日本経済新聞 関連サイト

OK
[ skill up-自己成長 ]

教科書は街おこし(6)経営者で大学講師の父より息子への
10の進言(上) 学内編

久米信行 authored by 久米信行久米繊維工業会長
教科書は街おこし(6) 経営者で大学講師の父より息子への10の進言(上) 学内編
撮影協力:大東文化大学

 今から30年ほど前「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙(新潮社)」という本がベストセラーになりました。キングスレイ・ウォードというカナダの実業家が、わが子の将来のために、これまで培った人生の知恵やビジネスのノウハウをしたためたものです。

 この本を手にしたのは私が大学卒業したての頃でした。ゲーム制作会社の新入社員として、昼は飛び込みセールス、夜はシナリオ創りに追われ、毎日終電で帰宅する日々。そんな先の見えない中で、この名著に出合ったのです。まるで家業の経営者であった父から諭されているような内容でした。将来は父のような経営者になることを夢見ていた私は、この本の息子の立場から読んだことを思い出します。

 時は流れて、今春、私の息子が大学に入学いたしました。今度はウォードさんにならってビジネスマンの父として、また大学講師として、わが子に自分の経験則を語る順番になったのです。

 息子の入学式に参列して、学長の熱いあいさつを聴きながら、ふと考えました。「今もし自分が大学生だったら、どんな学生生活を送るだろうか?」。私が息子に伝えたい「大学生の心得」は、きっと多くの新入学生が抱くものとは、少々かけ離れたものでしょう。

 イマドキの学生からは「意識高い系」と笑われてしまうかもしれません。しかし人生の終盤になった今だからあえて声を大にして言いたいのです。

 「人は、人生で一番恵まれた好機には、そのありがたさに気づかない」
「人は、人生で一番学べる大学時代には、なぜか学ぼうとしない」

 だからこそ、皮肉なことに私は50歳を過ぎた今になって猛烈に大学で学びたくなっているのです。決して褒められたものではなかった自分の大学生活を後悔しました。そして、入学式に並ぶ新大学生たちを羨ましく眺めていました。そこで、今回は自らの怠惰な学生時代を反省しつつ、わが子のみならず日本中の大学新入生に「今の私ならこうする」という心得をお伝えしたいと思います。

1 最前列で先生の知恵と気力のシャワーを浴びる

 ライブならアリーナS 席の最前列から埋まるのに、なぜか大学の講義では最前列はガラガラです。しかし、最前列の方が演者の熱気やオーラを感じられて楽しめるのは、ライブも講義も一緒です。君にもそんな不思議なライブ感や高揚感を最前列で味わってほしいのです。

 だって授業料が一緒なら、一番前で聴く方がお得だと思いませんか? そんな当たり前のことに気づかず、私は3年生に進学できずに留年するまで、最後列でいびきをかくような学生でした。ところが留年して遊び仲間たちが進学して別のキャンパスに移ると、やることがなくなりました。

 そこで、半ばヒマつぶしで学部を問わず好きな先生を探しました。誰も知り合いがいないこともあり、やむなく最前列に座って講義を受けることにしたのです。しかし皮肉なもので、その瞬間から私の人生は変わりました。はじめて大学の講義が面白いと感じられるようになったのです。

 今さらながら、大切な2年間をムダにしてしまったと後悔しました。最前列に座る効果は、それだけではありません。最前列の学生から、先生に顔と名前を覚えてもらえるのです。私も講師をしていて実感するのですが、最前列に座る数少ない前向きな学生から可愛がりたくなるものです。ただ特等席=最前列に座るだけで、先生に好かれるなんて、楽でいいですよね。

 不思議なもので、最前列付近には元気で優秀な学生が集まります。特等席で、いつも顔を合わせるうちに「意識高い系」の良い友達が増えることでしょう。これは実社会に出てからも同じです。元気な経営者が集まる勉強会でもよく講師を勤めさせていただきますが、大学と違って最前列から席が埋まっていくことを、君にお伝えしておきましょう。

2 必ず1つは質問をする心意気で講義を聴く

 大学の講義や経営者向けの講演中、私が一番つらいと感じるのは「何か質問はありませんか?」と聴いて、誰一人手を挙げてくれない時です。講師にとって、これほどさびしい瞬間はありません。だからこそ真っ先に手を挙げてくれる学生がいたら強く印象が残るものです。

 最初は大教室で手を挙げて質問するのは恥ずかしいかもしれません。しかし最前列に座っていれば、逆に人目を気にしなくなります。当初は講義後、帰り支度の先生に駆け寄って個別に質問することもできるでしょう。留年後に改心して最前列に座った私も、まずは講義後に思い切って個別に質問をすることから始めました。今考えれば幼稚で恥ずかしい質問もしたと思うのですが、そんな時ほど先生が親切に答えてくださることに驚きました。

 ですから、君も決して自分を賢く見せる必要はありません。妙に小賢しい学生や知ったかぶりをする学生より、素直でおっちょこちょいな学生の方がカワイイものです。大学時代に、恥ずかしがらずに質問をする習慣を身につければ、社会人になってからも役立ちます。たとえ上司に「そんなことも知らないのか」と突っ込まれても恐縮する必要はありません。叱られた後で教えてくれたことを胸に刻みましょう。

 それでもめげずに質問しては実践することを続ければ、きっといつか認めてくれるはずです。私がインターネット黎明期に通っていた勉強会では、ソフトバンク創業者の孫正義さんとご一緒することもありました。

 孫さんは、いつも最前列に座って真っ先に質問をされていました。そこで私も孫さんの真似をすることにしました。誰かの話を聴く時には、最前列で必ず1つは質問をしようと決意したのです。すると不思議なことに気づきました。毎回「質問することを探しながら聴講する」と、いつもより真剣に話が聴けるのです。常に素朴な疑問を抱きながら聴くことで、話を鵜呑みにせずに、深く理解しようとするからでしょう。

 質問する習慣は卒業後に実を結びました。社会人になって現場で日常業務をしている時にも、観察力や洞察力が鋭くなったのです。上司にもだんだんと良い質問ができるようになり、時には上司さえ気づかなかった提案までできるようになりました。すると、生意気に思われるどころか、最後は好かれることに気づきました。たいして能力も高くなかった私が、企業であれNPOであれ、行く先々で先輩方に可愛がっていただけたのも「必ず一つは質問をする」心がけのおかげでしょう。質問をして一瞬は恥をかくことがあっても、結局は人よりはやく仕事を覚えられますし、顔と名前も覚えてもられることになるのです。

3 1回の講義を最後の5分に3行で集約。ネットでも発信する

 君に直接教えられないのは残念ですが、私の明治大学の講義では、ゲスト講師も迎えながら、毎回最後の5分間でレポートを提出してもらっています。この5分間レポートでは、以下のことをを、それぞれ1行で書くトレーニングをしています。

1 講師が一番伝えたかったこと
2 自分の心に一番響いた講師の言葉
3 今日から始めようと思ったこと

 この訓練は、単に講師の話をそっくりノート書き写すのとは似て非なる知的作業です。なにしろ、90分前後もある長い大学の講義の中から、最重要な3点を、たった一言で抽出しなければならないからです。

 優秀な人ほど「報告は結論から、短く判りやすく伝える」ものです。毎回、教え子たちのレポートを読んでいて気づくのは「一番伝えたいことを伝える難しさ」です。私もゲスト講師も、大切なポイントを何度も繰返し投げかけているつもりなのですが、なかなかキャッチしてもらえないものです。裏返せば「講師が一番言いたいメッセージ」を、しっかりキャッチできる人、さらにはそのメッセージを今日から受け止めて実行に移せる人は特別な人財です。きっと社会に出てからも「打てば響く」貴重な人財として重用されることでしょう。

 また、講師が何気なく言った一言が、学生の心に刺さることもままあります。こうした「予想外のヒット」は講師にとっても大きな気づきや学びですので、大いに喜ばれます。このように「自分なりの視点」を臆せず、きちんと目上の人に一言で伝えられれば注目されます。忠実な教え子や部下としてではなく、いずれは共に仕事をしたくなるパートナーとして認められることでしょう。

 こうして、君が「会話や文章の中から最重要な一言をつかむ力」を磨くことができれば、やがてそれは「最重要な一言で伝える力」にもつながるはずです。私の大学時代の恩師、平野絢子先生は、とにかく「あなたの言いたいことを一言で言いなさい」と繰り返す人でした。受験勉強で、模範解答のある問いばかりこなしてきた私は「自分が言いたいことが実はない」ことに初めて気づいて恥ずかしくなりました。

 自分の言いたいことは何かを、自分に問いかけることから始めました。その答えを、誰もがわかるように一言で言う難しさに頭を抱えました。それでも、平野先生は諦めずに2年間のゼミで鍛えてくださったので、自分の頭で考えた一言が言えるようになりました。ただただ感謝です。

 さらに、君たちには私たちの学生時代には考えられなかったことを試せます。誰もがスマホを持ち、無料で簡単に発信できるSNSを使えることは、未知の可能性を秘めています。私の明治大学の講義でも、毎回の気づき=5分間3行レポートをFacebookでシェアしてもらっています。同様に、自分で自分に課題を出したつもりで、毎日の講義の要点をネットで発信することはできるでしょう。毎講義の要点をネットでシェアする新習慣を4年間続ければ、自分のための貴重な備忘録=知恵の宝庫になります。

 さらには「まだ誰もやってないことを試して成し遂げた学生」として、社会に対して自分をアピールできるはずです。もちろんゼミの試験や就職活動にも役立つはずです。もし4年間の講義を、毎日発信し続けるような、マメで辛抱強い学生がいたとしたら、私が経営者なら、真っ先に採用したいと考えるでしょう。

4 専攻や履修にこだわらず10人の師匠を探す

 君が大学生になって一番先に悩むことは、どの講義を履修するか自分で決めなくてはならないことでしょう。多くの場合、先輩や同級生の情報を基に、単位が取りやすい、出席を取らない、試験をしない「楽勝科目」を探すはずです。あるいは、メディアなどで名前が知れた有名な先生を選ぶかもしれません。

 恥ずかしながら、付属高校上がりの私も、先輩からの入れ知恵で模範解答のコピーが期待できるような科目ばかり取っていました。そんな「志」の低い学生生活を2年間送ったバチが当たったのでしょう。最重要の必修科目で出回ったコピーが間違っていたため、それに頼った学生が全員留年しまったのです。

 しかし、留年したおかげで怠惰な生活と決別して(させられて?)、生涯の師に出会うことができたのですから判らないものです。ゼミの恩師である指導教授の平野絢子先生は、日中国交回復後、第一号で中国に招かれ留学した中国の経済改革研究の第一人者です。それなのに、大学内でもメディアでも知名度は高くありませんでした。誰も中国の経済発展を予測しなかった中で、ほぼ先生が見通した通りになりました。平野先生は、私たちに、ニュースや世論に惑わされず、経済法則を軸に未来を予見する知見を授けてくださったのです。

 つまり、私の人生を変えてくれたのは、楽勝科目の先生でも、有名な先生でもありませんでした。厳しくも根気強く私を育ててくださった平野先生は、あまりにエネルギッシュだったので、時には変人だと思われていたかもしれません。しかし、確固たる信念と独自の方法論で未来を見通した平野先生こそが、私にとって生涯の師匠だったのです。

 君には、ぜひとも、そんな生涯の師匠に出会ってほしいのです。それもゼミや研究室の講師以外にも、様々なジャンルで十人の師匠を探して欲しいのです。10人の師匠探しでは、自分の専攻や所属学部だけにこだわる必要はありません。

 私が留年してヒマをもてあました1年間は、単位と無関係な他学部の講義にも顔を出しました。そして、単位を取るためのスキルを高めるためではなく、ただ知的好奇心だけで講義を受けて学ぶことの楽しさを実感しました。どの学部にも面白い先生はいます。そんな先生方の共通点は、古典や洋書の翻訳や焼き直しを教える=横文字を縦にする=だけではないことです、あっと驚く独自の先見性を持ち、自らの熱い想いで研究に取り組む「山に登り続ける人」なのです。

 そんなちょっと変わった師匠に学び、最前列で「奇人変人オーラ」に触れたおかげで、私は「食わず嫌い」がなくなりました。尊敬する変人先生の真似をして、むしろ「みんながイイと言うこと」を「待てよ」と思い、「みんなが馬鹿にすること」に「未来のヒント」があるのではと考える変わり者になれました。

 その結果、多くの人に笑われても動じなくなったのです。だからこそ、およそ同級生が行かないベンチャーのゲーム会社と厳しい証券会社で、誰も味わえない独自のキャリアを積むことができました。もともと興味もなければ得意でもなく、家業とは縁もゆかりもない職場でしたが、いずれも面白く感じられたのは、大学で変な師匠たちに学んだからでしょう。それぞれの職場でも、上司や取引先の中に師匠と呼べる人を捜すことができたことは本当に幸せでした。

 ありがたいことに、ネットで何でも簡単に検索でき、世界のニュースを一覧できる時代になりました。だからこそ、誰もが知っているメディア経由の二次情報よりも、自ら現場で未来を切り拓く当事者が創り出す一次情報が大切です。一次情報を知るには、大学時代に、あるジャンルの未来を見通すような師匠を見つけ出して、そこに集う人たちと一緒に未来について考え、議論し、行動することが大切です。

 そして、ネットでつながって親しく交流できれば、誰よりもはやく、未来を予感することができるでしょう。ぜひとも、そんな師匠を10人見つけて弟子入りして直接学び、考え方や生き方を真似してください。きっと、君の眼は大きく見開かれるでしょう。そしてお金では買えない夢と知恵と勇気を授けてくださるはずです。

5 よそ者、若者、馬鹿者10人と友達に

 私を含め、人はどうしても似た者同士で群れたくなります。同年代で興味もバックグラウンドも似通っている人と一緒なら気楽です。コミュニケーションの苦労もないでしょう。留年前の私は、まさにそんな環境に溺れていたのです。しかし似た者同士と群れていては、いつしか危機意識も向上心も薄れて、自分を甘やかしがちです。気づきやひらめきに恵まれることも少なく、ますます同質化・均質化するのです。旧態依然とした名門大企業で大きな問題が次々に起こるのも、金太郎飴のごとき身内が集う「ぬるま湯の官僚組織」になっているからでしょう。

 だからこそ、君が友達を選ぶ時には、自分とはかけ離れた異質な人も大切にしてほしいのです。最初は違和感を覚えるでしょうが、きっと最後には親友になれるはずです。私は今、地元墨田区やゆかりの全国各地で観光地域づくりを応援する仕事をしています。その時の合い言葉は、「よそ者、若者、馬鹿者」の力を活かせ!です。地元の美点や、組織の長所は、中にいる人には見えにくいものです。

 例えば、日本の良いところは、むしろ海外から日本にやってきている外国人の方が詳しかったりするのが良い例でしょう。さらに、日本的な古いしがらみを打ち破り魅力を引き出すには、若者たちの新しい視点と気力・体力が、馬鹿者と言われても好きなことを貫くマニアたちの見識と情熱が大切なのです。

 幸いにして、君が通う大学には各国から来た留学生も多いでしょう。社会に出てから学び直しをしている年上の同級生もいるはずです。さらに、タモリ倶楽部よろしく孤高の趣味を楽しむオタクも男女問わずうようよしているでしょう。そんな「よそ者、若者、馬鹿者」の親友が10人できたら、きっと人生が変わります。自分とはひと味違う友達の考えや行動に触れれば触れるほど、いつしか真似をして似てくるものです。

 好きなものごとを一緒に味わえば、視野も興味も広がり、人生の多様な楽しみ方を知るでしょう。こうしてお互いの殻を破りつつ、新たな喜びをシェアし合うのが、これからの新しい友情のかたちです。君には、そんな個性豊かな親友を見つけてほしいのです。