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スナップとウーバーで考える
「お金を預かる責任」

伊佐山 元 authored by 伊佐山 元WiL 共同創業者兼最高経営責任者
スナップとウーバーで考える「お金を預かる責任」

 2017年も日米ともにベンチャー業界は、にぎやかだ。3月2日には写真・動画共有サイトアプリ「スナップチャット」を運営するスナップが株式を新規上場した。米国では、フェイスブックに次ぐ技術系(テック)企業の大型上場となり、大きな話題となった。上場初日の時価総額は3兆円を超えた。わずか数年前に始まったサービスが短期間でそこまでの事業に成長したのだ。ベンチャー企業のスピード感は何とも痛快だ。

 米国でこのような大型のベンチャー企業が誕生する背景には、事業の成長段階に応じた資金調達がある。日本でもよく話題にのぼるライドシェア(相乗り)のウーバーテクノロジーズや民泊仲介のエアビーアンドビーも何度も外部から資金を調達している。調達額は累計で数千億から1兆円に達し、彼らはそれらを使って上場への道を歩んでいる。

 米国だけではない。日本では、ソフトバンクグループが10兆円規模の大型ファンドを組成、世界中のベンチャー企業に投資しようとしている。日本のベンチャー企業でも、私の投資先であるフリマアプリ開発のメルカリや通信サービスのソラコムなど、大きな資金を得て世界に挑戦する事例が増えている。

「スナップチャット」は写真が自動消滅する米国で人気のアプリ

 大型の資金調達をうまく利用すれば、大企業では実現できないような速いスピードで、事業も人材も育つ。新しい技術や斬新なビジネスモデルを生みだして大きな付加価値を創造するチャンスが生まれる。

 ときには既存の産業に代わる新しい産業がおこり、雇用の増加と国内総生産(GDP)の成長に貢献する。起業が活発な米国では、GDPに対するベンチャー企業の寄与度が20%を超えるとの見方もある

 半面、最近では、あまりに多額の資金を手にしたために、その行動や経営がおかしくなるベンチャー企業や経営者も増えている。

 シリコンバレーのベンチャー企業のロールモデルになるべきはずのウーバーにおいて、最高経営責任者(CEO)の蛮行や劣悪な企業文化が元従業員によって明らかにされている。豪華なオフィスや福利厚生に資金を使った結果、本業を実行するための資金繰りが苦しくなってしまうという皮肉な例もある。

 私も大型の増資の直後から社内の規律がおかしくなったベンチャー企業の姿を数多く目にしてきた。増資をしたことで、気が大きくなり、品行が損なわれるのだとすれば、非常に残念なことだ。

 「With great power comes great responsibility(大きな力には大きな責任が伴う)」と言われる。「With great capital(大きな資金)」を持つものは「人のお金を預かっている」「投資家の大きな期待がかかっている」という思いを持たなければ、成功などするはずがない。

 資金調達は大きな挑戦へのステップであり、憂鬱になりそうな、厳しい新たな旅の始まりでもある。本来は初心に戻って、改めて気を引き締める良い機会のはずだ。

 資金調達というイベントはベンチャー企業特有の活動ではない。大企業も学校も市町村でも、募金やスポンサー、チャリティーなどを通じた資金調達は日常茶飯事だ。そのような仕事に携わる者は、それは自分や所属する組織の信用と信頼の貯金を使って集めたお金であることを肝に銘じなければならない。

伊佐山 元(いさやま・げん) 1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

[日経産業新聞2017年3月14日付、日経電子版から転載]

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