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食の訪問記(7)カクキュー八丁味噌(上)大豆と塩だけで造り続けて372年

平井幸奈 authored by 平井幸奈株式会社フォルスタイル代表取締役CEO
食の訪問記(7)カクキュー八丁味噌(上) 大豆と塩だけで造り続けて372年

 ブリュレフレンチトースト、フォル・グラノーラ、ドラフトコーヒー......。美味しいを生み出す食のプロデューサー、株式会社フォルスタイル代表取締役の平井幸奈です。本企画は私が日頃から注目している日本を代表する食のブランドを訪問し、体当たりでインタビューする企画です。愛される"日本の一流の食"の秘訣、伝統の守り方・育て方、新しい食文化の作り方、そして新たなる挑戦と描いている未来についてじっくりとお話を聞いていきます。

 3カ所目の訪問先は、カクキュー八丁味噌です。創業1645年(正保2年)。最も古くから業として味噌づくりを続けている蔵元の1つ、カクキュー八丁味噌。岡崎城から西へ八丁約870メートルの距離にある八帖町(旧 八丁村)で造られていたことからこの名がつきました。江戸時代から旧東海道を挟み2軒の蔵元が造り続けています。NHK大河ドラマのロケ地にもなったことから注目を集めています。企画室長兼品質管理部長の野村健治さんに話を伺いました。

会社概要
合資会社八丁味噌(屋号 カクキュー)
事業内容:八丁味噌の製造・卸・販売および関連商品の開発
設立:正保2年1645年
従業員数:55人
売上高:10億円

隠し味に使ったソースに感動して

 名古屋土産としていただいたカクキューの八丁味噌。味噌汁にしてみると、慣れ親しんだ味噌とはひと味もふた味も違いました。なんとも言えない渋みとコク、程よい深みのある味。知り合いのシェフに話すと「うちの店ではハンバーグのソースにコク出しのために入れてるよ!」と聞きつけて、私も早速作ってみるとソースにコクが出て感動しました。国内外のシェフの間でも隠し味として評判の八丁味噌。370年以上も続き愛されるその秘訣に迫ります。

平井 まずは八丁味噌のこだわりを教えてください。

野村健治さん

野村 八丁味噌には酸味とか渋みとか、普通のお味噌にはない濃厚なコクがある。それが特徴です。八丁味噌は水分が少なく、2夏2冬、2年以上熟成されるため、色が濃く固いです。このため辛いと思われがちなのですが、塩分は控えめで旨味とコクが強い。最近は温度を上げて熟成を早めるという手法を用いているところがほとんどなのですが、うちはやはり伝統を守り続ける、変わらない味を造り続けるために変えていません。大豆と塩だけで造り続けている味噌は珍しいと思います。

平井 確かに大豆のみから造られるというのは珍しいですね。

野村 はい。日本の中で8割くらいは信州味噌に代表されるように米味噌と呼ばれるものなのですが、うちは大豆自体を麹にするという造り方です。大豆なので国内だけではなく海外でも、マクロビオティックを意識されているお客さんからの要望も多いです。

10棟の蔵で2年寝かす

平井 趣のある建物で、敷地もとても広くて驚きました。

野村 敷地内は7000坪あります。大正から昭和にかけ建てられた本社屋と資史料館、10棟の蔵があります。

平井 蔵は10棟もあるのですか!

野村 味噌は2年以上寝かすのでたくさん在庫を持たなければいけません。そのための蔵が必要なのです。一部は登録文化財にもなっています。

平井 その歴史を教えてください。

野村 創業は1645年です。今年372年目を迎えました。現・代表の先祖である早川新六郎勝久は今川に仕える家臣で1560年の桶狭間の戦いで今川が戦に敗れた際に、岡崎にある寺に命からがら逃げ延びたところからカクキューの歴史が始まります。早川家の先祖は名前を久右衛門と改め、逃げ延びた寺で味噌造りを学んだと伝えられています。

平井 当時からこの場所で造られていたのですか。

野村 創業から数代後に現在の場所に移りました。それから現在に至るまで、場所を移動することなく伝統の味噌造りを続けています。この場所は旧東海道と一級河川である矢作川の交わる水陸交通の要となる場所でした。矢作川の下流には重要な塩の産地である吉良があり、上流からは重石となる川石や燃料となる木材などを仕入れていました。矢作川の舟運は味噌の出荷にも重要な役割を果たしておりました。弊社の出荷の記録を紐解くと生産量の3分の1程度を矢作川から三河湾を経て江戸の地へ出荷していたようです。

平井 当時から八丁味噌づくりには絶好の、利便性の高い場所だったのですね。

野村 そうですね、保存性が高く携帯しやすい八丁味噌は、三河武士たちの兵糧として力を発揮していました。