日本経済新聞 関連サイト

OK
[ liberal arts-大学生の常識 ]

仏の急進派台頭
原動は「放置」と「甘え」

仏の急進派台頭原動は「放置」と「甘え」
フランス大統領選1回目投票で第2位になった国民戦線のマリーヌ・ルペン党首

 異例ずくめの選挙だった。4月23日に行われたフランス大統領選の第1回投票。首位争いを演じた4人の候補者のうち、2人は大衆迎合主義(ポピュリズム)で支持率を伸ばした政治家だ。民主主義が成熟したフランスで、なぜ極端な思想が有権者に受けるのか。理由は経済不振やグローバル化への反動だけではない。大国フランスの病巣はもっと深い。

 「イスラム過激派は根絶やしにしないといけない」。極右政党・国民戦線のルペン党首は選挙戦の終盤、南仏マルセイユで怪気炎を上げた。表向きは移民全体ではなく、「イスラム過激派」を標的にしているが、言葉遣いは穏やかではない。それが中東や北アフリカから流れ込む移民に脅威を感じる有権者には「頼もしい」と映る。演説は時折、熱狂的な声援にかき消された。

植民地政策の失敗、分断生む

 2015年の難民危機では大勢の移民・難民が欧州を目指した。だが、ここ2~3年で多くの難民を引き受けたのはドイツやオーストリア。フランスが突出しているわけではない。それでもイスラム系移民を危険視する空気が社会全体に漂う。

 高い失業率や、悪化する治安という問題はある。4月20日はパリで再び銃撃事件が起きた。だが目先のことだけで反移民感情が膨らんだわけではない。原点は1954~62年のアルジェリア独立戦争にある。

 アルジェリアに住んでいた支配層の欧州系住民(ピエ・ノワール)はフランス本国に脱出せざるを得ず、それをフランス右派勢力は国家の屈辱と受け止めた。国民戦線を旗揚げしたルペン氏の父ジャンマリー氏は、独立反対派として戦線に赴いた過去がある。イスラム系を危険視する発想は、この時点で出来上がったといえる。

仏大統領選では欧州中央銀行(ECB)にフランス国債を引き受けさせるという極論すら飛び出す(写真は独フランクフルトのECB本部)

 一方、凄惨な戦いでアルジェリア側には数十万人の犠牲者が出たとされる。フランス側に加担したイスラム系住民も多かったが、渡仏しても差別の対象となり、高等教育を受けたり、定職に就いたりするのが難しかった。フランス社会に溶け込めぬ中で恨みだけがつのる。いまの移民問題の端緒である。

 仏映画「シェルブールの雨傘」は、女優カトリーヌ・ドヌーブが演じる主役が、アルジェリアに出征する恋人と引き裂かれる悲話を描いて戦争終結からほどない第17回カンヌ国際映画祭(1964年)でグランプリを獲得した。だが実際には独立戦争は恋人だけでなく、フランス社会にも深い分断をもたらした。

仏政府が歴史を総括するのをためらったことで傷口が広がった。アルジェリアにどこまで謝罪すべきかを巡っていまでも政治が割れ、腫れ物に触るように移民を扱う。そんな仏政府の態度にアルジェリア出身以外のイスラム系移民も失望し、社会の亀裂が深まった。そこに極右が付け入る隙が生まれた。つまりフランスの植民地政策の失敗がルペン氏台頭の遠因になっているのである。

強い中小企業阻む「親方トリコロール」

 大統領選のもう一人のポピュリスト、急進左派のメランション候補も過去の遺物といえる。同氏の公約を一言で表せば「ばらまき」。貧困撲滅と雇用創出のために財政を拡大するという浮動票目当ての政策だ。裏返せば、左派思想への郷愁が強いことを意味する。

 第2次世界大戦後のフランスは資本主義への疑念がいつもくすぶっていた。1970年代、官庁エコノミストらが政府の役割の重要性を訴えた「レギュラシオン理論」という学説を唱え、一世を風靡した。80年代はミッテラン大統領(社会党)が基幹産業の国有化を探り、最近では経済学者トマ・ピケティ氏が資本主義の矛盾を指摘する大著「21世紀の資本」を記した。

 フランスが強みを持つ基幹産業は原子力や鉄道、航空といったインフラ事業。いずれも大戦後の高度成長期に政府主導で基盤が作られた。「政府の統制が効く重厚長大産業が重んじられてきた結果、政府を通じて経済をコントロールしようという甘えがある」と仏政府筋は自嘲気味に話す。

 もちろん高失業率の背景には硬直的な労働市場や規制の多さという課題がある。だが根っこには官需依存の基幹産業が時代遅れになりつつあるという弱みがあり、その裏にはイノベーションを武器に経済をけん引する「強い中小企業」を育てる努力を怠った仏政府の失政がある。そのツケで雇用が伸びず、左派急伸につながっている。

 結局のところフランス大統領選が混迷したのは、フランスの戦後政治が放置してきた懸案が積もり積もったからだ。いま求められているのは、こうした構造問題を地道に解決していくこと。欧州連合(EU)からの離脱や移民排斥、ばらまき財政といったポピュリズムでは病巣はいつまでも残り、さらにフランスをむしばむことになりかねない。
(欧州総局編集委員 赤川省吾)[日経電子版2017年4月24日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>