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Road to マルチリンガル(2)言語学習において最も重要な
「環境構築力」とは

秋山燿平 authored by 秋山燿平東京大学大学院
Road to マルチリンガル(2) 言語学習において最も重要な「環境構築力」とは

 みなさんこんにちは。海外経験なしでマルチリンガルになる方法をお伝えする「Road to マルチリンガル」の第2話です。前回は日本人が英語を話せない本質的な理由について自分の考えを述べました。今回は「言語学習において最も重要な力」についてお伝えします。新たに言語学習を始めようとしている方、そしてすでに学習中のみなさんも参考にしていただければと思います。

 では、私が考える言語学習において最も重要な力とは何か? それはズバリ「環境構築力」です。1回聞いただけでは具体的に何のことか分からないと思いますが、この力について今回は解説していきます。

 環境構築力とは、大きく分けて以下の2つに分けることができます。

1.心理的な環境を設定する力(≒マインドセット)
2.物理的な環境を設定する力(≒成功体験を積める機会を作る力)

 この2つを、それぞれ詳しく見ていくことにしましょう。

1.「ぬるま湯」を前にしても走り続けられる心のセットアップ

 まずは心理的な環境を設定する力です。ここの内容は第1話の内容とリンクする部分が多いので簡単にお伝えします(まだお読みでない方は、まず第1話をご覧になることをおすすめします)。日本という国は、「英語が話せなくても不自由なく暮らせる国」です。そんな場所で強い意志もなく学習を始めてしまうと、困難に遭遇した際、「別に話せなくても幸せになれる」という「ぬるま湯」に逃げ込み、習得が実現しなくなってしまいます。これを防ぐために「ぬるま湯を前にしても走り続けられる心のセットアップ」が極めて重要となるのです。

 言語学習をしている方は、おそらく全員が「なぜ勉強をしているのか?」に対する答えを持っているでしょう。しかしその理由は、「話せなくても特に不自由しない」という事実を前にしても自分を奮い立たせてくれるほど強固なものでしょうか? 学習中には必ず困難が待っています。その際に挫折してしまうのか? 壁を乗り越えるだけのエネルギーを手にすることができるのか? それを左右するのがまさに「心理的な環境を設定する力」なのです。「その言語を話せるようにならないと、自分が大きな損をしてしまうような心理的環境」を学習開始前に自分で作ることができるか、ここが習得の鍵を握っているといえます。

スポーツ選手が外国語を話せるようになるのは「危機」と隣合わせだから

 例えば海外で活躍するプロスポーツ選手は、全員が高学歴なわけでも、言語学習が好きなわけでもないでしょう。しかし何年かすれば全員が現地語でコミュニケーションを取れているはずです。それはなぜでしょうか? 私の考えですが、「その言語を話せないと、監督や選手とコミュニケーションが取れず、結果として自分が解雇される確率が高まる」という明確すぎる危機が存在するからだと思います。

 つまり、特に意識せずとも「どんな壁でも乗り越えられる強固な心のセットアップ」が完了してしまっているのです。日本に住んでいて、言語を使う職種についていない方にはそのような環境がありません。ですから自分で作り出す必要があります。まずは自分が「どのような時に頑張りたいと思えるのか」を深く理解し、そしてその感情が湧き出るような目的を言語学習に適応する。このプロセスが、長い言語学習という道において強い土台となるのです。

2.成功体験を積める環境を自ら作る

 さて、次は物理的な環境を設定する力です。上記の心理的な環境が上手に設定できても、言語学習は長い道のり。それがずっと何もない平坦な一本道だと、最後までモチベーションを維持することはなかなか難しいと思います。一方、道中に何かしら建物や目的地までの距離が書かれた看板などがあると、進み続けるエネルギーを得られることでしょう。

 言語学習には、前進したことが実感できる「成功体験」を数多く得ることが欠かせません。「自分は話せるようになっているんだ」という体験が高頻度で得られる環境を自分で作りましょう。これが「物理的な環境を設定する力」です。

富士山に登頂できるのは成功体験のエネルギー補給ができるから

 富士山も3776mの高さをただひたすら登るだけだと、挫折してしまう人が続出するでしょう。しかしなぜ登山経験のない人でも頂上までたどり着けるのか? それは途中に「1合目、2合目......」のようにどれだけ登ったかが明確になる目印があることで、「日本一の山をここまで登った」という成功体験が生じ、頂上まで登りきるエネルギーになっているからだと思います。言語習得という山の頂上までの道に、適度な間隔で小屋を建てるイメージで自分がワクワクするような道を作る力が、最速での習得を実現すると考えています。

オフライン・オンライン問わず「思いを伝えたい相手」を作ろう!

 では、具体的にはどのような環境が成功体験に溢れた環境なのでしょうか? 習得を実感する瞬間は人によって異なると思いますが、多くの方に共通するであろうこと、それは「外国人に言いたいことが実際に伝わったこと」でしょう。言語は本来「相手に思いを伝えるため」にあります。ですから思いが伝わった時こそが強い成功体験になるはずです。

 そのためにまずは思いを伝える対象、すなわち学びたい言語の母語話者と会話ができる環境を作るべきです。もし周りに該当する外国人がいるなら、学習を始める前に「これからあなたの母国語を勉強しようとしている」と宣言し、手伝ってもらえる関係を構築しておきましょう。彼らにその言語でコミュニケーションが取れた時、伝わった喜びがモチベーションを下支えしてくれるはずです。

 とはいえ、日本で既に外国人の友達がいる人は多くないでしょう。オフラインの交流会などに参加するのも手ですが、それも難しい場合も大いにあると思います。そんな時はオンラインで外国人と繋がってみましょう。最近ではユーザー同士が相互に教え合う「言語学習アプリ」も普及しています。

 日本語を勉強したいと思っている外国人と繋がり、チャットや無料通話ができる関係を多く作ってみてください。直接対面で会って話すより影響力は小さいでしょう。しかしそのような関係を数十人と作れば、1人と対面の関係を作るより良い環境設定になっているかもしれません。

 また成功体験に溢れた環境は、「外国人と話せる環境を作ること」だけではありません。例えば検定を定期的に受けて、自分の成長を定量的に数字で見ることが成功体験になるなら、それも素晴らしい手段の1つでしょう。

単語帳の1ページ目に取り組む前に「環境構築」を

 今回は、自分が最も言語学習において大切だと考える環境構築力についてお話ししました。

1.心理的な環境を設定する力(≒マインドセット)
2.物理的な環境を設定する力(≒成功体験を積める機会を作る力)

 「言語を勉強しよう」と決めて、がむしゃらに単語帳や参考書を1ページ目から始めていませんか? それよりはるかに大事なのがこの環境構築です。どれだけ優秀な高跳びの選手も、踏切る際の地面がぬかるんでいたら高く飛べません。言語習得というゴールにたどり着くために、まずは飛び立つ土台を入念に整えましょう。今回までは言語学習について少し抽象度の高い話をしてきました。次回からは、より具体的な学習法についてお話しします。