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[ liberal arts-大学生の常識 ]

気候変動の今2017(4) 憧れのマックス・プランク研究所へ

authored by Climate Youth Japan
気候変動の今2017(4)  憧れのマックス・プランク研究所へ

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 私が研究を行ったマックス・プランク固体科学研究所では、金属やセラミックスといった固体をナノメートル(1ミリメートルの100万分の1!)のスケールで詳しく分析することで、固体の性質が何によって決まるのか、明らかにするための研究が行われています。

 これが明らかになれば、固体の性質を自由にコントロールして、電気を全くロスせずに遠くまで運べる材料や、非常に効率が高い太陽電池を開発することが可能になると期待されています。その中で私は、燃料電池に用いられる触媒という材料を、貴重な金属を使わずに開発することをめざして研究しました。

燃料電池のカギを握る「触媒」

シュトゥットガルトのマックス・プランク研究所。「マックス・プランク研究所」という名前の研究所はドイツ全土に存在し、そのうちシュトゥットガルトには、固体科学研究所と、知能システム研究所があります

 燃料電池は水素を使って化学反応を起こし、電気を取り出す装置です。効率が高く、基本的に水しか出さず、騒音や振動が少ないため、次世代のクリーンエネルギーとして注目されています。2014年にはトヨタ自動車が世界初となる量産型の燃料電池自動車、"MIRAI"を発売し、話題になりました。

 水素を使って化学反応を起こすには大きなエネルギーが必要で、低い温度では水素を与えても起こりません。必要なエネルギーを減らし、化学反応を起こりやすくする材料が触媒です。この触媒には現在、主に白金(プラチナ)が用いられていますが、価格が高い、資源量が限られている、性能が落ちやすいなど、多くの問題点を抱えています。そのため世界中の研究者が、白金を使わない触媒の開発を目標とした研究に取り組んでいます。

 私が研究していた触媒は炭素と窒素からできています。どちらもとてもありふれた、安価な材料です。しかし、これらを使って白金を超える性能を示す触媒が実現できることが、2009年に示されました[参考文献]。その一方で、このような物質がなぜ触媒としてはたらくのかについては、まだよく分かっていません。触媒がはたらくメカニズムが明らかになれば、安くて高性能な触媒を大規模に生産できるようになり、燃料電池の大きなコストダウンにつながると期待されています。私の研究は、そのメカニズムを解き明かそうとするものでした。

 研究はなかなかうまく進みませんでした。事前に「これがやりたい!」というテーマを考えていたのですが、実際に現地に行ってみると、想像とは異なるものです。まず、化学というよりも物理に近い研究室だったので、化学薬品の種類が思っていたほど多くはありませんでした。

研究室お手製の装置の中にあるサンプルを移動しています。これがすごく難しい

 そこで、研究室にある薬品だけで、かつ行う意味のある、世界中の誰もしたことがない発見ができそうな実験を考えなければなりませんでした。そのために毎日論文を読みつつ、現地の先生と「この実験は面白くない」「これが分かれば大発見だけど、うちの装置じゃ調べられないね」などとディスカッションを行いました。その中でテーマを絞っていくのは大変でしたが、楽しくもありました。

失敗から学んだ経験

 研究室の装置に慣れるのも一苦労でした。私がお世話になった研究室の装置は、基本的にそこのスタッフと学生の手作りで、自分がしたい実験に最も合うようにカスタマイズされています。慣れればとても便利な装置なのですが、初心者にはとても手強いものでした。

 一番難しかったのは、装置の中で実験用のサンプルを移動するために、長さが1メートル以上あるアームを操作しなければならないことでした。そのアームの先にはサンプルをはさむための小さな洗濯バサミのようなものがついていて、それでサンプルをつかんだり離したりします。うまくつかめないと装置の中に落としてしまうことになりますが、装置を開けることができないため、落とすと回収不能、実験はふり出しに戻ります。

触媒の性能を測定中です

 まずは落としても問題のないサンプルで練習しました。装置を管理する学生に、「今そこは触っちゃダメ!」「まっすぐアームを引っ張らないと傷がつくでしょ!」と厳しく指導されながら練習しましたが、ふと気を抜いた瞬間に落としてしまいました。見かねた学生から、「練習を続ける?それとも、サンプルを移動するときは私たちが代わりにやった方がいい?」と聞かれたので、半ばほっとして、サンプルを無駄にするか装置を壊すかしそうだから、ここは任せると答えました。

 このようにさまざまなハードルに直面し、実験が軌道に乗ってきたのは、2カ月の期間のうち1カ月以上が経ってからでした。そこからは必死に実験を繰り返しました。研究室で実験をする最終日に、予想外に面白い結果が出ました。それはもともと自分の実験の失敗を見て先生が思いついたアイデアを、ダメ元で試した中から得られたものでした。それが本当に再現できる結果なのか、それとも偶然の出来事なのかなど、確かめなければならないことはたくさんありましたが、失敗から学ぶことの重要性を実感した瞬間でした。

 結果的に、2カ月という短い期間では結論を出すのに十分なデータを集められませんでした。しかし、最終日に得られた結果などを発展させる形で、今後も研究所ではこの研究が続けられる予定なので、どのような結論が得られるか、ワクワクしています。

 日本ではまだ先生方に与えていただいたテーマを研究する立場ですが、この滞在ではテーマ、使う材料や方法、研究の進め方を主体的に考えるように求められました。これは学生というよりもむしろ、一人の研究者であることを意味していました。すでに行われた研究について正確に把握し、まだ世界中の誰も知らないことを研究テーマとして設定しなければならない難しさ。仮説を検証するために、適切かつ与えられた材料・設備で実行可能な実験を考える必要性。これらを学部生のうちから学べたことは、今後自ら研究を進めていく上でとても有意義な経験だったと感じます。

現状を変える努力も

滞在先のゲストハウスにて、研究所を訪れたEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)の学生たちとパーティーをしました。日本の文化や歴史にすごく興味を持ってくれていて、初対面の私を温かく迎え入れてくれたことに感動しました

 ドイツでの研究を通して、基礎研究は地道な試行錯誤の繰り返しで、時間がかかるということを改めて実感しました。だからといって基礎研究をやめてしまえば、将来の技術の種が育たず、成長の芽がつまれてしまいます。一方で、地球温暖化を中心とした気候変動のような問題では、対策にスピードが求められます。そのような問題に対しては、基礎研究を継続しつつ、同時に現状を変える努力をしていかなければなりません。そのような思いから、私はCYJで活動することを決めました。

 CYJは省庁や企業、研究機関、NGO・NPOといった多様なアクターと意見交換を行い、私たち若者の意見が政策や企業の方針に反映されることをめざして、提言活動を行っています(私たちはこれをアドボカシーと呼んでいます)。

週末には旅行もしました。写真はお隣の国フランスのストラスブールにて

 現在の行動が将来の気候変動の大きさを左右しますが、その影響を大きく受けるのは、今の若者や子どもの世代です。したがって、私たち若者自身が、気候変動の影響を最小限に抑えて、現在と将来の影響に適応する方法を考える必要があります。そして、それが政策や方針に反映されるように、今から働きかけていかなければなりません。

 CYJでは、環境省の委員会に招かれてプレゼンテーションを行ったり、経済産業省や環境省の官僚の方々と意見交換して意見書を提出したりする機会が多くあります。

 また、エネルギー基本計画から東京2020オリンピック・パラリンピックまで、幅広いテーマをターゲットにしており、メンバーの関心もさまざまです。同世代のみなさんには、政策提言に対する心理的なハードルを下げて、私たちと一緒に活動していっていただければ嬉しいです。

[参考文献]
Gong, K. et al. Science, 2009, 323, 760.

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