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食の訪問記(2) オークスハート(中)開店初日の売り上げ30万円が
1カ月後には……

食の訪問記(2) オークスハート(中) 開店初日の売り上げ30万円が1カ月後には……
authored by 平井幸奈株式会社フォルスタイル代表取締役CEO

 "酢の美味しさ新発見"をコンセプトに「飲むお酢」を販売するオークスハート。同社の代表取締役であり、「酢ムリエ」でもある内堀光康さんのインタビュー2回目です。今回はデザート感覚でも楽しむことができるデザートビネガー誕生秘話をお聞きしました。

40年程前に大手商社と組んで果実酢を

平井 デザートビネガーの始まりは何だったのですか。

内堀 昔、大手商社と内堀醸造で組んで「果実酢を売ろう!」と試みたことがあるんです。でも、全くもって売れなかった。今でこそ、いろんな果物からお酢ができるということが浸透していますが、40年程前にブルーベリーから酢ができたと聞いて、「あら美味しそう、買ってみよう」なんて思う人は誰もいないわけですよ。

内堀さんにインタビュー中
会社概要
オークスハート株式会社
事業内容:酢の製造・販売。飲み物の1つとしての酢の使用を作り上げた専門会社。
設立:2003年創業、2013年法人設立

 私どもは最初に純ワインビネガー、つまりブドウからお酢にして、初めは都内の歴史あるホテルに買ってもらいました。以来100年以上そのホテルとはお取引をしています。当時はそれで舞い上がって実にいろんなフルーツからお酢を作りました。でも全く売れなかった。そして在庫が貯まっていったんです。これがフルーツからお酢を造るはじまりでした。

平井 初めから上手くいったわけではないのですね。内堀さんご自身が会社に入られてどのように展開されていったのでしょうか。

内堀 僕自身、酢も好きですがお酒も好きなので、内堀醸造に入ってからはリースリングとカべルネソーヴィニョンなどのぶどう酢を作っていました。純ワインビネガーが有名ホテルで好評だったというなら、僕も造りたいと思うじゃないですか。ところが、全く売れなかった。レストランに使ってくださいとお願いすると、「酢にそこまでの価値はないな」と言われたこともありました。

 造ったけど全く売れなかった、会社側からいうと不良在庫、造り手からいうとチャレンジ商品の山だったわけです。でもそのストックがあったおかげで、お店がオープンできました。名古屋高島屋の一号店は、お客様が樽のある貯蔵庫に来たような体験を味わっていただける売り場にしました。「せっかく造ったけど、どうしようかな?」という製品を「量り売り」するというのが、オークスハートの始まりだったのです。

酢は美味しいものなんですよ

平井 そこで「飲む酢」を始められたのですか。

内堀 いえいえ。最初から飲む酢をやろうと思っていたわけじゃないんです。最初は酢を料理に使ってもらおうと思って一生懸命メニューを配っていました。メニューを配っていたら、お客さんはお酢をお飲みになるんです。でも健康食品じゃないんだと。みんなが酢を身体にいいとかそんなことを言って売っていた時代だったので、そうじゃない「酢は美味しいべきだ、美味しいものなんですよ」と言っても、お客様は「何の健康にいいんですか、これ痩せるでしょ」と言われるんです。いや、そういうことは百貨店的に言うことができないんでございます。「僕は酢の専門メーカーでございます。ここは酢の専門店でございます」と何の特徴も言えないまま、ただ「美味しい」だけでやったんです。

「飲むお酢」を試飲

平井 「美味しい」と伝えるのはとても難しいですよね。日本に美味しいものは溢れていて、それをどう美味しいと伝えるか。

内堀 その通り。そんなある日、お客さんがおっしゃったんです。「内堀さん、あなたが横にいて、私に大丈夫って言ってくれれば、このオレンジのお酢を豚肉にかけることもできる。でも内堀さんがいなくて、お腹の減っている家族があと1時間後にやって来るときに、わたしは豚肉に酢はかけられないわ」と。いやー、ごもっともですね、と。

 ユニークなお店でオープンしたので、開店以来、料理の話をしたりワインの話をしたりするとてもコアなお客様が多く、普通に美味しいものを食べたいと百貨店に来られたお客様はほとんどいらっしゃいませんでした。

醸造所の樽に囲まれて

平井 確かに、酢を食べ物にかけるという発想は馴染みがありませんよね。浸透させることが難しかったのだろうと。

内堀 毎日来店客数が減っていくんです。開店日の2月26日は売り上げが30万ほどでしたが、約1カ月後の4月1日はいくらだったと思います? わずか3万円でした。僕はその時、初めて休みました。もうくたびれたと。内堀醸造にいたときには土日は休み。ところが百貨店では働きながら考えなければいけないわけですよ。さすがにくたびれてしまって。

 明日はどうなるかな、と思っていたらやっぱり1万円減って。さてどうするか、と考えていたときに、また例のお客様がいらっしゃいました。「味がわかるようになれば、料理にできるわ」と言われたんです。そこで、飲むことから始まる酢の世界という切り口を思いつきました。味が理解できるようになれば、料理の理解も進みます。いつも飲んでるお酢を「これだったら、お料理に使っても美味しいわね」「これだったらお野菜にかけてもいいわね」と考えていただきたくて、「飲む」を頭につけて販売しました。

「飲む」とつけたら売れ始めた

平井 「飲む」とつけるだけで、消費者にはぐっと身近に感じられますね。商品は同じでもネーミングで簡潔に、体験を提案されています。

内堀 初めはブルーベリーの酢が商社との取引の頃から在庫があったので、「飲むブルーベリーの酢」という名前にして外商のお客様向けに販売をしていました。それが好評だったので、「飲むブルーベリーの酢」と「飲むラズベリーの酢」を店頭に出したら、何の説明もないのに売れるんですよ。

 その後ゴールデンウィークにテレビ番組に取り上げられ、そこから毎日20万円の売り上げが立つようになりました。普通、テレビに出ても大体3日後には通常営業に戻るんですけど、戻りませんでした。しかも朝にはお客さんが走っていらっしゃるんですよ。そんな売れると思ってなかったので品切れになってしまうことに。ケーキみたいでしょ。これは景気がいいと、こうなってくるわけです(笑)。

平井 お上手です(笑)。(つづく)