日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

ホンネの就活ツッコミ論(9)志望動機に異変アリ
~軽視する企業が続出!?その陰にあるもの

石渡嶺司 authored by 石渡嶺司大学ジャーナリスト
ホンネの就活ツッコミ論(9) 志望動機に異変アリ~軽視する企業が続出!?その陰にあるもの

 学生が取り組むエントリーシート。その中でも多くの学生を悩ませるのが志望動機です。ガクチカ(「学生時代に力を入れたこと」の略)は自分の話を書けばいい、自己PRも同じ。志望動機はどうでしょうか。「企業の良さを書け」とよく言われますが、選考に数社ないし数十社、参加しているとそこまで深く企業研究ができません。そのため、志望動機をうまく書けない(面接で言えない)学生が続出しています。それもあってか、この志望動機に異変が起きています。今回はこの本能寺の変、ならぬ、「志望動機の異変」がテーマです。

全国どの学生も似たり寄ったり

 私は関西方面での取材や講演も多く、月に1、2回は関西にいます。先週、東京で学生からの依頼を受けANAのエントリーシートを添削。その後、大阪に移動し学生と話をしていると、やはりANAのエントリーシートを添削することになりました。志望動機の項目を読んでみると、思わず苦笑いしてしまいました。

学生A(東京) 「貴社は『あんしん、あったか、明るく元気』をスローガンとされており(中略)私もその一員になりたいと思いました」

学生B(大阪) 「貴社はSKYTRAX社のエアライン・スター・ランキングにて世界最高評価『5スター』を5年連続で受賞いたしました。(中略)私もその一員になりたいと思い志望しました」

流通科学大学キャリアセンターに張り出された求人票。学生は気になる企業をチェックする

 どちらもANAのスローガン・受賞歴など企業のいい部分を前にもってきたうえで「その一員になりたい」。特定の企業の締め切り間近になると学生からのエントリーシート添削、相談が多くなります。そのときに志望動機欄を見ると、ANAのエントリーシート例のように、似た内容の志望動機になっています。ということは、8割から9割の学生が固有名詞を変えれば、ほぼ同じ内容になっているものと想像できます。

下着メーカーで「下着が好き」は男子も同じ

 志望動機は企業について書こう、とよく言います。その通りなのですが、企業に寄せすぎて悲喜劇となってしまうことがよくあります。女性下着メーカーだと、私の知る限り、学生の志望動機で多いのが、「貴社の製品が好きだから」。いや、まあ、女子学生ならいいでしょう。問題は男子学生。そこまで女性下着に詳しい、と思えない男子もこのように書きます。詳しくなければ嘘くさいことこの上ないですし、詳しければ詳しいでどういう学生生活だったか、考えてしまいます。

 学生も相当苦心するらしく、2012年1月25日付けの日本経済新聞電子版・日経就活探偵団2013「志望理由に悩んだときどうする?」ではワコール、トリンプ・インターナショナル・ジャパン、グンゼの3社のコメントが出ています。

就活カフェ「キャリぷら大阪」での模擬面接。志望動機をどう話すか悩む就活生は多い

 ワコールでは、「男性目線で女性用の下着を作りたい」という男子学生はよくいるとあります。どういう下着か、ES添削の際に女子学生が同席しているとセクハラすれすれになりそうです。

 トリンプ・インターナショナル・ジャパンでは、「紳士向けブランド『HOM(オム)』の営業をやりたいという男子学生が多いです」と。一見するともっともらしい、それでいて「下着が好き」「男性目線の~」よりは、まともそうです。

 ところが、記事にはこうあります。「しかし、同社の主力事業はあくまで婦人下着。『かわいそうな気はします』と伊崎さん(注:採用担当者)は同情するが、特に強い印象を与えられるわけでもないようだ」

 この連載の7回目でご紹介した鉄道オタク学生が鉄道会社に採用されない理由とほぼ同じ。企業はビジネスの拡大を目指すのが常識。鉄道会社は主力となる不動産、流通でも働ける学生を採用したがります。同じく、下着メーカーが女性向け下着がメインなら、男子学生でも女性向け下着の事業で働けそうな学生を採用したい、と考えるのが当然でしょう。

 では、どうすればいいのか。ワコールだと多いのが、「女性の美しさを手助けしたい」「女性がいきいきできるように手助けしたい」とあります。あまり、ひねりがなさそうですが、採用担当者のコメントは、「『女性を応援したい』というのはワコールの存在理由であり、否定できません。そういう気持ちがないと働けませんし」。

 グンゼの採用担当者は、さらに志望動機を軽視しているようなコメントを出しています。「グンゼの人財開発室の姫田拓也さんは、そもそも学生が面接官に強い印象を与える志望理由を言うのは難しいと見る。『(社会経験のない学生が)もともと当社を深く知っているとも思えない。どの学生も似たような志望理由を言うのは、ある程度仕方がない』という。これは各社共通のようだ」

 この日経電子版記事が出てからすでに5年が経過しています。読者の方が就活中の学生であれば、そのほとんどは高校生ないし中学生だったはず。そんな前から企業側も志望動機は軽視するようになっていました。

流通科学大学キャリアセンター内

「『製品が好き』以外でお願いします」の注意書きも

 では、現在、企業側は志望動機をどう見ているのでしょうか。一見すると、志望動機はエントリーシートなど選考書類に書かせる企業が少数派、とはなっていません。相変わらず、記入させる企業の方が多数派です。さらに言えば、面接でもよく出る定番質問のままです。志望動機の地位は変わらないままか、と思いきや、陰では大きな地殻変動が起きていました。

 すなわち、「エントリーシートには設問として残すし、面接でも聞く。が、実はそこまで重視していない」というものです。あるメーカーでは、あまりにも「ファンです」「好きです」と志望動機に書く学生が多いのか、数年前から志望動機には注意事項として、「『××(その社の製品)が好き』以外の理由を書いてください」と入れるようになりました。

 そんな面倒な但し書きをいれるならやめればいいのに、と学生の方は思うでしょう。そこは日本の企業社会、そう簡単には行きません。採用担当者の実務担当者に話を聞くと、その大半は志望動機がばかばかしい、と感じています。ところが、エントリーシートの設問ないし面接の質問で切る企業は半分以下まで減ります。

 その理由は他でもない、企業社会の構造にありました。「うちの社、社長・役員クラスが最終選考を担当。それで、毎年のように『今年の学生の志望動機、聞くのが楽しみ』と話す。そう言い続けている以上、志望動機を切り捨てるわけにはいかない」。

神戸の米穀業「いづよね」がブース訪問者に渡す内定祈願米。学生も真剣なら企業も真剣

 確かに、社長や役員が志望動機を重視しているのに、異議を唱えるのは、難しいところ。よほど、志望動機についてネガティブな理由があれば別ですが、そうでなければ残すしかありません。そのため、この企業では、エントリーシートに志望動機欄が残っています。ところが実際には、「どうせ同じだから読み飛ばしている。それよりは、ガクチカをしっかり読んだ方がどんな学生か理解できる」とのこと。

 学生からすれば、意外かもしれませんがこうした企業は少なくありません。ある採用担当者は、「志望動機、みんな頑張って、オリジナルカラーを出そうと苦労されています。でも、うちはどうでもよくって、と言って、社内事情から志望動機欄を外すわけにも行かず...。学生には申し訳ないと思うのですが」と苦い顔です。

志望動機重視は地方、中規模に多い?

 志望動機を軽視するか、重視するか。私の取材経験では、大企業やBtoBの商社・メーカーだと軽視するところが多いようです。「みんな同じ志望動機。正直、いらない」「うちの製品・事業に消費者としてなじみがあるわけがない。社への愛着は面接で聞いていけばわかる」などが理由。

 地方企業や中規模クラス(従業員数だと200~700人)だと、やや重視する企業が多いようです。「社長や役員が聞きたがる」「企業理念に共感しているかどうかは見ておきたい」などが理由。

 従業員数50人未満の小規模企業だと、「志望動機も何も、うちのことをよく知らなかった学生に志望動機を聞くこと自体、無理」として、聞かない企業が出てきます。私もそれは正しい戦略、と考えます。

 余談ですが、中小企業の中には、独自の選考書類の作成にまで手が回らないせいか、定型の履歴書・エントリーシートを使います。そのため、志望動機欄も残るのですが、そうなると学生は苦しみます。「この間、気になった企業があって。従業員30人しかいない企業なのですが、合説(合同説明会)でいい雰囲気だったので、志望してみようと思いました。でも、志望動機、うまく書けなくって。落ちたらショックなので選考参加はやめました」

 中小企業が採用難に苦しんでいるという話をよく聞きます。私は「志望動機は聞きません」宣言を出すだけでもかなり変わると思うのですが、いかがでしょう?

理念に寄せるか、自己PR型か

 話を就活中の学生に戻しましょう。軽視する企業が増える中で、それでも志望動機があれば学生はどうすればいいでしょうか。私は方法論としては「企業理念に寄せる」「拡大しているビジネス(事業)に寄せる」「自己PRを混ぜる」の3点あると思います。

 1点目、企業理念に寄せる。これはかなりオーソドックスな方法です。2012年の日経電子版記事にもワコールの担当者が「否定できない」とコメントしています。企業理念そのものについては、重視する企業、そうでない企業、分かれます。ただ、エントリーシートについては、企業理念に共感した、と書いておけば無難と言えば無難。企業理念を重視していない企業でも、ワコールと同じく「否定できない」のです。大きなプラスにはならないですが、マイナスにもならない方法とも言えます。ただ、採用担当者に話を聞くと、「志望動機は、最低限、文章としての体裁が整っていればどうでもいい。企業理念? ああ、一番じゃないですか。プラス評価にはなりにくいですけど」とのこと。

 2点目、拡大しているビジネス(事業)であれば、そこで頑張ります、と書く方法です。これもそこそこ多そうですが、一応、企業研究をしました、と努力の跡は見せられます。この方法の欠点は、そのビジネス(事業)に合っていない、と判断された学生は次の選考に進みにくい、という点でしょう。

 例えば、海外事業が拡大している企業に対して「海外事業に関わりたい」と書いて「この学生は国内事業の方が向いていそう」と判断された場合、どうでしょうか。他の志望動機ならマイナスにならなくても、「海外事業に関わりたい」と書いてあればマイナスの評価になりかねません。

 3点目は前回の記事でもご紹介した自己PRを混ぜる方法です。志望動機なのに企業の話がほぼ出てこない方法で、学生からすれば違和感があるかもしれません。が、無理に企業に寄せて自滅するよりも自分の話、自己PRを混ぜておけば、うまくはまればプラス評価されやすい方法でもあります。多くの学生を悩ませる志望動機。就活が続く限りは消滅することはないでしょう。企業に寄せるか、自分に寄せるか、悩みながらまとめてみてください。