男子生徒だ。文化祭に訪れた人たちに電子マネーやインターネット上の仮想通貨『ビットコイン』の仕組みや問題点などを論理的に明快に説明する。他の教室に行くと、独自開発したゲームのアプリや自ら設計した電動立ち乗り二輪車「セグウェイ」の製造方法など、複雑な方程式を用いながら、それぞれの生徒が発表する。訪問した父兄らは大半が口をポカンと開けて感心するばかり。

 林校長は「彼らはみんな自身でテーマを見つけて自分でより深く学ぶ」。この結果、自然科学系では大学の数学や物理、化学、生物の水準を超える生徒がどんどん生まれる。演劇を書く生徒は異常なほどの国語力がつく。「授業中に受験の内職をする生徒はいないが、文化祭準備の内職をやる生徒は結構いる」と浜本副校長は笑う。

あの野田秀樹はすでに筑駒時代からスター

 「あの人は天才だ」。経営共創基盤代表取締役の冨山和彦氏も筑駒の出身だが、文化祭で演劇を見たときに身震いした経験があるという。先輩の野田秀樹氏を目当てに3日間の文化祭が一般の女性客らであふれた。野田氏はその後、東大を中退し、劇作家、演出家、俳優として有名になる。

 すでに40年以上も前の話だが、浜本副校長も野田氏の1年後輩でその場面を目撃した。「今も昔も変わらない。筑駒生の才能を披露する場が文化祭など学校行事です。そして各行事ごとにスターが生まれたりする」(浜本副校長)という。しかも各行事は基本的にクラス対抗の形式のためリーダーシップやチームワークも養う。林校長は「わがままにやると結局失敗する。行事が生徒を育てる」と話す。

浜本悟志副校長

 筑駒の授業もその養成の場だ。「中1~2で他の学校と同様にピタゴラスの定理を勉強する。普通の中学生なら1つの証明法などを覚えて終わりだが、うちの生徒は独自の証明法を次々授業で勝手に考案する。すでに30通り以上出ている。担当教師がついていけないものもある。この証明法はすごいとなると、授業でワッと拍手が起こる」(浜本副校長)。

 各教室の黒板は他の学校に比べて異常に大きい。筑駒の黒板は特注品で、それがいまや名物となっている。生徒が黒板に自分で考えた回答をドンドン書き込むからだ。結果、筑駒には高1、高2レベルで東大大学院の水準の生徒もいる。数学オリンピックなど国際的なイベントにも次々挑戦し、自身の才能を磨く。

起業家も次々 現役の高校生社長も

 筑駒の卒業生は圧倒的に研究者や官僚になる人が多く、経営者は比較的少ない。しかし、最近は研究開発型ベンチャーの起業家も増えてきた。宇佐美氏は東大工学部を休学して英単語アプリ「mikan(ミカン)」を開発して起業した。ロボティクス開発のイクシー(東京・千代田)代表の近藤玄大氏は東大大学院からソニーを経て独立した。手のない人が直感的に操作ができる電動義手の開発で注目を集めている。

 実は筑駒には「現役社長」もいる。カードゲームを発売するケミストリー・クエスト(相模原市)代表取締役、米山維斗君は高校在学だ。「まあいいんじゃないですか。別に授業をサボって社長業をやっているわけではないので我々は干渉しない。時間外に何をやろうと自由ですから」。林校長も浜本副校長も意に介さぬ様子だ。

 自由な環境の下で、文化祭など行事を通じて学問を徹底的に探求する筑駒生。学校から徒歩10分のところには東大の1~2年生が通う東大駒場キャンパスがある。文字通り筑駒は東大に一番近い学校といえるだろう。
(代慶達也)[日経電子版2016年11月13日付]

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