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月面開発や火星探査
ゼネコン宇宙事業の現実味

月面開発や火星探査ゼネコン宇宙事業の現実味

 ゼネコン(総合建設会社)が宇宙開発に本気で挑もうとしている。2020年の東京五輪を控え、足元は活況に沸くが、その後の建設需要は不透明。企業として永続するにはフロンティアの開拓は必須だ。漠然としたアイデアが試作品の形で具体的に検証できるようになった技術の進歩もある。壮大な夢物語が現実味を帯びてきた。

 「キュル、キュル、キュル......」。今年2月、四国のある高速道路の工事現場を、カタツムリとシャコを掛け合わせたようなロボットがはいずり回っていた。4つの駆動ローラーを定期的に止めては、周りの土の固さを調べる作業を繰り返す。

 現場を動き回るのは竹中工務店と子会社の竹中土木(東京・江東)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発する自走式ロボットだ。月面や火星での探査を想定し、土木建築の基礎となるデータを安定して計測できるか、実証実験した。

検査15%速く

 このロボットにはプロトタイプがある。JAXAが2014年に小野電機製作所(東京・品川)と共同で開発に取り組んだ「健気(けなげ)」がそれで、高さ30センチメートル程度の障害物を乗り越えたり、傾きが45度ほどの斜面を登ったりする走行性能を持たせることに成功している。

 だが、それでも過酷な宇宙探査には不十分だ。月面や火星は隕石(いんせき)が落ちることが多く、クレーターが発生して地面は急斜面の荒れ地や岩場になりやすい。そこで建設資材を大量に運搬する台車技術などで定評のある竹中工務店が、一段の性能向上への技術開発を買ってでた。

 開発の視点は走行性能アップだけでなく、危険を避ける「賢さ」にも向けられている。改良型ロボットでは、超音波センサーや全地球測位システム(GPS)を付け加えて、障害物を自動で検知できるようにしている。

 転落や衝突などのリスクを避けて、安全な道のりを探し、計測に向く場所に移動。足場の安定を確かめ、決められた測定作業をきちんとこなし、データを収集できるか。これらの諸条件を確かめるため、現在、地上の様々な場所で実証実験を繰り返している。

 「地球圏内」への技術転用も見据えている。竹中の技術研究所の菅田昌宏・新生産システム部長は「宇宙を見据えた技術開発を、地球上でのビジネスにも活用したい」と意気込む。高速道路の実証実験では、自走ロボットを使うことで検査時間を15%短縮できたなど、効果も出てきている。

 当面の課題は、想定外の障害物に直面したときにロボットがどう対処するか。複数のロボットを合体させて推進力を高め、急な丘や岩を乗り越えられるようにするなど様々な案を検討している。JAXAは20年代初めをめどに月面の探査に導入するのを目標とする。

 宇宙開発は将来の夢。これまでゼネコン各社は社内外にこう語ってきた。清水建設が「宇宙ホテル」や「月面基地」の建設といったアイデアを打ち上げたのは1988~89年。当時はまさに期限のない近未来構想にすぎなかった。

 だが、海外インフラ事業や東日本大震災の復興事業などを通じて、過酷な条件下で開発するための技術やノウハウがじわりと向上。IT(情報技術)の活用も加わって、宇宙開発への具体的応用の道が目の前に開けてきた。

 より直接的な効果も見込まれる。東京五輪・パラリンピック以降、ゼネコンの仕事のうち既存インフラの更新・維持の割合が増えると予想されている。月や火星向けに開発した高度な技術は、目先の業務にも転用できるとの算段だ。

定款も変更

 例えば竹中工務店は月面探査用のロボットを、道路橋などのインフラ点検に使えると見込む。道路橋の内部は柱が入り組んだ構造になっている場合が多く、人による点検には手間がかかっていた。ロボットを導入することで省人化が図れるとみている。

 東急建設は月面で建設資材を現地生産する技術の共同研究を進めている。月面開発では現地で基地を設ける必要があるが、この施設は放射線や隕石の落下による被害を受けやすい。こうしたリスクから施設を守る高さ10メートル以上の「防護壁」を、主に現地の素材からつくるプロジェクトだ。

 昨年からの研究で、東京都市大学や日東製網と手を組んだ。全体で20人弱のプロジェクトチームを設立。月面の砂と地上で調達する材料を混ぜ合わせ、壁につかうれんがのような資材をつくれるようにする。

 砂が入った土のうを基地周辺に積み上げて壁を築く「ルナー・テキスタイル工法」の一環だ。月面の砂を資材の一部として使えるようになれば、壁建設のために地球から送る資材の量を減らすことが可能になる。

 昨年3月から、JAXAが保有する砂のサンプルと樹脂などを混ぜる研究を進めている。今年度内に砂と樹脂などの適切なバランスを導きだし、製造方法を固めたい方針だ。「現地で研究・開発した資材は地球での活用も検討する」(東急建設の担当者)という。

 大林組は昨年6月の株主総会で、定款を一部変更し、事業目的に宇宙開発や燃料の製造・販売を加えた。念頭にあるのは50年をメドに開発を進めている「宇宙エレベーター」だ。

 総延長9.6万キロメートルのケーブルで地球と宇宙をつなぐ。大気圏を突き抜けて伸びるケーブルを巨大なカゴが伝い、物資や人を宇宙に運ぶ。カーボンナノチューブなどの超高強度の新素材の登場で、荒唐無稽なアイデアとは言えなくなっている。

 ロケットを使うより、はるかに安価で高効率な物流インフラができれば、宇宙開発は一気に加速する。先陣争いに勝つために、大林組は事務的な面でも体制整備に余念がない。

 東京五輪後の特需消失、人口減少による建設市場の縮小、海外勢との競争激化――。ゼネコンを取り巻く経営環境は今後厳しさを増す。ただ、空を見上げれば、そこには巨大な潜在需要があり、掘り起こす技術力も日本勢にはある。
(企業報道部 寺井浩介)[日経産業新聞2017年3月9日付、日経電子版から転載]

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