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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ニュースの見方(44)「何でもできる」商社、
「何をしたい」が大切に

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
ニュースの見方(44) 「何でもできる」商社、「何をしたい」が大切に

 資源・エネルギー関連だけでなくコンビニエンスストア事業などでも激しく競い合う総合商社。幅広い分野で活躍できることもあり、三井物産や三菱商事といった総合商社は、いつも就職先として大きな人気があります。

世界のあらゆる場所で商売

 昔から、海外で活躍したいと考えている学生にとって、真っ先に頭に浮かぶのは商社でした。戦前から戦中にかけて、国の要請を受けて海外からの物資の買い付け業務を担当する中で、総合商社は、外務省以上に高い情報収集能力を発揮し、海外の最新の情報を日本に伝え、日本の成長、発展において、それを支える公的な役割も果たしてきました。未開拓の荒野を切り拓いていくイメージです。前回取り上げた銀行員が堅い職業の代名詞だとすれば、商社マン(今は商社パーソンというべきでしょうが)は豪放磊落(ごうほうらいらく)なイメージで語られてきました。世界中のあらゆる場所に進出して商売をしていく、その逞しい姿から、そうしたイメージが形成されたのです。

 海外で働くといった場合、航空会社であれば、その支店は基本的には主要国の主要都市にあります。それ以外の地に出張にいくことはありますが、ベースは大都市になります。また、円高が進んだことから、メーカーも海外での生産を積極的に行っているため、海外での勤務も多くなっていますが、それでも生産拠点となるようなところはある程度決まってきます。

日本にしかない総合商社

 これに対して総合商社の場合、その取り扱う商品の範囲が極めて多様であることから、それこそ地球の隅から隅までカバーすることになります。そのため、活動範囲もそれだけ広くなります。そのことに魅力を感じるか、あるいは国内や、あるいは海外でも大都市を拠点として活動したいと考えるかで総合商社に就職するかどうかという決断も変わって来るでしょう。

就職先として商社の人気は高い

 商社には専門商社と総合商社があります。それぞれ文字通り、専門商社はある特定部門に特化した営業活動を行うのに対し、総合商社は商売になりそうなものであれば、どのような分野にも食い込んでいきます。

 日本で成長してきたこうした総合商社というものは世界でも独特の企業形態で、他国にはあまり例を見ません。近年では韓国において日本の総合商社と似たような企業体が現れてきていますが、日本の総合商社にはまだほど遠い小さな規模にとどまっています。

7大商社、独自色競う

 現在日本で7大商社と呼ばれているのは、五十音順に並べれば、伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事です。歴史的に最も古くから存在したのが三井物産で、その後いくつかの商社が誕生し、戦後、何度かの再編期を通じて、現在は上記の7社を中心とした体制になっています。

 以前は、各社の取扱う分野、そしてその全体の事業における取扱い比率はほとんど同じようなもので、差別化があまり見られませんでした。しかし、近年では各社とも力を入れて取り組んでいる分野が異なってきており、その性格の違いが見えてきました。エネルギーや資源の開発に強いところ、あるいは最近の傾向ですが、食などの生活産業分野に進出しているところもあります。住友商事のようにメディア産業に力を入れているところもあります。

三菱商事、川上から川下まで

食のバリューチェーン構築で収益をあげる三菱商事

 2015年には資源価格が暴落し、エネルギー・資源に比重を置いていた三菱商事、三井物産などは2016年3月期決算で赤字にとなりました。その一方で、非資源分野で強い収益性をもつ伊藤忠商事は利益で首位となり、大きな話題となりました。しかし、昨年末、OPEC(石油輸出国機構)の減産決定などによって資源価格は反転上昇しており、順位が再度入れ替わる可能性は高くなっています。

 これまで何度か「商社の冬の時代」とか「商社の時代は終わった」などと言われた時期はありますが、その都度、そうした見方を跳ね返すように、総合商社は新たな取り組みを開花させ、発展を続けてきました。その一つにバリューチェーンを自らの関連会社で作り上げるということがあります。たとえば三菱商事の場合、穀物の集荷・販売から配合飼料の調達・販売、鶏肉生産処理加工、畜産物販売、そして外食(日本ケンタッキー・フライドチキンへの出資)と、川上から川下に至る一連の流れをすべて関連する会社で行っており、それぞれの段階で収益を挙げる構造を構築しています。

変化に応じ、収益構造組みかえ

 このような総合商社の歴史、現状、そして未来を分析したものとして参考となるのが、最近発行された『総合商社―その「強さ」と、日本企業の「次」を探る』(田中隆之、祥伝社新書、2017年3月)です。同書の中で田中先生は、現在の総合商社の3つの要素として「商品取引」「事業運営」「事業投資」を挙げておられます。商社のイメージとしては「商品取引」が一番わかりやすいと思われますが、商社は自ら生産活動などにも関与していますし、また企業などへの投資を行い、コンサルティングを行ったりして配当収益などを得たりしています。これに海外市場、国内市場の状況を鑑み、最適な事業の組み合わせで最大の収益をどう挙げていくかがこれからの生き残りの鍵となっています。

入社後のビジョン明確に

 このように、総合商社はあらゆるビジネスの可能性を追求することができる舞台をあたえてくれるでしょう。だからこそ、総合商社への入社を目指すのであれば、自分がそうした幅広い分野の中で、どのような絵が描けるのか、あるいは描こうとしているのかを、できるだけ明確な形でアピールしなければなりません。また、英語はもちろんのこと、自分が進みたい分野に関連しそうな語学には力を入れておいた方がいいでしょう。入社してから留学やトレーニーの形で改めて鍛えられることは確かですが、基礎があった方が楽であることは事実ですし、大きなアピール・ポイントになることは間違いありません。

 日本にしかない、世界で大きな存在感を示す総合商社。是非ともトライしてほしいと思います。

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