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世界から置き去りにされる日本の家電

世界から置き去りにされる日本の家電

 「OK、グーグル、今日の天気は?」「アレクサ、ショパンをかけて」――。携帯端末やテーブルに置かれたスピーカーに話しかけると、欲しい情報やサービスをすぐに届けてくれる、そんな新しい家電製品が欧米市場で人気を呼んでいる。人工知能(AI)を使い、クラウド上のデータベースから必要な情報を探し出してくる「AI家電」だ。4月20日からポルトガルの首都、リスボンで開かれた欧州最大の家電見本市「IFA」の国際記者会見でも、そうしたスマート家電やAI家電が大きな話題となった。

デザイン・使い勝手が重視される時代

普段は鏡として使える独ディラー社の壁掛けモニター

 「普段は通常の鏡ですが、指示を出すと音楽配信サービスのスポティファイの音楽や動画配信のネットフリックスの映像などを流してくれます」。独ベンチャー企業、ディラーのダニエル=ジャン・ガール最高経営責任者(CEO)が同社の壁掛けモニターの説明を始めると、多くの記者が群がった。製品名は「デジタルミラー」を表す「Dirror(ディラー)」。見た目は普通の鏡だが、米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」が搭載された縦型の液晶モニターで、米無線スピーカーメーカーのSONOS(ソノス)の技術が組み込まれている。白雪姫の魔法の鏡のように、鏡が音声入力などに応えてくれるという仕掛けだ。

 「AIを搭載したスマートスピーカーの出荷台数は2016年で500万台。2020年には5900万台に急増する」。英調査会社、IHSテクノロジーのアナリスト、ポール・グレイ氏はスマートスピーカーの市場拡大をこう予測する。音声認識技術は米アップルの「Siri(シリ)」、米グーグルの「グーグル・アシスタント」、米アマゾン・ドット・コムの「Alexa(アレクサ)」が有名だが、老舗のSONOSに加え、先月にはサムスン電子も同社の音声認識技術「Bixby(ビックスビー)」を搭載したスマートフォン(スマホ)「ギャラクシーS8」を発表し、一気に市場に火が付き始めたからだ。「これからの家電製品は音声認識が当たり前になるだろう」とグレイ氏はいう。

 「自動車の評価はエンジンの馬力などの性能よりデザイン性や使い勝手で決まる時代になった。テレビも解像度や画質で語る時代は終わった」。サムスンのディスプレー部門を担うマイケル・ゾラー副社長は指摘する。サムスンはインターネットを使ってテレビ放送以外の動画や映像を視聴できるスマートテレビ市場をけん引してきたが、今度は絵画鑑賞などができる壁掛け型テレビ「ザ・フレーム」を商品化、「5月末から欧州で発売する」と表明した。部屋の雰囲気に合わせ、テレビの縁も白い枠やウォルナットなど3つのタイプから選べる。絵画は100枚用意されており、装飾性にも配慮したテレビだ。

 欧州のテレビ市場は液晶テレビ需要が一巡したことで最近は伸び悩んでいたが、「ネットフリックスやユーチューブの映像を大画面で見たいというミレニアル世代の登場で再び需要が高まっている」と独家電通信機器協会(gfu)のハンス=ヨアヒム・カンプ会長はいう。同協会の調査によると、2020年には世界のテレビ販売の73%がスマートテレビになり、「先進国でいえば9割になる見通し」だと話す。今後は室内の照明器具や洗濯機、冷蔵庫などもネットにつながり、テレビを核にそれらを音声などでコントロールできる時代が間近に来ていると指摘する。

事業モデル・技術・制度面で出遅れ

 一方、日本のテレビ業界といえば、4Kや8Kなど画質追求型の商品開発からいまだに抜け切れていない。またケーブルテレビやネット動画配信に比べ、地上放送が支配的な日本では、視聴率モデルの維持がテレビ業界の最重要課題となっている。英BBCの見逃し視聴サービスにならい、民放各局がスマホ向けの映像配信サービス「TVer(ティーバー)」を始めたが、実は視聴者の利便性向上よりも、ハードディスク録画による広告飛ばし視聴を防ぐことが狙いとなっている。日本の家電メーカーが海外のテレビ市場で守勢に立たされた背景には、そんな国内テレビ業界の意向を忖度(そんたく)したガラパゴス的な商品開発が影響している。

 さらにグーグルやアマゾンのような音声認識技術を提供するには、高度なAI技術とそれを支えるクラウド基盤が欠かせない。AIの活用には大量のデータから必要な情報を導き出す「ディープラーニング(深層学習)」の技術が求められる。米IT(情報技術)企業がAIの活用で先行したのは、クラウド上に大量の情報を集め、それをビッグデータ分析できる技術を持っていたからだ。ハードウエア志向の強い日本企業には、そうしたデータ分析ができる専門家が少ないこともAI家電に出遅れた要因となっている。

音声に反応し自動応答する米アマゾン・ドット・コムの「アマゾン・エコー」

 9月に独ベルリンで開かれるIFAを主催する独メッセ・ベルリンのディレクター、イエンズ・ハイテッカー氏は「米企業の音声認識サービスもまだ始まったばかり。家電技術に強い日本にはまだまだ巻き返しのチャンスがある」と日本メーカーにエールを送るが、自ら製品を持たないグーグルやアマゾンの動きは予想以上に速い。アマゾンはアレクサを初めて搭載したスマートスピーカーの「アマゾン・エコー」を2014年秋に発表した後、韓国のLG電子や中国のレノボ・グループなど国内外のメーカーに積極的に技術を供与。1月に米ハリウッドで開かれた北米最大の家電IT見本市「CES」には、何と700種類ものアレクサ搭載製品が登場した。

 日本でもLINEやオンキヨーなどアレクサの採用を表明する企業が出てきたが、自前技術にこだわる大手の家電メーカーには、グーグルやアマゾンと表立って協業する動きは見られない。結果的にアレクサの日本語対応が遅れ、アレクサ関連商品の多くが電波法で定める「技術基準適合証明」、いわゆる「技適」マークを取得できていないことから、日本市場には入っていないのが実情だ。欧米で便利に使われ始めた技術の存在自体を日本の消費者は知らないため、AI家電を求めるユーザーの声も高まっていない。

日本のメーカーはプライド捨てよ

 もちろん日立製作所や三菱電機など独自にAI技術を活用しようという動きもある。人の気配を感知して自動的に作動するエアコンなどだ。しかし、いずれの技術も各メーカーの独自技術だけに、様々な家電製品をすべてネットワークでつなぎ、スマートホームを実現しようという海外のような動きにはなっていない。

 家電製品といえば、自動車と並ぶ日本の輸出商品の二大柱だったが、今は韓国や中国のメーカーにお株を奪われている。日本がリードした携帯端末市場も、結局はアップルやグーグルにさらわれてしまった。さらにスマート家電やAI家電でも、米企業に主導権を握られるようであれば、日本の家電業界にとっては大きな打撃だ。そうした事態を避けるためには、日本の家電メーカーも、かつてのプライドを捨て、AI家電技術の標準化や普及策などで米IT企業と前向きに手を携えて行く戦略が必要だといえよう。
(編集委員 関口和一)[日経電子版2017年4月25日付]

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