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ジュリアードからの手紙(7)河岡義裕教授インタビュー
エボラ出血熱との戦い

廣津留すみれ authored by 廣津留すみれ米ジュリアード音楽院1年生
ジュリアードからの手紙(7) 河岡義裕教授インタビューエボラ出血熱との戦い

 本日のインタビューのゲストは、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授。5月6日放映のNHK「おはよう日本」では「シエラレオネ "エボラ"と闘う日本人」として河岡先生のエボラウイルスの研究活動が取り上げられました。

 2014年から2016年にかけてのエボラ出血熱の流行は史上最大、西アフリカのギニア・リベリア・シエラレオネを中心に近隣諸国へ拡大し、約3万人もの感染者を出しました。番組では、シエラレオネの中でも特に犠牲者の多かった都市、マケニにおいて、現地の住民とお話される様子やインタビューを通して、流行中の治療だけではなく、流行後の研究や治療薬の開発がどれだけ世界にとって重要かが伝わってきました。

河岡義裕(かわおか・よしひろ) 東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野 教授。米国ウイスコンシン大学マディソン校獣医学部 教授。野口英世記念医学賞(2002年)、文科大臣表彰科学技術賞(2006年)、ロベルトコッホ賞(同)、日本農学賞・読売農学賞(2010年)など受賞。2011年紫綬褒章受章。2016年日本学士院賞受賞。2013年には米国科学アカデミー外国人会員となる

 私がハーバード大学でグローバルヘルスを勉強していた3-4年生の頃はまさにエボラの流行中。リアルタイムでアフリカ中にエボラウイルスの感染が広がっていく中、貧困国でヘルスケア活動を積極的に行ってきたポール・ファーマー教授らトップクラスの先生方から学べたことは幸運でした。予定されていた授業内容を変更して、なぜ感染が広がったのか、医療設備も整っていないアフリカの貧しい国々でどうやったら拡大感染がストップできるか、と活発に議論しました。

 私もご縁あってこのシエラレオネのプロジェクトに微力ながら関わらせていただいているのですが、今回のシエラレオネ滞在の直前に、感染・免疫分野の権威である河岡義裕教授に、研究にかける思いを伺いました。

エボラ大流行の現地に実験室を作る大胆さ

――まずは、シエラレオネでのプロジェクトの概要をお話しいただけますか。

 私たちの研究室は20年くらい前からエボラウイルスの研究をやっていて、大きく分けて2つのプロジェクトがあります。一つは、エボラウイルスに人が感染したときに体内でどのようなことが起こるかを明らかにして、治療薬の開発に結びつけること。もう一つは、エボラウイルスのワクチンをつくることです。

――具体的には。

 私たちはエボラウイルスの流行真っ最中に現地に実験室を作りました。そこで、エボラウイルスに感染された方の血液をいただいて、その後回復された方、亡くなった方、感染しなかった方の3グループの血液を解析することによって、体内で何が起きているのかを調べています。感染した患者さんが病院に来られたときに、回復されるのか、亡くなってしまう可能性があるのかを区別するようなバイオマーカー(生物指標化合物)を明らかにする。そうすると、資源の少ない現地では、どういう人を集中的に治療すればいいかがわかるので、役に立つということです。

――これまで何度もシエラレオネに行かれている先生ですが、現地で困ったことや、予想外にこれはうまくいった、ということはありますか。

 今までのエボラウイルスの流行は、人里離れたところで起きていたのと、感染規模が小さかったので、感染した方の血液サンプルをいただくのは難しかった。でも今回は3万人近くの人が感染したので、お願いすれば誰かきっとサンプルを分けてくれるだろう、と思いました。ところがだれもサンプルを共有してくれない。

――困りましたね。

 なんとかしてサンプルをいただく方法はないかと考えていたときに、たまたまウイスコンシン大学(河岡教授が教鞭をとる大学の一つ)にいるシエラレオネ出身のアルハジ・ウンジャイ先生と知り合い、その方の尽力のおかげで現地に実験室を作ることができました。国レベルで現地に実験室を作った研究グループはありますが、一つの研究室が現地で研究を行っているのはうちだけです。現地で患者さんの血液をいただいて研究することも、現地でウイルスを殺してサンプルを日米に送って解析するのに必要な政府の許可を受けることも、彼のサポートなしには不可能でした。さまざまな方のサポートのおかげで、プロジェクトを成功に導くことができました。

地球に生きる一員として、何ができるか

――アメリカのウイスコンシン大学と東大が共同で研究をされていますが、日本にある東大が果たす役割、意義があればお聞かせいただきたいです。

 1999年から東大医科研に勤務しているのですが、そのときにはすでにエボラウイルスの研究を始めていました。当時、医科研でエボラウイルスの研究をやりたいと言うと、「日本でエボラウイルスの研究をする意義があるんですか」と言われました。僕はそれを聞いたときに愕然とし、日本のことしか考えていない感覚がまったく理解できませんでした。

――といいますと。

 つまり我々が立っているのは日本ではあるが、同時に地球なので、地球の一員として、地球に存在する人類の一人として何ができるかですよね。東大として、というのではなく、人類のメンバーとしてどういう貢献ができるかという考えでいれば、「なぜ日本でエボラウイルスの研究をするのか」という発想はありえないです。「地球の一員として当然やってしかるべし」だと思います。

河岡義裕教授

インタビューする筆者

パブリックビューイングとコラボする意味

――今回パブリックビューイングのプロジェクトとしてソニーさんとのコラボレーションをされていますが、どのように始まったんでしょうか。
(筆者注:地元の方々のために、スポーツ試合やワクチンの重要性について周知させるための映像をパブリックビューイングで上映)

 もともとは、ソニーさんが持っておられるバッテリーの技術が、現地で我々がやっている活動に役に立つのでは、と話しているときにアイデアがでてきました。血液サンプルの輸送に必要なフリーザーの電力を維持するのにそのバッテリーが使えるんじゃないか、またアフリカでは電力が安定的に供給されないので、実験室で安定的に電力を維持するのに使えないか、ということになり、このプロジェクトを一緒にやることになりました。

――すばらしいですね。

 これまでソニーさんは、パブリックビューイングに来ていただいた方にワクチンをしていたんですけれども、我々の場合は、採血をして、それを研究に使わせていただくことができないか、というディスカッションから始まりました。実際には、パブリックビューイングに来られた方から採血をすることはなく、公衆衛生に関する啓蒙活動を行いました。

――一般的に聞くと、パブリックビューイングとワクチンという2つのものは結びつかないと思うのですが、そういう垣根を超えたコラボレーションを推し進めた何か共通のものがあったのでしょうか。

 ソニーさんがやっておられるパブリックビューイングのプロジェクトっていうのは、現地の人たちとの交流を深めるっていうことだと思いますが、我々の研究も、現地の人たちとの信頼関係がものすごく重要。エボラに感染して回復された方はたくさんいらっしゃいますが、家族や社会から受け入れられていないという状況が結構ある。精神的あるいは肉体的、医学的にも後遺症があったりして大変な状況なので、そういう方達への心のケアもプロジェクトの一環としてやっています。そういう方々との信頼関係を築いて、彼らにとっても、他の人たちにとっても、これからの流行にとっても重要な情報を我々が供給できるようになればいいな、という思いがあります。

――経済的なサポートなどはどういう風にマネージしていらっしゃいますか。

 私たちのエボラウイルスの研究は、日本医療研究開発機構(AMED)のサポートで行っていますが、それに加えて、今回のパブリックビューイングのプロジェクトでは、Asian Pacific Alliance(APAD)というグループが協力してくださいました。Asian Pacificなのでアジアのプロジェクト対象のはずなのですが、たまたま我々のアフリカでのプロジェクトをご説明する機会があり、将来的にはアジアで展開するプロジェクトの一例としてサポートしましょう、と言っていただき、経済的なサポートをしていただきました。

――そのように、このプロジェクトの意義に賛同して参加してくださっている方がたくさんいると思いますが、私たちに何ができるのか、お聞かせいただけますか。

 大事なのは、我々がどういう貢献ができるかっていうことだと思うんですね。先ほどの話に戻りますが、日本だから、アフリカだから、というのではなくて、地球にどう貢献するか。我々の場合は、行き先がたまたまアフリカだった。そして対象が、たまたまエボラウイルスだった、というだけなので、考え方としては、やっぱり根本に戻って、いかに社会に貢献するかと。

自分一人では何もできない。賛同者とともに Save the Worldが目標

――ゴールはSave the Worldだとおっしゃっていますが、そのモチベーションはどこから来ているんでしょうか。

 若い時は自分のことしか考えてなかったのですが、ある年齢になったときに、社会に貢献したいと思い始めました。若い時には自分がすべてやっていると思っていても、ある程度の年齢になると結局自分じゃ何もできなくて、多くの人のおかげでいろいろできているっていうことに気づいてくるわけです。そこで、何か社会に貢献しようと思うわけですね。僕の場合は、今の立場で何ができるかと考えると、Save the Worldだった。感染症でどういう貢献ができるかと思ったわけです。


――なるほど。社会に恩恵を還元したいと思ったときに、チームをつくったり、人を巻き込んでいったりする力が大切なのではと思うのですがどうですか。

 実はそういうことは全く考えずに、Save the Worldっていうと、それに意義を感じて集まる人がいますよ。

――賛同して自然に集まるんですね。

 そう。人間って、結構良くて。いろんなごちゃごちゃを取り払って、本質的な、そして概念的な目標を掲げると、それに賛同する人って結構いるんですよ。そしてそれに賛同してくる人たちは頑張る。いろんなごちゃごちゃはもちろんありますよ。でも根本的な目標をみんなが認識すれば、細かいことはどうでもよくなってくる。

若い人が育ち、自分を超えて伸びてくれるとうれしい

――それでは最後に、今の仕事で、一番喜びを感じる瞬間と、興奮する瞬間をお聞かせいただければと。

 この歳になると、若い人たちが育っていくのを見ると、喜びを感じます。我々の職業では、新しいことを見つけたりとか、それで世の中に役に立つという喜びはありますが、同時に大学の先生なので、若い人たちが育って来て、僕よりも良い人がいっぱいでてくると、嬉しいですね。組織って、自分より良い人を取って来ないと絶対良くならないので。どんどん僕にはできないことを発展してくれているのを見ると、いいなって思いますね。

「若い人たちが育っていくのを見ると、喜びを感じます」

――自分を超えていってほしいな、という思いでしょうか。

 それぞれの領域でみなさん才能があって、自由にしておくとみんなどんどん伸びていくわけですよ。そこが面白い。僕はハンズオフなので、優秀な人たちが集まってきて、僕がやらなかったらみんな勝手に色々なことをやる。それでどんどんいい雰囲気になりますね。

――興奮する瞬間は。

 興奮するのは、やっぱり新しいことが見つかったとき。分からないことがわかったときですね。この職業の醍醐味かなあと思います。

――わかりました。お話、ありがとうございました!

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