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謎×経済=ナゾノミクス (2)病院に行きすぎはいけないの?

謎×経済=ナゾノミクス (2) 病院に行きすぎはいけないの?

 千葉県在住の北村優子さん(仮名、24)は花粉症の薬を病院で処方してもらう。市販薬を買うよりも安いからだ。アレルギー症状を抑える抗ヒスタミン剤「アレジオン(錠)20」の場合、街角のドラッグストアで買うと1錠あたり165円ぐらい。ところが病院で処方してもらうと1錠あたり36円。診察にかかる初診料などを含めても月約3000円以下とかなりお得だ。

 体調がすぐれなければ、病院に行く。こんな当たり前のことが日本で問題になっています。お金がかかりすぎるからです。

 花粉症の薬はなぜ、病院でもらった方が市販薬を買うよりも安いのでしょうか。病院が薬を安売りしているのではありません。薬の料金をどう払っているのかに違いがあります。

 病院の診察料や薬代のうち患者が窓口で払っているのは原則として全体の3割にすぎません。高齢者は所得の違いに応じて1~3割負担しています。高額な医療費は国が補助する制度もあるため、患者の負担率はさらに低くなっています。

窓口払いは医療費の1割

病院でもらう薬とドラッグストアで買う薬には同じ成分のものもあるが…(都内)

 厚生労働省の資料によると、2014年度の日本国民の医療費(保険診療の対象となったもの)は約41兆円。そのうち患者が直接負担したのは約5兆円で、全体のおよそ12%でした。残りは、個人や会社が毎月払っている健康保険料のほか、国、地方公共団体が集めた税金から支出されます。冒頭の北村さんの場合、薬代だけで約2500円が健康保険料や国などから支払われる計算です。

 薬をもらうときにお財布から払うお金が安いのなら、ドラッグストアではなく病院に行った方が良いのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、国や地方のお金はもとは私たちの税金です。足りない分を賄うために国債や地方債などを発行して借金もしています。

 国の借金にあたる国債は、いずれ返済期限がきます。返すのは子供の世代かもしれません。今、花粉症を治すために自分の子供にお金を借りていると考えると、おかしなことと思いませんか。

 財務省の資料によると、国と地方の借金は17年度末時点で合わせて1093兆円になる見通しです。これは先進国で最悪の水準です。

 そうした厳しい財政状況のなか、国は医療制度を維持するため多くのお金を投じています。17年度の予算では11.8兆円を計上しました。国債の返済や地方に配るお金を除く、1年間に国が使うお金の約2割を占めます。厚労省の資料によると、1人当たり医療費は成人を迎えた後は年をとるとともに増加します。これから一段と高齢化が進むことで、医療費は増えていくと見られています。

 政府は14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げました。19年10月にはさらに10%へ上げることになっています。増税分はすべて医療や介護など社会保障費に充てることが決まっていますが、それでもお金は足りない見通しです。

 病気を治療するときに少ない負担ですむように、誰もが加入している健康保険の料金も上がり続けています。健康保険料率は2009年から14年の5年間で平均2~3%程度上がりました。病院で払う額は少なくても、間接的に多くの費用を私たちは負担しています。医療費の増加を抑えるためには「みんながコスト意識を持つ必要があります」と日本総合研究所主任研究員の飛田英子さんは言います。

小さなリスクは自分で対処を

 同じ成分の薬を自分で買うと全額負担で、病院で処方してもらうと一部の負担で済む構造に問題があるとも言われています。政府は処方薬と同じ成分の市販薬の使用を促すために、17年1月から新しい制度をつくりました。「セルフメディケーション税制」という新制度は、医療用から転用された市販薬の購入費用について、税金の控除を受けることができるしくみです。薬局で薬を買うのを少しお得にすることで、薬をもらうために病院に行く人を減らす狙いがあります。

 さらなる見直しを求める声もあります。昨年10月に自民党の小泉進次郎議員ら若手議員が「人生100年時代の社会保障へ」と題した提言を出しています。「小さなリスクは自分で対応してもらうべきであり、公的保険の範囲を見直すべきだ」と主張しています。

 過度な見直しには反対の声もあります。「軽い症状が重い病気の前兆のこともある。重い病気を見逃すと、結果として多額の治療費がかかることもある」(飛田さん)。しかし、日本の病院が「気軽に行ける」ことに多くのお金がかかっていることも間違いありません。
(経済部 吉田悟巳)[日経電子版2017年5月3日付]

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