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交流?集中?フリーアドレス、
働き方改革で応用

交流?集中?フリーアドレス、働き方改革で応用

 固定席がなく、好きな席で仕事できる「フリーアドレス」のオフィスが、働き方改革で注目を集めている。様々なタイプの席やスペースを設けて交流を促し、生産性を高めようと、本社移転などを機に取り入れる例が相次ぐ。導入した企業では無駄な会議が減り、残業が減る効果も出ている。

琵琶湖の見える談話スペース

 ヤフーは2016年10月、東京ガーデンテラス紀尾井町(東京・千代田)への本社移転を機にフリーアドレスを取り入れた。勤務フロアは机をジグザグに並べて、わざと動線を複雑にした。社員同士がすれ違う機会を増やして、コミュニケーションの活性化につなげている。

吹き抜けになった階段の踊り場でコミュニケーションをとる社員(大津市の「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」)

 ヤフーは15年までの3年間で時間外労働を25%減らした。新本社には作業の効率を上げるため、疲れた時に昼寝できるスペースも設けている。生産性を高め、さらに残業を減らす狙いだ。

 堀場製作所は16年5月、大津市の琵琶湖畔に開発・生産の新拠点「HORIBA BIWAKO E―HARBOR」を開いた。開発や生産、設計の各部門の間に、社員が集まって議論できるフリーアドレスの席を設け、グループ同士の会話が生まれる仕組みにした。

 堀場厚会長兼社長の発案で、社員はエレベーターではなく、琵琶湖に面する吹き抜けの階段を使う。踊り場には机や椅子を置いた談話スペースがある。部門間のちょっとした相談やアイデア出しに役立て、生産性を前工場の2倍、リードタイムを3分の1にする目標を掲げる。

 フリーアドレスは1990年代から日本で広がり始めた。当初はオフィス面積を減らし、賃料を節約する目的が多かった。政府が成長戦略として働き方改革に力を入れる中、勤務スタイルを変えるツールとして、改めて光が当たっている。

 不動産サービス大手のCBRE(東京・千代田)はフリーアドレスのコンサルティングも手がける。同社によると「フリーアドレス関連のコンサルティングの受注件数は前年の2倍のペースで伸びている」という。

テナントにもノウハウ提供

 フリーアドレスでノウハウを蓄え、自社以外に広げようという企業も出てきた。三菱地所は18年3月までに本社を大手町パークビルディング(同)に移し、フリーアドレスを部分的に導入する。巨大な共用スペースも設け、複数部署の社員がプロジェクトごとに集まって仕事できるようにする。

 三菱地所は本拠地の丸の内などで大規模な街づくりを進めている。新本社のフリーアドレスで培ったノウハウや生産効率を高める照明・空調を一帯の自社ビルのテナントにも提案し、街全体の働き方改革に生かす。

好きな席で仕事をすると生産性向上につながる(東京・港の三井デザインテック本社)

 導入した企業ではすでに効果が表れている。オフィスや商業施設の設計・施工を手がける三井デザインテック(東京・港)は16年5月、住宅関連部署で採用した。社員数より席数を減らし、立ったまま効率的に会議できるカウンターやカフェスペースを設けた。異なる部署の社員が日ごろから意見を交わしやすくなり、会議の頻度が減った。

 同社は14年にオフィス・商業施設などの部門でフリーアドレス制を先行導入した。ノートパソコンを支給し、場所や時間を問わず働けるようにした。残業時間は月平均で21時間減った。

 通販ブランド「ショップジャパン」を運営するオークローンマーケティング(名古屋市)は、2年半前に東京オフィスでフリーアドレスを全面的に導入した。「仕事しながら打ち合わせもでき、会議時間が短くなった」。残業時間は従来より平均5時間減ったという。

交流か、一人きりか

オークローンマーケティングは東京オフィスでフリーアドレスを全面的に導入している

 取り組みは金融業界にも広がる。りそなホールディングスと傘下のりそな銀行、近畿大阪銀行は、大阪市内のグループ拠点で16年7月にフリーアドレスを採用した。対象は作業の共通点が比較的多いシステム、事務など計9部門、約180人。スペースの有効利用と組織を越えた意思疎通が業務効率の向上につながっているという。

 交流しやすい環境は、時に集中の妨げとなりかねない。最近のフリーアドレスは1人きりになれたり、静かに作業できたりする環境を用意しているのも特徴だ。

 ヤンマーは1月、約500人が働く大阪市の本社でフリーアドレスを導入した。執務フロアには囲いのある1人分の作業スペースが並ぶ集中コーナーも設けた。話し合いが必要な時と、1人で集中したい時でメリハリをつけ、効率的に仕事を進めやすくなったという。
CBREは、14年の本社移転を機にフリーアドレスを採用した。電話禁止で集中できる机など、仕事に応じて異なるタイプの席を用意した。オフィス内にセンサーを設置し、従業員がどのようにオフィスを使っているかデータを蓄積。利用頻度の高いスペースを増やす計画だ。

 せっかくフリーアドレスを導入しても、特定の席に同じ人が居座り、実質的に固定席と化すケースもある。相性の良い人同士が固まってしまい、交流が深まらない可能性もある。フリーアドレスを働き方改革につなげるには、的確な運用や企業の枠を超えたノウハウの共有も必要になりそうだ。
(蛭田和也、山本紗世、中西誠、中尾良平)[日経電子版2017年4月25日付]

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