自信のない就活生を変える奇跡の3冊
ホンネの就活ツッコミ論(8)
前回、「オタクの就活」をテーマに、敬遠される理由や企業の選び方についてまとめました。今回は学生の大半が当てはまる自信を持てない学生がテーマです。
国立青少年教育振興機構の「高校生国際比較調査」(2015年発表/調査は2014年)によると、「自分はダメな人間だと思うことがある」に「そう思う」(「とてもそう思う」と「まあそう思う」の合計、以下同じ)と回答したのは、日本72.5%、米国45.1%、中国56.4%、韓国35.2%。日本だけが自己肯定感が低く出ています。
当時、調査対象だった高校生が大学生となり、大きく変わったか、と言えばそこまでではありません。学生に話を聞いても自信が持てない、とする学生の方が多数。今年2018年卒の就活は売り手市場ですが、それでも「落ちたらどうしよう」「不安」と話す学生がどの大学でも目立ちます。自信がない、と言っても就活、そして卒業後の社会人生活を迎えるのは間違いありません。
具体的に何が不安なのか。これまで取材した経験からまとめると主なものは「就活全般」「会話」「ファッション」の3点です。もう少し、具体的に説明すると、以下のようになります。
・就活全般...特筆すべき経歴・経験がなく、アピールできなさそう
・会話...面接で言葉が詰まる。一方的に話して嫌われる
・ファッション(特に男子)...私服のセンスがなくバカにされそう
では、何が問題で、どう改善していけばいいのか。今回は各問題点にあった本・漫画をご紹介しながらまとめていきます。
「会話はキャッチボール」がわからない
よく面接では「会話のようにキャッチボールで」と言われます。私もその通りと思います。ところが、わからない学生はわかりません。彼らに話を聞くと、普通に受け答えできる、つまり、キャッチボールできている学生ばかりです。
「なんだ、今みたく、普通に話せば十分じゃない」と伝えると、「本当だ。でも、いざ面接、となると、途端に言葉に詰まります。特に『何かご質問は?』と聞かれると、何を質問していいかわからなくなります」と頭を抱える学生が大半です。
さて、どう伝えたものか、と考えていたところ、面白いエッセー漫画がありました。『コミュ障は治らなくても大丈夫』(吉田尚記・水谷緑、メディアファクトリー)。著者の吉田さんはニッポン放送の人気アナウンサーで「ゴボウ」のあだ名で知られています。『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)を元にしたコミックエッセーが同書。
「会話の凡人」だったアナウンサーが伝えるという時点で、大半の学生は、「自分、そこまでコミュ障じゃないし」「アナウンサーって、会話の達人でしょ?そんな人の本なんか、参考にならない」と思うに違いありません。
私もアナウンサーであれば「会話の達人」くらいに思っていました。同書は、吉田さんがニッポン放送に入社後、「会話の達人」どころか「会話の凡人」、いや「悪人」「零人」「ダメ人間」と言ってもいいくらい、コミュニケーションが取れていなかった経験をもとに書かれています。
なんでそういう人がニッポン放送の内定を取れたのか、そこはさておくとして。ラジオのアナウンサーですから、アイドルや芸能人などに話を聞くのが仕事。ところが、その会話がうまく行きません。しまいには「日本一からみづらいアナウンサー」と言われる始末。
では、その吉田さんがどう変わったのか。ひたすら聞くこと、それも些細なことから聞くことでした。ちょっとコワモテの男性歌手にはあえて「怖い人ですよね?」。相手が「いや、怖くないですよ。よく言われるんですけど全然普通です! 庶民派です!」と返すところから会話が広がりました。
さらに、理由を聞きたいときは「なんで?」ではなく「どうやって?」。
「『どうやって』でその考えや行動にいたった過程を聞くんだ。重みを感じさせない質問だし話が具体的になって楽しい」
確かにその通り。さらに同書の終盤には実践編として4人の読者(大学生、社会人)が参加。吉田さんがコミュニケーションのアドバイスをします。この実践編のコラムで書かれているのが空気感です。
「コミュ障は空気が読めないからしゃべれないんじゃなくて、逆に空気を読みすぎるからコミュニケーションがうまくとれないんです。(中略)なかには『空気が読める』人がいる。そういう人は天才ってわけではなく、実はその場のムードにテンションが合っているだけなんです!」
「コミュ障」という単語を「普通の学生」に変えれば、どうです、名言でしょ? もうこの1ページだけでも買う価値があります。なお、この日経カレッジカフェにも吉田さんの記事「相手の「言いたいこと」を引き出す技術」が掲載されていますので気になる方はそちらも合わせてどうぞ。
話せるネタがない、と嘆く学生は『凡人戦略』
コミュニケーションについては吉田さんの本(漫画)でいいとして、就活全般はどうでしょうか。よく聞くのが「海外留学したわけでもない、資格もない、サークルも大したことやっていない、アルバイトも勉強も同じ。これで就活、大丈夫なのか」というものです。
そんな方にお勧めするのが、武野光さんの『凡人内定戦略』シリーズ3冊です。『凡人内定戦略』『凡人面接戦略』(以上2冊はKADOKAWA)、『凡人内定完全マニュアル』(ポプラ社)とありますが、1冊だけ、という方は最新刊(2016年刊行)の『完全マニュアル』をどうぞ。
著者の武野さんはもともと「無能の就活」というブログを展開していました。著者プロフィールによると、以下のような「ないないづくし」。
・TOEIC未受検
・週の半分以上の講義を自主休講
・部活はもちろんサークルにも未所属
・友達の数が片手未満
その武野さんが内定を得た経験を書いたのが「無能の就活」ブログ。そして2012年、「出版甲子園」で準グランプリを獲得。『凡人内定戦略』の出版に至ります。単なる学生の内定獲得記かと思いきや、書いている内容が真っ当、かつ、ピンポイントにまとめています。
私がオススメする就活マニュアル本は『短所を言えたら内定が出る』(柳本周介、パブラボ)、『なぜ7割のエントリーシートは、読まずに捨てられるのか』(海老原嗣生、東洋経済新報社)、『東大生が書いた議論する力を鍛えるディスカッションノート』(吉田雅裕、東大ケーススタディ研究会・編、東洋経済新報社)など数冊ですが、武野さんの『凡人内定戦略』シリーズは買う価値のある就活マニュアル本と言えるでしょう。
自己PR型志望動機が実は強い
特に素晴らしいのが、自己PRを混ぜる志望動機の書き方。大半の学生は、志望動機はその企業の良い部分をほめちぎります。あるいは客として接してファンになった、とか。志望動機はいずれ別の機会に書きますが、紋切り型になりやすく、軽視する企業が増えています。
今では志望動機の項目そのものを書類・面接そのものから外すか、入れるだけ入れてろくに読まない(聞かない)、書類だと最低限、文章として整っているかどうか程度しか見ない、いずれかを取る企業が主流です。さて、この志望動機に企業の話は書かず、自己PRを混ぜる方法を指導しているのが武野さんです。
すなわち、「私の強みは~です。(自己PRの具体的事例が入る)という経験をしました。私の~という強みを貴社でも生かしたいと思い志望しました」、これが自己PR型志望動機です。
志望動機の書き方としては相当ユニークですが、真っ当でもあり、かつ、この手を使う学生はまだまだ少数派。この書き方だけでなく、平凡なる学生がどんな手を使えば就活に勝てるのかをまとめています。自分に自信が持てない学生が世間一般に出ている就活マニュアル本を読んでも、すごい学生を対象に書かれているものが大半でめげる、とよく聞きます。その点、『凡人内定戦略』シリーズは安心感を持って、しかも役立つこと、請け合いです。
ダサい男子が変われる『服を着るならこんなふうに』がすごい
最後に「ファッション」。これは男子学生限定です。女子学生は、何のかんの言っても皆さん、お洒落に気を使います。ある女子学生に話を聞くと、「おしゃれに気を使わないと、男子はもちろん、同じ女子からも『少しは小ぎれいに』と怒られて生きていけない」そうです。
一方、男子学生は小ぎれいにするどころか、顔を洗わない、鼻毛も切らない、何だったら風呂もろくに入らない......という学生すらいます。で、一様にファッションセンスはゼロ。
そして、服を買うとなると、「服を買いに行く服がない」。それでいて、ユニクロや無印良品、ジーンズメイトなどは極端に敬遠。もちろん、高い服は買う気がない、それがファッションセンスゼロを自称する男子学生には多いのではないでしょうか。
そんな男子にお勧めしたいのが『服を着るならこんなふうに』(縞野やえ・漫画、MB・企画協力、角川書店/2017年4月現在4巻まで刊行)です。ファッションセンスゼロのサラリーマンで27歳の祐介が、同窓会の打ち合わせであか抜けた同期にショックを受けるところから物語は始まります。同居の妹・環(大学生)がファッション指南を1話完結でしていく漫画です。
企画協力のMBさんはファッションバイヤーであり、ファッション情報サイト「KnowerMag」を運営。日本最大のメールマガジン配信サイト「まぐまぐ」で有料メルマガも運営していますが、4月17日、メルマガ配信でも有名な堀江貴文さんを抜き、個人配信者では日本1位となりました。
この漫画、好感が持てるのは高いブランドを推しているのではなく、ユニクロのジーンズ(スキニーフィットテーパード・黒)や、Tシャツ(スーピマフライスコットン)など安価なものも含めてコーディネートを指南しているところです。かくいう私もファッションセンスはゼロ。この漫画でかなり勉強させてもらいました(今も勉強中)。
4巻では好きな女の子ができて自分を変えたい、そのためにファッションに気を使いたい、とする大学生が登場します。就活でも私服で説明会・セミナーに参加するよう指示されることもあります。就活以外でもファッションセンス(というかコーディネート)次第で大人びて見えることもあれば、軽視されることもあります。一味違う、と言われるためにもこの『服を着るならこんなふうに』はお勧めです。
この3冊の本・漫画、自分に自信が持てないと思い込んでいる学生にはぜひ読んでほしいところです(もちろん、私の『キレイゴトぬきの就活論』も合わせて、ですが)。多くの学生はダメだ、と思い込んでいるだけで実は何のことはない、普通の学生です。そして、普通の学生は結果的には普通の社会人になって働いていくのです。
もちろん、ある時点だけを切り取れば、うまく行っていないということもあるでしょう。うまく行っていないのであれば、自分を変える何かが必要です。今回ご紹介した3冊、あるいはそれ以外の本や漫画、あるいはこの日経カレッジカフェの記事は、あなたを変える何かになるはずです。ぜひ、手に取って(あるいはクリックして)読んでみてください。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
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