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ワイガヤ授業が麻布流
教師も鍛えるやんちゃ秀才

ワイガヤ授業が麻布流 教師も鍛えるやんちゃ秀才

 東京の名門私立校、麻布中学・高校(港区元麻布)は国を代表する政治家や経済人、文化人など多様なリーダーを輩出してきた。完全中高一貫制の麻布生は、自由を謳歌し、自治を守りながら、東京大学の合格者ランキングで常に上位をキープしている。麻布の人材育成の強さの秘密に迫る。

前回「『男子高御三家』の麻布、茶パツも女装もOK!?」から読む

麻布の授業は双方向

 「こんなはずじゃなかった」。4月に新任教師として麻布の教壇に立った教師は2~3カ月後にはこうぼやくと、平秀明校長は明かす。

 麻布中高の1学年の生徒は約300人。教師は92人。ここ数年で、団塊の世代の名物教師たちが65歳の定年を迎え、若い教師に大幅に入れ替わっている。いずれも公募で、選び抜かれた有能な教師たちだ。ただ、麻布出身者は14人ほどで、大半の新任教師は麻布独特の授業の空気感を知らないため、まずは面食らうという。

 麻布では一方通行の講義は受け入れられない。教師が一言話すと、生徒は鋭い質問を返す。少しでも間違った話をすると、すぐ指摘され、からかわれる。常に授業は「ワイガヤ」の双方向だ。

有能な生徒は教師を無視も

麻布中学・高校の平秀明校長(同校の図書館で)

 「いや、相手をしてくれる生徒はいい方。完全に無視する生徒もいる」(平校長)。高1クラスでも大学領域の学力に達している生徒が少なからず存在する。そんな生徒は勝手に自分の好きな本を読んだりして、教師を相手にしない。平校長は麻布から東大工学部を卒業後、同教育学部に学士入学して母校の数学教師となった。

 それでも「この子の数学力はすごい」と驚かされる生徒は少なくなかった。そんな麻布生を満足させるため、教師陣はまず生徒に認められるための教える力を磨く必要がある。自分は教師だから命令に従えといって従うような生徒はいない。

 もともと麻布は自由闊達(かったつ)を是とし、生徒の自治を認めてきた学校だ。入り口の入試段階でも「自分の頭で考え、表現する生徒」を積極的に受け入れてきた。

入試は記述式が中心

麻布高校の門

 ある大手の進学塾幹部は「麻布は受験対策がとりづらい。暗記力を問うのではなく、記述式が中心だ」という。国語には必ず長文読解が出題され、算数は正解よりもその過程の考え方や計算などが重視される。

 国算理社のどの教科でも、最低限の知識は必要とされるが、それ以上に自由な発想と読解力が求められる。結果、「あれっと思うような子が合格するケースがある。普段の模試の点数が高くないのに、個性的な子が通ったりする」(進学塾)という。

 入学後も麻布は徹底的に生徒の「書く力」を磨く。中3時に国語で卒業共同論文を課し、高1時に社会で各自の問題意識をテーマにした基礎課程修了論文を書かせる。「論文」は通常は大学卒業時に書くものだが、麻布では中学からスタートする。

 「ここの書棚の本が論文の課題となる本ですよ」。平校長が案内してくれた麻布の図書館は大規模な施設だ。創立100周年記念館の2、3階にあり、7万8千冊に及ぶ本が並べられている。高価な書物もあるが、ユニークなのは一般の娯楽系雑誌やDVDも数多く置かれていることだ。大きな書棚には複数の著名小説家の同じ本が10冊以上もずらりとそろえられている。

 昭和以前の作家もいれば、村上春樹など現代の人気作家の著書もある。中3の生徒は4~5人の班を作り、1冊の本を読み込んで、互いに論議し、原稿用紙100枚以上の論文にまとめる。このなかで優秀な作品は毎年発行する『論集』という分厚い本に取り上げられて紹介される。

文系と理系は5対5

 この『論集』は麻布生の知の結晶だ。哲学者のカントや心理学者のフロイトのほか、行動経済学やバイオテクノロジー、海洋生態学など様々なテーマの論文が掲載されている。論文の中には高校2年生による「日本倫理・哲学グランプリ(2016)」の銀賞入賞作もあった。

 書くことを重視する麻布。大学受験生の理系と文系の割合はほぼ半々だという。医学部人気もあり、ライバルの開成高校や筑波大学付属駒場高校、灘高校などは圧倒的に理系の比重が高い。麻布は東大一辺倒でもない。17年の東大合格者は78人だが、自由な校風の京都大学の合格者も12人で、都内の高校では都立西高校などに次いで多い。

 早稲田大学や慶応義塾大学のほか、東京芸術大学に進学する生徒もいる。橋本龍太郎、福田康夫の両首相経験者はそれぞれ慶応、早稲田出身。東大以外からもトップリーダーになった人は少なくない。いずれの大学に進学しようと、成人式には約8割の麻布卒業生が集まり、交友を温めることが多いと平校長は強調する。

『ガリ勉』はバカにされる

 麻布出身でコマツ社長の大橋徹二氏は「学園紛争のさなかで卒業も危ぶまれる時代だったが、やりたいことをやった濃厚な時間だった。今も麻布の同級生とか、先輩後輩とはよく食事したりして、仲がいい」と話す。

 東大理学部3年生に在籍する卒業生は「麻布は、開成や筑駒と違って完全中高一貫制で6年間を同じ仲間と過ごす、自由で面白い学校。『ガリ勉』はバカにされるし、宿題も少ない。文化祭や部活で忙しいし、結構みんな遊ぶので、現役合格は筑駒や灘に比べて多くない。僕も1浪ですから」という。

 サッカーやバスケット、テニスなどの部活も盛んだ。東京の一大繁華街、六本木に近く、遊びにはまる生徒もいるようだ。ただ「もともと地頭がよく、集中力もあるので、ちゃっかりいい大学に進学する人が多い」(大橋氏)。自由を謳歌し、自治を守り、多様なリーダーを輩出してきた麻布。「都会のやんちゃな秀才集団」は今も健在だ。
(代慶達也)[日経電子版2017年04月22日付]

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