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羅針盤NEO(15)本格的な開始が宣言された
第四次産業革命

村上憲郎 authored by 村上憲郎 元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長、前名誉会長
羅針盤NEO(15) 本格的な開始が宣言された第四次産業革命

 第四次産業革命については、この連載の第11回目「IoTがもたらすプロシューマー時代とは何か?」と題した記事の中で紹介しました。その記事から1年3カ月後の本年2017年3月、ドイツのハノーバーで開催されたCeBitにおいて、日独が手を携えて推進していくことが、ハノーバー宣言と言う形で発表されました。

CeBITのドイツテレコムブースを訪れた安倍首相とメルケル独首相(3月20日、独ハノーバー)

 CeBitは、ITビジネスに特化した専門展示会の中では、世界最大の規模を誇る国際見本市で、今回は日本がドイツのパートナー国家と言う位置づけで、安倍首相、世耕経産相、高市総務相(代理:太田総務大臣補佐官)も参加されました。

日独協力の枠組みを定めた「ハノーバー宣言」

 3月20日から24日の5日間に渡るCeBit開催前日の3月19日、世耕経済産業大臣及び高市総務大臣とドイツのツィプリース経済エネルギー大臣との間で、IoT/インダストリー4.0に関するサイバーセキュリティー、国際標準化、研究開発分野等での日独協力の枠組みを定めた「ハノーバー宣言」が署名され、公表されました。

 「宣言」の詳細は経産省のHP等に紹介されておりますので、そちらを参照していただくとして、下に概要だけを掲げるにとどめます。

ハノーバー宣言の概要

(1)IoT/インダストリー4.0に関するサイバーセキュリティ
サイバーセキュリティ関連の国際標準化に向けた議論を加速

(2)国際標準化
IoT/インダストリー4.0に関する横断的モデルを2017年1月に日本からIEC(国際電気標準会議)に提案。国際標準化機関において、日独でこの分野の標準づくりの議論を先導

(3)規制改革
2016年のG7情報通信大臣会合で合意されたデータ流通原則の推進、OECDを活用したデータ流通原則の効果測に関する協力

(4)中小企業支援
日独のIoT活用に秀でた中小企業の相互訪問・知見の共有の継続
日独の中小IoT企業連携を両国政府が資金面で支援

(5)研究開発
産業技術総合研究所とドイツ人工知能研究所(DFKI)の人工知能分野における協力MOUの締結
日独企業間の共同研究開発を両国政府が資金面で支援(日本側は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施)

(6)プラットフォーム
民間のIoT/インダストリー4.0の推進団体間の協力

(7)デジタル人材育成
ものづくりを中心とした既存従業員のデジタルスキルの習得・スキル転換に向けた政策連携

(8)自動車産業
自動車産業政策に関する協議の実施。充電インフラ協力に加え、自動運転・コネクテッドカー等の議論を開始

(9)情報通信分野の協力

第四次産業革命がいよいよ開始

 これによって、第四次産業革命を日独が手を携えて推進していくことが宣言され、いよいよ革命が開始されたと見なすべきだと思われます。

 これは前年2016年5月の安倍首相のドイツ訪問時のメルケル独首相との会談後の共同記者会見で、安倍首相からも「日独は科学技術とイノベーションで世界をリードしています。先週、経済産業省と経済エネルギー省の間でIoTとインダストリー4.0に関する共同声明が発表されたことを歓迎したいと思います。今後も日独で緊密に協力して、『第四次産業革命』を実現させたいと思います」と述べられていたことからも想定されていたことではありましたが、いよいよ本格的に開始されたということです。

 私も2日目の21日に開催された在日ドイツ商工会議所主催のセッションにお招きいただき、パネルディスカッションのモデレーターを、例によって下手くそな英語で務めさせていただきました。なぜお招きいただいたかというと、当時、代表取締役会長を務めさせていただいていた(株)エナリスという会社が、エネルギー情報業という新しいビジネスを創生すべく、現在進行中の電力システム改革の一環として、IoTを使ったVPP(Virtual Power Plant)の構築プロジェクトを推進しています。このように、日本の電力システム改革は、IoTの格好の練習場と言う認識が背景にあり、その代表的な企業であるとご評価いただき、パートナー企業としてお招きいただいたからです。当時既に、3月末に開催予定だった定時株主総会をもって、任期満了ということで代表取締役会長を退任予定であることを発表済みではありましたが、最後のお勤めとして、参加させていただきました。

人工知能の開発原則をディスカッション

 パネルディスカッションは、「宣言」の概要(5)研究開発でも触れられている人工知能の開発原則と、それに深く関わる概要(3)規制改革で触れられているデータ流通原則とに絞って行われました。私が総務省の「AIネットワーク社会推進会議」の委員を務めさせていただいていることから、このテーマに絞らせていただきました。2016年4月に高松で開催されたG7情報通信大臣会合で日本が提案した「AI開発ガイドラインに向けての8原則」をたたき台として、議論を進めさせていただきました。

 在日のドイツ企業を代表されたドイツ人のパネラーの方々も、日本政府が提唱し始めている「智連社会」や「Society5.0」と言ったこともよくご存知で、それらにも言及しながら、活発な議論がなされました。「議論した論点は、いづれも深淵な内容を含む、容易に結論に至ることのできない問題なので、少なくとも日独で『人間性』に代表される価値観を共有しながら、引き続き議論を続けよう」と言うことで散開しました。

 「智連社会」とは、総務省情報通信政策研究所が2016年に開催した「AIネットワーク化検討会議」の中間報告書「AIネットワーク化が拓く智連社会(WINS(ウインズ))―第四次産業革命を超えた社会に向けて―」の中で「『高度情報通信ネットワーク社会』、『知識社会』の次に目指すべき、『智慧』の連結に着目した『智連社会』(Wisdom Network Society: WINS(ウインズ))」として提唱されている概念で、それを引き継ぐ形で開催されている総務省の「AIネットワーク社会推進会議」の議論の基礎となる考え方です。

 「Society5.0」は、内閣府の最新の第5期科学技術基本計画(平成28~平成32年度)の中の4本の柱の1番として、以下のように目指されているものです。

i)未来の産業創造と社会変革
自ら大きな変化を起こし、大変革時代を先導していくため、非連続なイノベーションを生み出す研究開発を強化し、新しい価値やサービスが次々と創出される「超スマート社会」を世界に先駆けて実現するための一連の取組を更に深化させつつ「Society 5.0」として強力に推進する。

雇用の喪失といった問題を忘れてはならない

 第四次産業革命は、第11回「IoTがもたらすプロシューマー時代とは何か?」でも紹介した通り、ともすれば「特定最終消費者特注一品生産とでも言うべき製造を、同一品種大量生産と競争できる製造コストで実現する」と言ったバラ色の側面のみが、語られがちです。しかし、その裏側には、工場の無人化、AIによる人間の仕事の代替え、一言で言えば、雇用の喪失といった問題の発生が懸念されているのも忘れてはなりません。

 もちろん、その進展により、あるいは、それを推進するために、全く新しく登場する、人間にしかできない仕事の可能性もあるわけですし、また、少子高齢化の中で労働人口の減少に対処する方策でもあり得るといった側面も考えられるわけではあります。かといって、懸念が完全に払拭できるわけではありません。

 Society 5.0とは、これまでの、Society 1.0 狩猟・自然物採集社会、Society 2.0 農耕社会、Society 3.0 工業社会、Society 4.0 情報社会、に続く新しい人類社会のあり方として、Society 3.0 工業社会、Society 4.0 情報社会、を完成させる第四次産業革命の成果として構想されなければならないと言われています。当然ながら、前節で述べた懸念を最小にする努力と、そのような負の側面が避けられない場合に備えたセイフティネット(例えば、ベーシックインカム制度)の導入と言ったことの議論も合わせてされなければならないと思われます。

 この連載の主な読者である大学生、若い社会人の方々には、この記事が、第四次産業革命、更にその先には、Society 5.0といった人類史を画する大変革が迫りつつあるということへの覚醒を促し、その上で自分の将来と今後の進路とを今一度考えてみる契機となれば、幸甚に存じます。ご健闘を祈ります。