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[ liberal arts-大学生の常識 ]

ニュースの見方(48)ビールメーカーの仕事
「生活」「文化」担う気持ちで

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
ニュースの見方(48) ビールメーカーの仕事「生活」「文化」担う気持ちで

 昨今の就職活動では、「B to C」と呼ばれる消費者向けのサービスを行う業種の人気が高まっています。日常生活に深く関わりをもつ食品分野は、より快適な生活スタイルの追求、健康志向の高まりによって広く注目を集めています。なかでも相次ぐ新製品やシェア争いが度々ニュースになるビールメーカーは人気の就職先になっています。

就職人気上位に

 就職希望先ランキングでは、食品の分野の中で、ビールメーカーが上位にランキングしています。2018年卒を対象とした「キャリタス就活2018」のランキングを見てみますと、全業種を対象としたランキングにおいて、サントリーグループが6位とトップテンに入っていますし、キリンが23位、アサヒビールが43位にランクインしています。

ビアガーデンが始まっている地域もある(4月、名古屋)

 いずれもビールで有名ですが、幅広くアルコール飲料を製造・販売しています。特にサントリーは、ウイスキーの分野で「響」や「山崎」といった高級酒を抱えています。いずれもブランド力が高く、海外でも大人気です。

 近年は、ビール系飲料や日本酒の需要の伸びが低迷する一方、缶酎ハイなどの低アルコール飲料、ワイン、そしてハイボール人気によるウイスキーの消費が増加傾向にあります。こうした状況を受け、ビールメーカー各社はビール以外の分野を拡大するために、活発にM&A(企業買収・合併)を行っています。というのは、ワインやウイスキーは製品化するまでに時間がかかるため、機動的に市場の需要に応えていくためには、既存のメーカーと組むか、それを買収した方が効果的だからです。

サントリー「やってみなはれ」文化

 サントリーは文化創造の面でも歴史的に貢献してきました。サントリーの前身である寿屋時代には、宣伝部に、在職中に芥川賞を受賞した開高健氏が在籍し、伝説的PR誌『洋酒天国』の編集を行っていました。トリスウイスキーの「人間らしくやりたいナ」などウイスキーのキャッチコピーでも有名です。そして、開高健氏の後は、同じく作家、エッセイストとして有名になる山口瞳氏が引き継いでいます。

 1980年代の初めころには、松田聖子さんの歌とともに流されたペンギンアニメのCMが大きな話題となりました。次々と斬新な宣伝を展開していくことができたのは、ユニークな人材を尊重する社内文化、「やってみなはれ」文化があったからだと評価されています。

 そして1961年には「生活の中の美」を基本テーマとしたサントリー美術館を開館。2007年には東京ミッドタウンの開業時に、そこに移転させました。このように、極めて早い段階から「生活文化」の在り方を深く考え、関わってきたことは大いに注目すべきです。いずれ紹介する資生堂など、社会的評価の高い企業に共通する特徴です。

アサヒvs キリン シェア競争激しく

シェア争いは激しい

 ビール系飲料(ビールと発泡酒、第三のビールの合計)の出荷量の2016年のシェアはアサヒビールが首位ですが、キリンと激しいトップ争いを続けています。キリンは1950年代から長くトップの座をキープしてきましたが、アサヒが1980年代後半に投入した「アサヒスーパードライ」の大ヒットが業界地図を大きく変えました。

 最近の動きでは、アサヒビールが15年にワイン販売の大手であるエノテカを買収したことが注目されます。先にも触れたように、今後も伸びが期待できるのはワイン、低アルコール飲料といった部門であり、ビール各社はそれへの対応を着々と進めています。

サッポロ、収益高い不動産

 ビールメーカーとしては、サッポロビールも存在感を示しています。会社発祥の地である北海道では当然高い人気を誇っていますが、全国的にも根強いファンを抱えています。サッポロビールでは「黒ラベル」が最も人気があるでしょう。また、プレミアム・ブランドである「エビスビール」も多くの愛好家をひきつけています。東京・恵比寿のガーデンプレイスに本社を置き、不動産事業においても、ビール事業を上回るほどの高い収益を挙げています。これも広い意味での文化事業という側面があるでしょう。

 地方のビール会社として存在感を示してきたのが沖縄のオリオンビールです。1957年の設立以来、沖縄県民だけではなく、沖縄に関心のある多くの人々に愛されてきました。その他、1994年の酒税法改正によって誕生してきた各地の地ビールもあり、非常に多様なものが楽しめるようになりました。

ビールには多様な価値

 今後、ビール系飲料自体の消費量は大きくは伸びないかもしれません。しかし、夏の気温がますます上昇している中、ビアガーデンなどはこれからも盛況でしょうし、日本人には「最初の1杯はビール」という慣習的なものもあります。ビールそのものが社会的価値を低下させることは考えられません。

 これまでも書いてきましたように、低アルコール飲料やワイン、ウイスキーなど、健康志向に応じたアルコール飲料には需要の伸びが期待できます。タバコとは違い、アルコールの場合には、適度に摂取すれば、全く飲まないよりも健康を維持できるということが実証的に示されています。コミュニケーションを円滑にするためにも、適度なアルコール摂取は大いに役立ちます。もちろん、あくまでも「適度な」ですが。

 歴史的に見ても、アルコールは人間の豊かな文化を育んできました。その意味においても、ビールをはじめとするアルコール飲料を手掛ける業界に働くことは魅力的であり、是非その将来を担う優秀な人材がこれからもどんどん現れてほしいと願います。

 「ニュースの見方」は今回で終了します。次回からは新しい連載を始めます。

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