日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

お悩み解決!就活探偵団2018ANAも導入、
AI採用は就活生に不利か

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 ANAも導入、AI採用は就活生に不利か

 「志望企業が採用に人工知能(AI)を使っているようです。どう対策すればいいのでしょうか」――。就活探偵団にこんな相談が舞い込むようになった。企業側のねらいはどこにあるのだろうか。そして、対策はあるのだろうか。現状を探ってみた。

6000人のデータを元に「成長予測モデル」

イラスト=篠原真紀

 「この学生は将来、入社後に活躍できるか」。インターネット広告大手のセプテーニ・ホールディングスの採用は、エントリーシートの内容から、役員による最終面接まで、AIによる診断を採否の尺度に利用している。採用企画部の江崎修平次長は、「その中核となるのが、機械学習を使った『成長予測モデル』です」と話す。

 同社は、2009年ごろから蓄積しはじめた約6000人の社員データを活用し、2014年度から採用活動に応用している。2018年卒を対象にした今年の新卒採用では、AIが導き出したその人材の成長予測を、採否の判断に加えることにした。

 採用ステップは、ウェブサイトで簡単なアンケートに答え、独自の適性診断を受けたのち、就活生らによるグループワークが2回、役員との面接が1回だ。「役員面接では、これまでの結果と役員の印象を照らして評価していますが、両方の結果はほとんどずれていなかった」(江崎次長)。配属もこの「成長予測モデル」と、チームとの相性をもとに、相性のよい部門へあてはめていくという。

 「インターネット広告業界は、人材獲得競争が厳しい。人気の高い学生は採りにくいので、他の企業とかぶらず、かつ優秀な人材を見抜く方法を考えた」(江崎次長)。社会のさまざまな分野で、もはやAIは流行語状態。そのトレンドは就活生にも襲いかかっているが、就活探偵団が取材した範囲では、同社はAI採用で最先端を走る企業の一つだ。

指の動きや迷いで「ウソ」発見

 全日本空輸(ANA)もAIを使った採用に踏み切った。人間の生まれつき持っている性格をAIが診断するアプリ「GROW(グロウ)」の利用を、2018年卒の採用から事務職で必須にした。「通常のエントリーシートによる書類選考と同時に、面接に進む学生を選ぶ上での補完の位置づけとして学生のひととなり、人柄を理解するための新しいツールとして導入を決めました」(ANA広報)

 GROWは生まれつき持っている性格をAIが診断するアプリ。友人や知り合いをアプリに招待し、いくつかの質問に回答してもらうと第三者の目で見た自分の強みや弱みが分かる。弱点を克服するためのアドバイスや、おすすめの企業も表示してくれる。見かけは学生が自分にあった企業を探すツールだが、採用に利用することで企業が注目しているのが、「本当の性格診断」だ。

AIを活用した新卒応募者の診断結果(セプテーニ提供)

 「学生が自分で性格診断の結果をコントロールできなくなる初めてのケースになる」。このアプリを開発したInstitution for a Global Society(東京・渋谷)の福原正大社長はこう話す。性格診断は、現在多くの企業が使っている適性検査、SPIがあるが、GROWの決定的な違いは、「ウソ発見機能」だ。

 たとえばSPIでは、学生側が巧妙に回答の辻つまを合わせれば、『私は外交的』だ、といった模範的な結果を作り出すことも可能だ。しかし、GROWは、「スマホを操作する指の動きや、迷っている時間なども含めAIが判断する。友人からの評価も加味するので、外交的と答えているが実は1人でいることが好きだ、といった潜在的な気質を見抜くことができる」(福原社長)。

 ANAは、昨年のインターンシップでGROWを利用し、その性能を評価して18年卒からは本採用での活用を決めた。ほかにも、大手商社や大手ITベンチャーも導入を決めたという。

「自動足切りツール」ではないのか

 まだ本格導入には至らないものの、三菱商事も外部の専門機関と組んで、昨年夏ごろからAI採用システムの開発に入った。人事部採用チームリーダーの下村大介氏は、「人間が見ただけでは、どうしても主観が入るし、応募者が多くて見落としてしまう人材もあるだろう」。テストの点数が1点低いだけで不合格にしてきた人材もこれまでいた、という。

明治大の女子学生は「より自分にあった企業を探しやすい」とGROWを評価する

 「AI採用」に前向きな企業は、概して就活生に人気が高い。たくさんの応募に対し、採用担当の人数には限りがある。応募数が多い企業ほど、AIを使った効率的な採用に積極的なのはうなずける。

 ただ、就活生のとらえ方は複雑だ。

 「やっぱり人間にきちんと判断してほしい。情熱や、やる気は人と会話して初めて分かるもの」(私大4年男子)。こういったアレルギー反応は学生に多く見られた。学生を選抜するための自動的足切りツールというイメージが強いのだろう。採用市場を20年以上見てきたあるコンサルタントも、「AIのアドバイスに従って志望企業を決めたり、自分の方向性を定めたり、頼りすぎるのは危険。なぜなら、5年後、10年後と年を重ねるにつれて、キャリアに対する考え方は変わっていくものだから」と、警鐘を鳴らす。

 一方で、「印象やイメージではなく、能力で採用してくれるなら公平でいいと思う」(都内女子大4年)と、肯定的な意見もある。ANAが採用したGROWを昨年秋から使い始めた明治大学4年の女子学生は、「自分でエントリーシートを書くと、いいことを書こうと『盛る』ことができてしまう。その点、GROWはAIや友達など他者による客観的な分析で評価されるので、より自分にあった企業を探しやすい」と冷静だ。

数千人分を1時間で分析

 このように、自分にあった企業とのマッチングの手段だと考えれば、AI採用への見方は変わってくる。

 リクルートキャリアは、今年の「リクナビ2018」からAIを使ったサービス「リクナビスカウト」のサービスを開始した。企業側は、リクナビ側で用意した「リーダー経験」「接客」といくつかの検索項目を選ぶと、該当する学生をピックアップできる。このサービスは、ホームページ上で複数の企業の応募に使える「オープンES」の利用学生30万人を対象にしている。企業側は、「あなたのここに興味を持った」と選んだポイントを伝えた上で学生にアクセスできる。

 三菱総合研究所もマイナビと共同で「エントリーシート優先度診断サービス」を開発した。企業に届いた数千人分のエントリーシートをわずか1時間程度で分析できる。エントリーシートの内容や説明会の参加状況などをAIに学習させて、内定が出る人の特長を導き出している。マイナビの就職情報事業本部・事業推進統括部の粟井俊介統括部長は「すでに2ケタを超える企業が導入している」とニーズの高さを強調する。

 「あさがくナビ」を運営する学情は、無名の企業でも、その企業に相性がよさそうな学生がいれば、積極的に学生に紹介するためのツールとしてAIを導入している。それ以前にも学生に企業をおすすめする「リコメンドサービス」はあったが、「A社を応募した人はB社に応募する確率が高い」といった精度の低いものだった。今回の開発では、学生の行動履歴も読みこむことで企業とのマッチング率を2割あげているという。LINEのチャットでAIが就活の相談を受けるサービスも始めた。

素のがんばりを見せよう

 人材研究所(東京・港)の曽和利光氏は、「訓練されていない面接官のあいまいな判断よりはずっといい」と評価する。確かに、「なんとなく人当たりがいい」というような、人間の曖昧な目や、学歴フィルターなどより、「素の学生の頑張り」をAIで見抜けるようになるなら、学生にとって朗報だといえるだろう。

 一方で、曽和氏は「最初から最後まで人間の目を介さず、AIが採用の意思決定にまでいたるケースはいまだほとんどない」と指摘する。これまで紹介したケースも、AIはあくまで「人事担当者のサポート」で、すべてを任せているわけではない。「人間の採点したデータをAIに学習させて採用効率を上げても、結局人間がみたことと変わりはない」(曽和氏)。GROWを開発した福原社長も、「機械学習そのものは1950年代からある手法で新しいものではない。むしろ膨大なデータからノイズを取り除き、混じり気のないビッグデータをつくれるのが我々の強みだ」と話す。

 先行するセプテーニの江崎次長は、「いわゆる就活対策、面接のアピールは意味のないものになると思う」と、AIによって「就活対策」が不要になる未来を示唆した。セプテーニは、今年から地方の就活生についてはオンラインのみの面接で、最終選考まで会わずに済ませる「オンラインリクルーティング」も始めている。「対策のできない就活」――これははたして学生にとって朗報なのか。悩ましいところだ。
(松本千恵、松元英樹、鈴木洋介)[日経電子版2017年4月20日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>