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[ liberal arts-大学生の常識 ]

デジタル社会の光と影(25)人工知能社会を生き抜くために
想像力を磨き直そう

小川和也 authored by 小川和也アントレプレナー、フューチャリスト
デジタル社会の光と影(25) 人工知能社会を生き抜くために想像力を磨き直そう
撮影協力 東京理科大学

 われわれは、各種モニターから大量の情報を入手し生活している。スマートフォン、パソコン、テレビの画面。特にスマートフォンには多様な機能が集約され、これ1つである程度のことは賄える気さえしてしまう。就職活動において最も欠かせないツールを尋ねると、迷わず「スマートフォン」と答える学生も多い。

 4K(横4,000×縦2,000前後の画面解像度に対応した映像)、さらに8Kレベルの解像度が一般的になると、大画面で臨場感あふれる映像が目の前に現れる。高解像になればなるほど映像と本物の境界線は曖昧になり、バーチャルリアリティは人間の視覚を乗っ取るくらいの技術進化が見込まれる。あらゆる形式のモニターが、人間と情報をもっと強烈に繋ぎ合わせるようになる。

 目の前の情報の完成度が高いと、あれこれ考えるまでもなく自分の中にインプットされる。次から次へと生まれる情報量は過剰なレベルに達し、もはや人間が処理できる許容量を超えている。世界のデータ量は毎年40%のペースで増加しているとも言われ、情報の循環も速い。

増え続けるデジタルデータ

 2020年には、世界のデジタルデータ年間生成量が44ZB(ゼタバイト)に達すると予測している調査もある。2013年の実に10倍相当で、ほとんどの情報は消化不良のまま流れ去る。情報が増えれば増えるほど、情報をじっくり受け止め、そこから想像を広げる余裕もなくなる。特に高解像映像は視覚で圧倒し、視覚以外の感覚を駆使して人間が想像する機会を奪いかねない。

 人間が想像する機会を減らす一方で、人工知能は賢くなり続ける。情報処理能力においては、人間が人工知能に敵わなくなる分野はたくさん出てくるだろう。情報処理、計算、分析、判断力を伴う仕事を人工知能が担うことが増え、人間の特異性は何かを問われることになる。

 その時、「人間の強みの一つは想像力である」ことを再認識するのではないだろうか。予定調和な人工知能には生み出せない意外な発見や発明も、人間の想像力から生み出されるはずだ。

 僕はいま、リスナーと一緒に未来を考えるJ-WAVE『FUTURISM』というラジオ番組(http://www.j-wave.co.jp/original/futurism/)で話をしている。誕生してから100年以上経つラジオだが、一貫して声と音だけがそこにあるメディアだ。

 リスナーはラジオから流れる言葉を辿り、音に耳を傾ける。言葉の意味を考え、頭の中で想像を広げる。僕も一人のリスナーとして、ラジオで語られていることについてあれこれ自分の頭で考える機会は多い。視覚偏重の情報が増えるにつれ、視覚以外から得る絞られた情報をもとにじっくり想像する時間が僕にとっては貴重だ。

ラジオは「想像メディア」

 第一次世界大戦後から世界恐慌直前までのアメリカの拡大発展の記録を番組にしたNHKスペシャル『映像の世紀』(第3集 それはマンハッタンから始まった)で、あるマンハッタンの住人によるラジオについての手記が取り上げられている。

 「ラジオの世界、それは、私にとってリアルそのものだった。まるで目の前に映画スターやミュージシャンがいるかの様に思えた......」。

 この手記の如く、昔もいまもラジオは「想像メディア」なのだと考えている。情報が言葉と音に限られるからこそ、想像の機会が与えられる。しかし、視覚を通じた豊富な情報に囲まれているいま、耳からの情報をもとに「まるで目の前に...」というような想像をすることも少なくなった。

 人工知能社会を生き抜くために、人間特有の想像力を磨き直す必要がある。情報量の恩恵を受けながらも、五感を駆使して想像する機会を増やそう。想像こそが、人間がテクノロジーの踏み台にされないための行為であると信じている。