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[ career-働き方 ]

食の訪問記(8)カクキュー八丁味噌(下)機械化ではなく職人の経験と勘で造る理由

平井幸奈 authored by 平井幸奈株式会社フォルスタイル代表取締役CEO
食の訪問記(8)カクキュー八丁味噌(下) 機械化ではなく職人の経験と勘で造る理由

 カクキュー八丁味噌の後編です。前回は八丁味噌の歴史やこだわりについて話を聞きました。今回は八丁味噌の造り方や使い方の可能性などについてです。

6トンの味噌に3トンの石を乗せる

平井 こんなに味噌の香りに包まれたのは初めてです。一つの桶に、どれくらいの味噌が入っているのですか。

野村 中身は6トンくらい入っています。

会社概要
合資会社八丁味噌(屋号 カクキュー)
事業内容:八丁味噌の製造・卸・販売および関連商品の開発
設立:正保2年1645年
従業員数:55人
売上高:10億円

平井 6トン! 想像をはるかに超えていました。どのような行程を経てこの桶の中に味噌を入れるのですか。

野村 まず、大豆を蒸し釜で蒸した後、潰して拳大に握り、麹菌をまぶして発酵させ豆麹を作ります。この後、豆麹を軽くつぶし、水と塩を混ぜ合わせ木桶の中に入れるのです。そして「踏み込み」と呼びますが、職人の足で踏み込むことで、余分な空気を抜いていきます。約6トンの味噌に対し、3トンの石を手作業で山型に積み、2年以上熟成するのです。

平井 踏み込みと石の積み上げは、機械化はしないのですか。

野村 物を運ぶといった機械化した方がいいところもありますが、昔ながらの造り方を守ることが、祖先の味を現在に伝えることになると思っています。なので重要な踏み込みや石の積み上げは今でも人力で行っています。

平井 石積みなど機械でできるのでは。と安易に思ってしまいますができないのでしょうか。

野村 そうですね。これは先祖代々伝えられてきた技術で、職人の経験と勘に培われた職人技です。仕込みに使う桶も手造りのため、同じように見えても少しずつ大きさが異なっていますので、これに合わせて重石の量を調整しています。積み方はお城の石垣で使われている「野面積み」で、一つひとつの形の異なる天然の川石を組み合わせて積み上げます。この石積みの技は八丁味噌を造るために無くてはならない技術ですので、機械に置き換えることはできず、現在も絶えることなく伝えられています。

昔ながらの八丁味噌の造り方

身長より長いの直径

常に「安心安全」

平井 こんなにも長く続けられる秘訣はありますか。

野村 余分なものはなるべく入れず常に「安心安全」を心がけること、そして八丁味噌を守っていくという強い意志を持っています。

平井 私も事業をしていて、たった4年でもヒイヒイ言っているのに、数百年続けるということ、そして「安心安全」と一言で言ってもそれを現場で守り続けることはどれだけ大変なことか。よく分かります。

野村 そうですね。特に八丁味噌なんて、2年も熟成するので、なかなか始めようと思っても始められないビジネスなんです。その意味でも、守り続ける必要があるのです。

新商品、味噌パウダー

平井 守り続ける一方で、新しい展開もされていますよね。

野村 そうですね。新しいユーザーにアプローチするために赤出し味噌の展開をしました。やはり八丁味噌は、日本全体でみるとあまり馴染みのない味噌なので、八丁味噌と米味噌を混ぜて馴染みやすくした赤出し味噌を作りました。実は今では八丁味噌よりも人気があります。そして2011年からは八丁味噌を粉末にしたパウダー商品に力を入れています。徐々に広まってきていると実感していますね。

平井 味噌のパウダー。汎用性がありそうですね。

野村 パリの星付きシェフが味噌パウダーを使ってくださったりして、特に海外のシェフにウケがいいですね。味噌の世界の入り口としては入りやすいと思います。

平井 パウダーという斬新な切り口で、新しいユーザーにアプローチされているのですね。

野村 味噌といえば、味噌汁を想定されますよね。その固定概念を取り払っていただきたい。もっと幅広いシーンで味噌を使ってほしいと考えています。例えばカレーやビーフシチューに入れると、長時間煮込まなくてもコクが出ます。味噌のマドレーヌ。味噌は乳製品と相性がいいのでこれは好評でした。フルーツとの相性も良くて、特に熟した柿と味噌のマリアージュは抜群です。他にもバニラアイス、ヨーグルト、納豆、ピザなんかとも合うんです。

平井 新しい味噌の世界ですね。天然のものでも、旨味を出す調味料のような形で使えるのは嬉しいです。和食だけではなく、スイーツやイタリアンにも合うなんて......! 弊社の商品でも、味噌グラノーラ? 味噌フレンチトースト?挑戦してみたいです!

野村 ぜひ試してみてください!味噌汁が嫌いなんて日本人は、いないと思うんです。だからこそ、若い方々にも、身近なものから八丁味噌の世界に足を踏み入れてもらえたら嬉しいです。