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これからの女子キャリと生き方(11)女子学生が意外に知らない
「子供を産む年齢」

新居日南恵 authored by 新居日南恵manma代表
これからの女子キャリと生き方(11) 女子学生が意外に知らない「子供を産む年齢」

 こんにちは。manma代表の新居日南恵です。現役ママたちから、今の女子大生に伝えたいメッセージをご紹介するシリーズ。今回は、中でも特に多くのメッセージをいただいた「子供を産む年齢」に関するお話です。

 様々なライフワークを描く中で、多くの女子大生にとって一つのポイントとなる「出産」。実は、これには「年齢制限」があることをご存知でしたでしょうか。非常にセンシティブなこのテーマについて、今回は内閣府の委員としてもご活躍されているニッセイ基礎研究所の天野さんから実体験とデータを交えたお話をいただきました。

天野さんの出張にご同行されたご家族のご様子

天野さんのライフヒストリー

 今回お話を伺った天野さんのお母様は、女医さんとして活躍されている方です。お母様がご結婚された1970年代には働く女性に批判的な声もある中でバリバリ仕事をする母様の背中を見て天野さんは育ったそうです。

 お母様は28歳の時に天野さんを出産。「多産系の家系だったこともあり、子どもは割といつでも産めるような印象がありました」。そう語る天野さんはお母様同様、大学卒業後はバリキャリの道へ。金融機関での仕事に打ち込む生活が続いたといいます。

 しかし天野さんが27歳の時、風邪をおしての出社の無理がたたり、肺炎で3週間の入院に追い込まれました。仕事で多忙な親や高齢の祖母に看病してもらう状況に、「今後も何かあったときに親頼みでパートナーがいないとは、なんて自立できていないんだ」と感じたそうです。そして「急に結婚を意識するようになりました」といいます。その後、「パートナー探し」を開始。32歳で結婚することとなりました。

不妊治療をはじめた天野さん

 そんな天野さんは結婚後、妊娠中に2度お子さんを喪失、3度目にお子さんを高齢出産で授かります。

 「担当医の言葉などから、あまりにも自分がのんびりといつまでも健康な子どもを授かる誤解をしていたことを思い知らされました。また体調を崩し育児もままならない日々。若いママたちの出産を横目に、高齢出産がママの身体にいかに過酷かを痛感しました。しばらくは次の子どもを考える状態にもなかったです」

 そう語る天野さんは42歳になって不妊治療を開始。愛するご主人との間に3人は欲しかったという夢に挑戦されたといいます。しかし、治療中は非常に苦しい生活が続きました。

 「毎日病院に足を運び、注射を打ち、いつ成功するか分からない。ホルモン療法で卵巣が腫れること、受精卵を戻す際に使用した麻酔と同時に行った抗生物質点滴で全身に蕁麻疹が広がる(アナフィラキシーショック)という命に関わる恐怖体験もあり、きつかった。私は研究職で上司の理解もあり、連続通院できただけまだましでした。普通の勤務の方は無理でしょう。それでも仕事がある中で長期間、決して楽ではない様々な処置を続けることは、身体は当然ながら、やはり精神的にも厳しいものがありました」

 そう振り返る天野さんはこう続けました。

 「自己実現のために若いうちは仕事を......。もっといい人が現れるかもしれない......。そんな気持ちだけで結婚、そして特に出産を遅らせるならば、何より自らの身体にとって何もいいことはありません。女性の身体に過酷なライフコースが待ち受ける可能性が非常に高いです。私は自分の過酷な経験から、お子さんを望んでいるならば早めの出産をお勧めします。また、それが可能な社会になってほしい」

ご講演中のご様子

知っておきたい不妊治療の現実①

 天野さんは、遅めの出産、いわゆる高齢出産をお勧めしない2つの理由をお話しくださいました。1つ目は医学的・生物学的に「母となる女性の健康」に悪影響を及ぼす確率が高いからだそうです。

 例えば浜松医科大学の研究によると、産後鬱のリスクは35歳以上が有意に非常に高くなると言います。産後は女性ホルモンの値が1万単位から数百単位に落ちます。この際、ホルモンバランスの急激な変化で女性は不安や憂鬱さを感じるといいます。赤ちゃんが泣いていることが不安でしかない・絶望感を感じる、などのケースも多くみられるそうです。

 また、ニッセイ基礎研究所の保険診療レセプトデータ分析によると、そもそも妊娠出産に関する疾病リスクは卵子の老化だけではないことが明らかとなっています。当然ですが年齢上昇によりあらゆる疾病リスクが上昇します。母体が健康的でない場合、子どもに与える心身面での影響も少なくないそうです。分析では、不妊症の確定診断をされた女性の全データから不妊症以外の疾病があるかどうかを年齢別に比較したところ、20代後半の女性に比べ、40代前半の女性は8.5倍の膝の関節症のリスク、4.5倍の子宮緊縮や慢性気管支炎リスク、3.6倍の緑内障、閉経周辺リスクは13倍、など明らかな合併症リスクの上昇がみられたといいます。

 「パパママ、そしてその子ども、家族みんなが笑顔でいられる、そんな子育てのためには、このような医学データは頭に入れておく必要があるのではないでしょうか」

知っておきたい不妊治療の現実②

 天野さんが高齢出産をおすすめしない2つ目の理由は、不妊治療の成功率が低いからだと語ります。そもそも女性は胎児のときから卵巣内に膨大な数の卵子を有していると言います。成人後、そんな卵子は1カ月でおよそ1000個の勢いで死滅していきます。そして、卵子残量が1000個以下になった時に、閉経は起こるといいます。

 そもそも出産には「寿命」があるのです。一般的にこの閉経は50歳ごろに起こると言われていますが、個人差があり40歳ごろに迎える女性もいます。アンチエイジング・美魔女などといわれていても、初潮・閉経の年齢は50年前と比べても変わっていないそうです。つまり、出産可能期間・妊娠しやすい期間は変わっていないのです。

 そもそも、不妊治療とは女性の卵巣に外的刺激を施して卵子を活性化させ、排卵を促すことを繰り返します。これによって活性化させる卵子の数が多く、その状態が若ければ若いほど、その後の精子との受精の成功確率は上がります。つまり、卵子が卵巣に残っていれば、まだ生理があれば成功する、というのは大きな誤解です。35歳を過ぎると卵子の力が急激に落ちてゆきます。自然妊娠も不妊治療も卵子の力を必要とします。どちらも成功確率が急激に落ちるのです。そのような点から、諸外国では不妊治療に年齢制限を設けている国もあるそうです。

 ちなみに、不妊の原因は女性だけではなく男性の精子に原因がある可能性もしばしば。WHOの発表では不妊の原因の5割が男性にあるといいます。フランスでは不妊治療費は国から全額出されますが、まず男女ともに不妊治療検査を受けることが受給条件だそうです。そういったことを知らずにカップルの年齢があがってから「まだ生理はあります」、と不妊外来を受診し、治療を断られて絶望・泣き叫ぶ女性を天野さんは実際に外来で目にしたこと、そしてこれは決して珍しい光景ではない、と話しくれました。

家族留学を受け入れていただいた際の参加学生さんと、天野さんのご家族のご様子

「知っておくこと」の大切さ

 だからこそ天野さんは、男女とも晩産のリスクを正しく理解した上での結婚・出産計画を立てる必要があると強調します。

 「出産を望む女性の気持ちを大切にしたい。でも、出産のあとには子育てがあります。決して、出産はゴールではありません。母子が笑顔でその育児ライフのスタートを切る環境整備に、日本はもっと配慮する必要があると考えています。高齢での出産、子育ては体力的にも容易ではありません。高齢出産経験者、不妊治療経験者から『もう5年早ければ』『いっそ学生結婚しておけばよかった』などという話をよく聞きます。後で嘆き悲しまないような人生設計、そのための知識は女性の心身を守るためにとても大事なことだと思います」

 manmaでも人生のロールモデルに触れ、ライフキャリア設計に活かせるような場と機会づくりをさせていただいていますが、「出産」に関する正しい知識もまた大事な指針になることを改めて感じる機会となりました。