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食の訪問記(3) オークスハート(下)マスクメロンのお酢に挑戦も
「最後まで奈良漬の味でした」

食の訪問記(3) オークスハート(下) マスクメロンのお酢に挑戦も「最後まで奈良漬の味でした」
authored by 平井幸奈株式会社フォルスタイル代表取締役CEO

 "酢の美味しさ新発見"をコンセプトに「飲むお酢」を販売するオークスハート。同社の代表取締役であり、「酢ムリエ」でもある内堀光康さんのインタビュー3回目です。今回はお酢の使い方と、その可能性について語ってもらっています。

テレビにも出演して

平井 商品力もさることながら、この内堀さんのキャラクターにもメディアが目をつけたというのも分かります。

内堀さん
会社概要
オークスハート株式会社
事業内容:酢の製造・販売。飲み物の1つとしての酢の使用を作り上げた専門会社。
設立:2003年創業、2013年法人設立

内堀 そうなのです。ありがたいことにそのテレビが好評で、ローカルテレビが2週間に1回くらい、入るようになったんです。視聴率の良い番組に取り上げてもらうと、20万ベースだったものが30万に。それからお中元の季節に30万が40万、40万が60万、7月の終わりには80万までいきました。

平井 1日にですか。

内堀 そうです。たった2mの間口の売り場でです。今でもですね、海外の出張に行きますと、「酢は飲み物ではないんだ」と言われます。でも日本はそう言う文化を作ってきたんだと言うとすごく驚かされます。内堀さんはいろんなものから酢を作ってアイデアマンだね、なんて言われるんですが、全然そんなことない。糖分を含む甘いものから酢ができるので、甘いものは何でも酢にしてみたくなるんですよ。例えば人参。茹でると甘いでしょ。かぼちゃ、にんじん、トマト、野菜からも酢ができるんですよ。糖分があればこっちのものなんですよ。

平井 好奇心旺盛に次々とチャレンジされているのですね。ちなみに失敗作はありますか。

内堀 はい。この冬には小豆をお汁粉にして発酵させました。これは雑巾を絞ったような香りがしましたよね。だから小豆酢なんてないわけですよね。マスクメロンもお酢にしてみましたよ。メロンはウリ科なんですよね。ウリが酢に発酵して奈良漬けの香りが生まれたんです。なんじゃこりゃと。ひどい味でした。でもマスクメロンの酢がうまくできたらギフト用には最高だと思うわけです。1回失敗しても、もしかしたら、と思って2年目も20万円ほどのマスクメロンをこそっと買ったんですよ。無駄遣いしているとよく怒られるんですけど。絞ってみれば1リットル1万円くらいするんです。5年間で100万円をかけました。でも、最後まで奈良漬けの味は変わらなかった。5年熟成したマスクメロンのお酢もありますけど、やっぱり最悪なんですよ。ダメなものはダメなんです。

ワインのようなデザートビネガー

平井 内堀さんが生み出されたオークスハートの「飲むお酢」から、お酢を飲むという文化が日本でも広まっていますよね。こんな未来を考えられていましたか。

内堀 正直なところ、こんな未来は全く考えていませんでした。売れることを想定して酢を作っていないからです。いつの間にかこんな世界が広がってきてしまったというのが正直な感想ですね。

人間にとって苦手な香りを消すのが酢

平井 調味料としての酢ではなく、新しい酢の世界を切り開かれていますよね。

内堀 酢というと、酸っぱいだけの酸味をつけるのが目的だと思っていたらそうじゃない。なぜサバ、イワシ、コハダは香りを消すのに、オレンジは香りを引き出すんでしょうか。パイナップルに酢をつけるとパイナップルの香りは華やかになるのに、なぜ、納豆に酢をかけると納豆の香りは華やかにならないんでしょうか。変なんですよ。人間にとって、苦手な香りは消すのに、心地いいという香りは引き出すんですよ。

平井 そう聞くと、酢はとても便利でミラクルですね。

内堀 塩はしょっぱいでしょ。お肉を焼くときにみなさま無条件にお塩をふるじゃないですか。それはしょっぱくしようと思って使っているわけではないですよね。そんな風に、僕が思う理想の酢のあり方は、酸っぱくしようと思って酢を使うのではないのです。酸っぱくしなくて酢を使うことは料理人の技な訳ですよ。プロの料理人は酢を使っているけど、家庭の主婦には伝わっていない酢の使い方というのがたくさんあるのです。

醸造所の中を案内してもらいました

建物の中は立派な柱が

まずは酸っぱいものに親しんでもらいたい

平井 内堀さんのお話を伺って、私も酢のイメージが大きく変わりました。

内堀 酸っぱいだけの酢は、ほんの一部の姿でしかない。なので、挑んでいただくことが必要なんです。どうしたらいいか、まずは酢に限らず、酸っぱいものに親しんでもらいたい。酸味の感じ方って個人差のあるものなので、まずは酸っぱい世界に足を踏み入れてもらいたいと思いますね。1つのきっかけで好きになるものだと思うんです。

平井 どんな時に酢を飲んでもらいたいと思われますか。

内堀 疲れた時に、酢って、助けてくれますよ。そして僕が一番シンプルに酢が美味しいなと思うのはお風呂上がりちょっと汗ばんだ後です。

「そうだね、コーヒー、紅茶、酢?」が夢

平井 最後に、内堀さんのビジョンを教えてください。

内堀 「お茶にしよう、何飲む?」「そうだね、コーヒー、紅茶、酢?」って。そういう会話が自然に生まれる、それが僕の夢ですね。

平井 コーヒーと紅茶に並ぶ選択肢になる、日常的に酢が飲まれるということですね。

内堀 もう1つあるんです。お母さんが「ねえ酢をとって」と言うと、子供が「いいよ、何に使う酢?」っていう風に言えば、いろんな種類の酢を使いこなしている家庭であるということです。こんな家庭が増えたらいいなと思います。これも僕の夢です。そして僕がいつもみんなに言うのは、社会を楽しくするのが仕事だということです。酢って美味しいもの、酢って楽しいものっていうことを、まずはみなさんにお伝えしたいと考えています。

醸造所の前で