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存続危機の京大天文台救うか
日本版グリニッジ構想

存続危機の京大天文台救うか日本版グリニッジ構想

 資金不足で存続の危機に直面している京都の花山天文台をいかに再生・活用するか――。教育や産業育成の拠点として整備、観光地としてもいかす取り組みが動き出そうとしている。同天文台は歴史的に貴重な設備が残るほか、日本のアマチュア天文学発展の礎にもなった。構想の実現には資金調達などのハードルを越えなければならないが、実現すれば新たな科学振興のモデルとなるかもしれない。

今年度から予算つかず、存続には年1000万円必要

 4月14日、京都大学構内で「京都花山天文台の将来を考える会」設立記念講演会が開かれた。花山天文台や京都大学の関係者だけでなく、漫画家で京都精華大学学長の竹宮恵子さんも登壇。それぞれ同天文台への期待や将来構想を語った。

 京都大学の研究施設である花山天文台は、2017年度から施設の運営に必要な予算が計上されなくなった。国立天文台岡山天体物理観測所に京大が新設した大型望遠鏡に資金を振り向けられたためだ。自前で資金を調達できなければ、閉鎖せざるを得なくなる。

 1929年に開設された花山天文台は、長年、太陽や火星などの観測に活躍。最先端の研究は他の施設に移ったが、伝統のある太陽観測では今でも2秒ごとにデータをとり続けるなど現役の研究施設だ。大学院生の実習などに利用され、ここでの成果が論文になって発表されている。

資金難で存続が危ぶまれている花山天文台の本館

 また初代台長の山本一清教授は、学会などの批判を受けながら一般向けの講演を開くなど天文学の普及に尽力。日本のアマチュア天文学が発展する礎を築いたことで知られ、花山天文台は「アマチュア天文学の聖地」ともいわれる。京都市郊外という立地の良さもあり「研究だけでなく学校教育など、様々な活用ができるはず」と京都大学大学院理学研究科付属天文台長の柴田一成教授は説明する。

 存続には施設の維持、運営にかかる人件費など年間約1000万円が必要。今年度は京大天文台基金への寄付で300万円程度、観光客向けのツアーに採用されたことで得られる収入を約300万円見込むが、まだ不足する。電磁気学などに大きな足跡を残したファラデーが講演会の収入を研究費に充てた故事にならって「金曜天文講話」と題した講演会を開催したり、校外学習に天文台を利用する学校などに利用料の支払いをしてもらえないかなど打診したりしている。

 ただ、当座の運営資金を集めることができても、それだけでは先がない。考える会では、周囲に新たな科学館などを整備して、将来的な存続をめざそうという構想を打ち出している。

インキュベーション施設としても活用 総費用は20億円

花山天文台宇宙科学館の完成予想図(岡崎甚幸武庫川女子大学教授の案を基に北川浩明氏が製作)

 モデルとなるのはイギリスのグリニッジ天文台だ。世界の子午線の起点として有名な同天文台は、ロンドンの近郊に立地。研究拠点としての役割は既に終えているが、歴史的な施設とともにプラネタリウムなどを整備し、多くの観光客が訪れる場所になっている。

 花山天文台も京都市郊外に立地し、JR京都駅から車で20分程度。多くの観光客でにぎわう清水寺や平安神宮などにも近い。本館など歴史的な建物は京都市の「京都を彩る建物や庭園」のひとつに認定され、世界的にも貴重な設備も少なくない。45センチ屈折望遠鏡をのせる台は開設当時から使用され、おもりを利用して望遠鏡で星を自動的に追いかける重力時計の調速機は、現役で使われているのは、世界でここだけかもしれないという。

45センチ屈折望遠鏡の赤道儀では、開設当時からのおもりを利用した重力時計が現役

 構想では、既存の天文台を残しながら、まず3年程度をめどに、5000万円の予算で一般向けの天体観望会や講演会に使える100人規模の講演室や資料館を整備。続いて4~10年を目標に科学館やコンサートなどにも利用できる野外施設を設けて、多くの人が楽しめるようにする。

 さらに、ほかの科学館にない目玉になるのが、天文台の持つ技術を新産業育成にいかそうというインキュベーション施設だ。岡山に新設される口径3.8メートルの新型望遠鏡は、京都大学を中心に開発された光学機器などの新技術が多く使われている。

 そうした技術を企業に提供したり、共同で研究開発を行ったりすることで、新しい宇宙科学館の財政基盤を安定させようという考えだ。京セラなど多くのベンチャー企業を生んだ京都だけに、新産業育成につながる期待がかかる。

 もちろん、当座の運営資金1000万円にも困っている現状で、総費用20億円を見込む宇宙科学館構想を実現するのは容易ではない。しかし「使わずに残すのでは意味がない。将来の日本に役立つ施設を実現するのが私たちの役目」と柴田教授は話す。歴史的な遺産をいかに将来に生かすか、知恵と実行力が求められている。
(科学技術部シニア・エディター 小玉祥司)[日経電子版2017年4月17日付]

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