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[ career-働き方 ]

シェアリングで次世代水産業
三陸漁師の挑戦

シェアリングで次世代水産業三陸漁師の挑戦

 東日本大震災の被災地である宮城県三陸沖の若手漁師を中心に立ち上げた一般社団法人「フィッシャーマン・ジャパン」。漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」にするとうたい、インターネットをフル活用した通販など、次代の水産業を作り上げていくことに取り組む。疲弊した三陸の浜を活性化させるため、漁師だけでなく食品加工、マーケティングなど含めた漁業を支える様々な職種の人を指す「フィッシャーマン」を1000人生み出すのが目標だ。若手の革新性や柔軟さを生かし、漁業体験のためのシェアハウス設立や飲食店事業、商品開発など意欲的な事業も手掛けている。活動を支えしているのがシェアリングエコノミー(シェア経済)だ。

地元産品の魅力伝える飲食店を東京に開業

 東京・中野に開業した「魚谷屋」。三陸の魚介を振る舞い、月に一度は地元の漁師が店に赴いて自慢の産品について語ることもある。フィッシャーマン・ジャパンの活動のうち飲食事業や輸出業を担う会社が2016年6月に開いた居酒屋だ。三陸産のホヤや銀ザケ、ホタテなど新鮮なメニューが人気を呼び、多くの客でにぎわう。消費者とコミュニケーションを取りたいと、念願の出店がかなった。ヤフーの社会貢献推進室に籍を置き、フィッシャーマン・ジャパンの事務局長も務める長谷川琢也さんは「自分たちで取った産品の魅力を都会の消費者に伝えられる」と話す。店を出店する資金を集めるのに活用したのがシェアリングエコノミーの一種であるクラウドファンディングだ。

クラウドファンディングで資金を集めて出店した、三陸の魚介を扱う「魚谷屋」(東京都中野区)

 「クラウドファンディングを活用したのは、単にお金を集めるためでない。マーケティングや顧客獲得にもつながり、より多くの人に応援してもらえると考えた」。長谷川さんはシェアリングエコノミーを活用した理由をこう話す。16年5月から資金を募り、1カ月余りで目標の300万円を大幅に超える約500万円が集まった。

 活用したプラットフォームはクラウドファンディングサイト大手の「キャンプファイヤー」。金融機関からの借入金のほかにクラウドファンディングを使ったことでネット上で自分たちの活動のPRになり、魅力を感じて投資した人がそのまま顧客になった。出資した人とつながりができ、消費者としての意見を聞いたり、常連客を獲得したりと、三陸の漁師と都会の消費者との接点づくりに役立った。

 さらに、5月をめどに新たにクラウドファンディングを始める。今度はカキの加工品のオリジナル商品の開発資金を集める。前回得た資金獲得以外のメリットを存分に生かしたい考えだ。

漁業の担い手確保に力

カキ漁師の大野立貴さん。閑散期にはほかの漁場を手伝った

 フィッシャーマン・ジャパンが力を入れているのは飲食業の運営や販路の開拓、商品開発などだけではない。漁師確保のため、15年夏から浜の近くに漁師向けのシェアハウスを用意した。一見普通の民家の庭先に、つなぎの作業着が干され、玄関には大きめの靴が何足も並んでいる。1階にはキッチンやリビングの共同スペース。全国から漁師を志す若者が集まり、共同生活を営んでいる。浜の近くに住まいを用意することで、少しでも移住のハードルを下げようと、空き家を改修した。光熱費込みで月3万円程度。三陸に移り住んでくる若者を受け入れる重要な拠点となっている。フィッシャーマン・ジャパン事務局の島本幸奈さんは「シェアハウスが若い人の呼び込みに役立っている」と手応えを感じている。首都圏で説明会を開いたり、動画付きのホームページなどで漁師の「カッコよさ」をPRしたりと、全国に向けて担い手確保に取り組む。こうして興味を持った若者の受け皿がシェアハウスだ。シェアハウスの利用者を含め、これまでの約2年半で25人ほどの若者を全国から集めることができた。

 高齢化で漁師が減っており、東日本大震災後で加速した三陸の人手不足の解消にも取り組む。人手不足に悩む繁忙期の漁師の仕事を閑散期の人材に手伝ってもらうという試みだ。若手漁師とっては季節ごとに様々な漁を体験することで異分野のノウハウを学べるメリットもある。昨年5月に石巻市に移住したカキ漁師の大野立貴さん(28)は、閑散期にはカキ養殖以外の作業も手伝った。「いろいろな漁場で経験を積めるのはありがたい」と話す。

地域の利用可能なリソースを「シェア」で有効活用

シェアリングエコノミーを積極的に活用するフィッシャーマン・ジャパン(宮城県石巻市)

 こうした取り組みをさらに活性化させるためにもシェアリングエコノミーを活用する。より多くの人に三陸の漁業を体験してもらおうと、今夏からはシェアハウスを利用した民泊を始める。保健所など許可申請の手続きを進めており、参加者の募集はレジャー・体験予約サイトの「asoview!(アソビュー)」を利用する予定だ。日帰りから1泊程度のツアーとして組み込む。実際に船に乗り、漁師が直接教える。今後は国内だけでなく体験型ツーリズムを通したインバウンド(訪日外国人)事業も視野に入れている。

 長谷川さんは「車の座席に、民家のスペース。地方だからこそ余っていてシェア可能なリソースも多い。民泊などのシェアリングエコノミーを活用すれば、都会の人により地元ならではのおもてなし、文化などを体験してもらいやすくなる」と話す。

 将来的にはさらに、漁船や漁場自体の「シェア」など踏み込んだ試みにも挑戦したい考えだ。これまでは地元の漁家が継承するのが当然で、移住した人が新たに漁業権を得るのはハードルが高いなど、新たな人や文化を生かしにくい風潮があった。ただ、震災を経て疲弊した漁業界が生き残り発展するためには変わるべき部分もあるのも事実だ。長谷川さんは「革新が求められる中、都会の人の参加など、新しい要素を生む余白を作るのが『シェア』という考えではないのか」と話す。

 自分たちの産品の魅力を直接伝える拠点である飲食店、漁業従事者を増やすために設立した施設の実現にはつなげたものの、新たな漁業の形を作っていく取り組みは始まったばかり。掲げた目標に近づいていくためにはシェアリングエコノミーはさらに強い後押しとなっていきそうだ。
(仙台支局 酒井愛美)[日経電子版2017年4月6日付]

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