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お悩み解決!就活探偵団2018受講料20万円
それでも活況、就活塾のナゼ

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 受講料20万円それでも活況、就活塾のナゼ

 「母親に『就活塾にいったら』といわれたが、本当に効果があるのでしょうか」――。就活探偵団にこんな相談が舞い込んできた。就活塾といえば、セミナーへの強引な勧誘などが問題視され、数年前はネガティブな噂もつきまとっていた。企業の求人が旺盛で、学生にとっては売り手市場となった今、もはや下火なのでは、と思いきや、新規参入者は次々に現れているようだ。なぜ今も、一部の学生から支持を受けているのか。

週1~2回通い、大手2社から内定

 JR東京駅八重洲口のオフィスビルの7階。商社と金融業界を志望する早稲田大学4年生の男子学生Aさんが、講師と向かい合っている。

 「まず君がパッと思う浮かぶ強みは何かを教えてくれるかな」「多分リーダーシップだと思っています」

イラスト=篠原真紀

 「リーダーシップの定義とはなんだろう? 君が考えるもので、辞書的な意味ではないよ」「周囲をまとめて、一つの目標を達成させることだと思います」

 「なるほど。それではそれが発揮された経験は大学時代にある?」

 Aさんは昨年5月にこの就活塾に入り、週に1~2回のペースで講師の面談を受けてきた。そのかいあってか、すでに大手IT企業2社から内定を得ている。「内定を取れるか不安で、自分の経験に自信がなかった」ため入塾を決めた。今では「就活は情報戦で、早く準備した者が勝つということを実感している」と充実した様子だ。

 この就活塾、「内定塾」を運営しているのは、就活支援事業を手がけるガクー(東京・中央)。東京のほかに、大阪、京都、名古屋にも「教室」をもつ。

 講習は、基本的に講師とのマンツーマンで、エントリーシートの添削から自己PRのしかた、面接での受け答えなどの指導を受ける。料金は税込み19万9800円のコースと、親が相談できるオプションなどをつけた同30万円の2パターンがある。大学3年生の夏前から受講を始める人が多く、講師の予約が取れれば30回まで講習(1回50分)が受けられる。

 決して安い額ではないが、東京校舎塾長の池田陽介氏は「社会人から見たら、当たり前のことになぜお金を、と思うかもしれないが、それができずに悩む学生が毎年います。だからビジネスとして成り立っている」と話す。

 就活塾といえば、2008年のリーマン・ショック後の就職氷河期に増えてきたイメージが強い。大学の校舎のまわりでウインドブレーカーに身を包んだ美男美女の勧誘員が、リクルートスーツの学生をつかまえる――。こんな光景に眉をひそめる大学関係者も多かった。内定塾の池田氏は「就活塾全般のイメージが悪いのは自覚している。だからこそ、勧誘した瞬間に悪評が広まり商売は終わると思っている」と話す。

内定塾東京校舎の池田陽介塾長

 かつて学生を集められるだけ集めていた時期があったが、「学生を増やしてビジネスに走っても質も評判も下がるだけ」(池田氏)とわかり、5年ほど前から定員を設けた。東京校は毎年200人が上限で、全国では1000人ほどだが、定員は常にいっぱいになるという。

 採用コンサルタントの谷出正直氏によると、「売り手市場といっても、全員が大企業に入れるわけではない。そういう学生のニーズは変わらない」と指摘する。

クラブイベントのようなセミナー

 谷出氏によると、就活塾は大きく分けて2つある。汎用的なエントリーシートの書き方、面接、マナーなど、就職活動全般について教える塾と、「外資系金融」「コンサル」「マスコミ」といった、特殊な試験を課す業界に特定した塾だ。後者の場合、その業界で活躍していた元社員が講師になる場合が多い。

 収益モデルも大きく分けて2つある。有望な受講生を企業に紹介し、紹介料を受け取る「企業スポンサー型」と、セミナー受講料などとして学生から料金をとる「受講料型」だ。「企業スポンサーのほうがビジネスは安定しそうにみえるが、『どれだけ学生を入社させられたか』という成功報酬型なので、キャッシュがすぐに入らない。一方で学生の授業料であれば、すぐにお金が入る」(谷出氏)。冒頭で紹介した内定塾は後者のモデルだ。

 学生には費用負担がない「企業スポンサー型」と、安くはない料金をとる「受講料型」。両者はどうちがうのか。

 「無料の就活セミナーにはカラクリがある。誰にも縛られずに、事実を伝えるにはスポンサーはつけられない」。こう主張して、1回9800円のセミナーを開催、一部の就活生から人気を得ているのはGLROWS(東京・渋谷)を起業して就活支援をてがける竹中結輝氏だ。

GLROWSのイベントには50人の学生があつまった(2月27日、東京・白金台)

 採用活動の解禁を間近に控えた2月末。東京・白金台の結婚式場を借り切って、就活イベントが開催された。午後2時、集まった50人の学生が待つ中、クラブイベントさながらの爆音と煙幕に包まれて、DJのようなイヤーマイクをして登場したのが竹中氏だ。

 「採用担当者がエントリーシート1枚を読むのにかける時間は15秒。つまりは"足切り"のためのものでしかない。だから、エントリーシートは面接の台本だと思えばいい。面接で聞かれたいネタを仕込むのです」「インターンやリクルーター、説明会はいわば0次選考。企業は莫大な労力と時間、お金をつぎ込んでいるのに『採用と関係ない』わけがない。質問を練り、名刺を用意するなど、その後のエントリーで落ちるリスクを減らそう」

 就活の裏事情や本音のアドバイスに学生がうなずく。「最初は正直うさんくさく思ったが、終わってみてとても感動した」(慶応大学の太田匡洋さん)。「派手な演出には驚いたが、エントリーシートを書くときの心構え、自己分析の軸など、主張は納得度がとても高かった」(東京大学大学院の亀田真由さん)。

「無料」にはウラがある?

 竹中氏は、GLROWSを個人で運営しながら、人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)にも籍を置く。以前はパナソニックに6年間勤務し、エンジニアや新卒採用も担当した。

 セミナーは、竹中氏の講演や、グループディスカッション、ロールプレーなど5時間で9800円。「無料の就活塾やセミナーの多くは、学生集めが困難な中小・ベンチャー企業がスポンサーとして費用を負担している。だからセミナーでは大手の悪口を言って、中小・ベンチャーをやたらと勧めてくるケースもある」(竹中氏)。

GLROWSの竹中結輝代表

 パナソニックに在籍していた3年前から、有料の就活イベントを定期的に開催してきたが、ずっと赤字が続いている。今年は東京、大阪、福岡の3会場で開催し、100万円以上を竹中氏が自腹で支払った。楽しいイベントにするために映像や音響、照明にこだわっているからだ。今後はクラウドファンディングで予算がたまれば開催するという。

 いまだ活況を呈している就活塾だが、心配なのは強引な勧誘や金銭トラブルだ。法政大学キャリアセンターの内田貴之課長は「かつては、入金して入塾したあとで追加の支払いを要求された、という相談が多かったが、今ではめっきり減った」という。「相談件数は、最もひどかったリーマンショック後の1割ほど」(内田氏)

 早稲田大学キャリアセンター長の佐々木ひとみ氏は、就活塾に関するクレームはこちらには届かない、としながらも、「就活塾に行くこと自体にどこか後ろめたさがあり、金銭的なトラブルがあっても打ち明けられないのかもしれない。大学の構内で勧誘していれば注意できるが、公道や駅でやっているため把握が難しい」と指摘する。

全体の苦情は減らず

 一方、被害報告に頭を痛めているのが専修大学だ。就職部の高橋力次長は、「ある就活塾に入会した学生が、別の学生にしつこく入会を迫っている、というクレームが相次いで困る」と話す。その塾は学内セミナーを開催する日などをねらい、大学の敷地近くで学生を勧誘しているという。「学生を使って入会を促したり、大学が抗議できないぎりぎりの公道で勧誘したりと、やり口は見過ごせない」(高橋氏)

 東京都消費生活総合センターによれば、毎年コンスタントに50~60件ほどの苦情が集まり、減っていないという。「強引な勧誘」「退会したのに所定のお金が返ってこない」「聞いていたサービスが得られない」などのクレームが後をたたない。

 全体の苦情が減っていないことを前提に、各大学の情報を総合すれば、「悪徳」な就活塾は、売り手市場で優位となった上位の大学から、中位の大学にターゲットを移しつつあると言えるかもしれない。

 専修大学の高橋氏は「私たちは学内で就活塾と同等のサービスを無料で提供している。学生にはそちらを利用してほしい。本音を言えば、なぜお金を払って、わざわざ就活塾に行く必要があるのかわからない」と打ち明ける。早稲田大の佐々木氏も、「納得してサービスを使うならいい。まずは大学の支援サービスと比較してから決めてほしい」と訴える。

 本来、就職支援の役割を担うのは各大学のキャリアセンターだ。トラブルの可能性がある就活塾より、大学のサービスを使ってほしいという気持ちは分かる。だが、冒頭の内定塾の池田氏は、「大学がしっかりと指導できるなら、自分たちのような就活塾はいらないとさえ思う」と強気だ。「私からみると、大学のサービスは、専門家でない大人が、『働くとはどういうことか』を説くイメージ。一方、就活塾は受かるための実用的なアドバイスができる。有料にするだけの指導力がある」と胸を張る。

大学の苦しい胸の内

 現に、大学のサービスを利用していない学生は多い。専修大学の場合、利用しているのは対象学生の4~5割ほど。高橋氏は「利用率が悪いのは大学側の努力不足な面もある。1~2年生から就活を意識して学生生活を送ってほしくない思いもあり、なかなか難しい」と苦しい事情を語る。

 まずは、大学のサービスに目を向けてみよう。無料で利用する就活塾にはウラがあることも念頭に。有料でも利用したいと思うなら、リスクを事前に回避できるよう情報を集めるべきだろう。不安をあおる勧誘の言葉に流されず、冷静な判断を心がけてほしい。
(夏目祐介、松本千恵)[日経電子版2017年4月6日付]

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