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[ skill up-自己成長 ]

Road to マルチリンガル(3)犬かきを覚えたら水に飛び込め
~第一関門の乗り越え方

秋山燿平 authored by 秋山燿平東京大学大学院
Road to マルチリンガル(3) 犬かきを覚えたら水に飛び込め~第一関門の乗り越え方

 みなさん、こんにちは。第1話では「日本は英語が話せなくても不自由なく暮らせる国だから、自らで強力な目的意識を持つことが重要である」こと、そして第2話では「言語学習において最も重要な力は環境構築力である」ということをお伝えしました。今回からは具体的な方法も交えてお伝えしていきます。第3話となる今回のテーマは「外国人と最低限の会話ができるようになるまでの学習法」です。

陸の上でクロールを覚えるより、犬かきを覚えてすぐ水に飛び込んだ方が良い

 日本人はしばしば完璧主義です。言語学習においても「外国人と話せるようになる」という基準を必要以上に高く設定し、文法書や単語帳を何冊もやらないといけないと思い込んでしまっている人も少なくないでしょう。それこそが、言語学習において挫折を生んでしまっているのです。

 私は学習法を質問された時、言語学習を水泳に例えます。どれだけ陸の上でクロールのフォームを練習しても、いざ水に入ると、鼻に水が入ってきたり息ができない恐怖心に襲われたりします。そんな状況の中、練習したフォームのことなど頭の中から消えてしまっているでしょう。そうではなく、最低限溺れないための犬かきだけ覚えたら、すぐに水に飛び込んだら良い。水の中でもがくことで、最低限泳ぐための技能だけが効率的に身につき、結果としてより早く向こう岸までたどり着けるのです。

 言語学習もこれと同じです。いくら文法や単語を暗記しても、いざ外国人を前にすると緊張するし、教科書通りではない相手の訛りや言い回しで不安になり、覚えた内容はどこかに行ってしまっているでしょう。水泳の例でいう「犬かき」レベルのインプットを行ったら、まずは外国人との会話に挑戦してみるべきです。その会話の中で得た知識をストックしていけば、それは一切無駄のない「自分だけの参考書」になります。この過程で、会話ができるレベルにまで最速で到達できるのです。

言語学習における犬かきは、「自己紹介と自分の趣味・身分について語れること」

 では、言語学習における「犬かき」とは何なのか? 初対面の外国人と会話する時を想像してください。お互いに母国語も使っていない、そんな状況でいきなり難しい話をするでしょうか? まずは簡単な話から入ると思います。それも僕の経験上、ほぼすべての場合が「自己紹介」と「自分の趣味」、そして「自分の身分(学生・職業など)」で完結します。なので私は言語学習における「犬かき」を「自己紹介ができて、自分の趣味と身分について語れること」と定義しているのです。

 この文章を執筆している時点で私は8つの外国語を学んでいますが、基本的にまず「自己紹介と自分の趣味・身分をその外国語でどう表現するか」を学んだら、すぐに外国人と話すフェーズに向かっています。単語帳や文法書を使用するにしても、自己紹介と自分の趣味・身分を表現するために必要なものだけを覚える。こうやって言語学習という大海原で溺れないだけの犬かきを習得するのです。

言いたいことを日本語で書いて、それを訳す

 それでは、具体的な学習法についてお伝えします。僕がいつも行う方法は「まず日本語でならどう言うかを考え、それを外国語に訳す」というものです。外国人と会話やチャットをする際、「日本語でならどう言うか」を考え、まず書き出す。そして対応する外国語を調べて訳すのです。

 探す場所は単語帳でも、Google検索しても構いません。「趣味は映画鑑賞 英語」のように言いたい表現を学ぶ外国語とあわせて検索すれば、目当ての表現が表示されるでしょう。そうやって、自己紹介と自分の趣味、身分(学生であれば、大学名や学部名など)についての外国語の知識をインプットしていきましょう。

 ノートにそれらを書いていけば、自分専用の単語帳のできあがりです。自分の好きな趣味であれば、多少高度な単語の暗記でも挫折することはないでしょう。またその過程で出てきた文法事項の中で、使えそうだなと思うものも書き残しておくと良いと思います。

相手との会話の潤滑油、相槌も覚えよう

 このようにして自分から発することができるようになったら、次は相手の話す内容について反応できるようになりましょう。会話は相手とのキャッチボール、一方通行ではいけません。しかしだからといって、考えられるすべての趣味についてカバーするのは現実的ではないです。むしろ覚えておくべきは単語より「相槌」だといえます。

 相手との会話をスムーズに成立させるためには、潤滑油である相槌が有効です。こちらが良い反応をすれば、相手も気分が良くなって関係が継続し、長期的に言語習得が容易になるのです。日本語で自分が良く使う相槌を書き出し、ネットで対応する外国語を検索してみましょう。よほどマイナーな言語でなければ、自分にぴったりの表現が見つかるはずです。

自作の単語帳

初期段階で必要な単語数は、200で十分

 上記の自己紹介、自分の趣味・身分に関することが言えれば、言語学習における「犬かき」レベルに到達です。外国人との会話に挑戦してみましょう。ただ、もし余裕があればもう少し単語を増やして表現の幅を増やし、相手の話を理解できるようにしても良いでしょう。

 私のやり方を紹介すると、簡単な基礎単語帳を頭から流し読みし、「初期段階で本当に必要だ」と考える単語だけ自分のノートに書き出しています。私が初期段階で覚えるのは、疑問詞や接続詞等も合わせて200語程度。あとは疑問文の作り方、そして日本人が良く使う「~と思います」の言い方、過去形と未来形の作り方などが分かっていれば、初期段階として十分な知識のストックがたまっているといえるでしょう。

 いかがでしたでしょうか? 一度「自分はこの外国語で会話ができるんだ」という成功体験を得られたら、その後は困難なことがあっても乗り越えられる確率が大きく上がります。この状態に達するまでが最も重要であり、「最初かつ最大の関門」です。

 「まだ知らないことがたくさんあるじゃないか」と不安になってしまうかもしれません。しかしそれ以上に、「会話を成立させられる」という成功体験を得ることが重要なのです。その状態に到達さえしてしまえば、言語学習が一気に楽しくなり、知識の補填は非常に容易になります。本当に自分が会話で使う表現だけに絞って、初期段階は学習を行いましょう。