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日本経済新聞「未来面」
学生から日本HP社長への提案
「3Dプリンターを宇宙開発に」

日本経済新聞「未来面」 学生から日本HP社長への提案 「3Dプリンターを宇宙開発に」

 日本経済新聞の未来面は、読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。共通テーマは「革新力」です。今回は日本HP社長・岡隆史さんからの「どうすれば若者が夢を持てる仕事になりますか?」という課題について、学生の皆さんから多数のご投稿をいただきました。

 ここで紹介したのはほんの一部です。掲載できなかったアイデアを日経電子版の未来面サイトで紹介しています。

【課題編】「3D技術で世界をどう変えますか」

岡隆史・日本HP社長

 皆さんは「3D」と聞いて何を思い浮かべますか。英語で「3次元」を表す言葉ですが、ゲームなどで立体的な空間を再現する「VR(仮想現実)」にも3Dの技術が使われています。

 しかし、産業界で最も注目されているのは「3Dプリンター」と呼ばれる造形装置です。プラスチック樹脂などを重ねていくことで立体を作る装置も、新しい印刷機というわけです。

岡隆史・日本HP社長

 3Dプリンターはどんなところに使われているでしょうか。人間の姿をかたどった「フィギュア」や装飾家が作るアクセサリーなどはよく知られた例です。個人でも思い思いの造形物を簡単に作れるようになりました。

 一方、大企業にも製造工程に3Dプリンターを活用しようという動きが出ています。多品種少量生産に役立つだけでなく、補修部品などもデータで保存しておけば、サプライチェーンの大きな変革につながるからです。

 3Dプリンターの開発は米国のベンチャー企業が主導してきましたが、我々も3D技術が世界を大きく変えると考え、参入することにしました。サーマルインクジェット技術によるプリンターを世界で初めて商業化したのはHPです。プリンター業界をリードする我々が作るからには、実用的な製品にしようと考えました。そこで造形速度を従来の10倍に高め、コストが約半分で済む製品を開発し、日本にも投入しようと準備を進めています。

 ただ新しい技術だけにどんな利用法があるのか、既存のビジネスをどう変革できるのか、未知数のところがあります。そこで海外では自動車や機械、スポーツ用品など様々な業界の大手メーカーとオープンな協業関係を築き、新たな利用法を一緒に発掘していこうとしています。ドイツではこうしたネットや3D技術を活用して産業のデジタル化を促そうという「インダストリー4.0」が進んでいます。

 日本の製造業はアナログ時代の「匠の技」で成功を収めましたが、デジタル化戦略では遅れているのが実情です。韓国や中国などとの競争に打ち勝っていくためには、コモディティー化による価格競争に陥らず、日本にしかできない感性の世界を3Dの技術を使って表現していくことが重要だと考えています。

 そこで皆さんへの質問ですが、3Dのプリンターやスキャナー、VRなどの技術を活用すれば、世界をどう変えられるでしょうか。製造業に限らず、医療や農業、教育などで3D技術は広がっていくと思います。皆さんが考える画期的な利用法や様々な事業への活用について、アイデアをお聞きできればと思います。
(日本経済新聞2017年5月9日付)

◇    ◇

【アイデア編】

アイデア001 宇宙探査で威力発揮
山本 鈴音(明治学院大学文学部1年、18歳)

 3Dプリンターの活用は、宇宙探査の方法を大きく変えると考えている。長期にわたって宇宙空間に滞在しながら研究を進めるとき、宇宙船の中に3Dプリンターがあるとよいだろう。車体部分を船内で3Dプリンターにより造ることができれば、内部のモーターなど駆動部分を地球から持ち込むだけで様々な大きさの探査機が完成する。クレーターを走るような規模の探査機や、小さな穴に入って発掘調査する小型探査機も製作できるようになる。映像解析などを施した惑星のデータがあれば、到着した場所の地形を船内で模型として再現することも可能だろう。即席で作った模型をもとにその場で研究を進める道が開け、探査機の操作が困難な場所を開拓する手段の開発につながり得る。3Dプリンターが医療機関で使われつつあることは耳にするが、宇宙研究にも役立つと思う。

アイデア002 個人に普及、暮らしを豊かに
FANG YUAN(慶応大学大学院経営管理研究科1年、32歳)

 3Dプリンターは現時点で技術とコストの問題で、まだ企業向けの利用が多いが、近いうちに個人向けの3Dプリンターが普及すると思う。個人用3Dプリンターが普及したら、人々は買い物をしなくなって、商品の設計データや仕様を「買いデザイン」するようになるだろう。好きな家具があったら、ネットでデザインを購入して、自分の部屋に合わせて調整し、色と素材を選択したうえで、プリントアウトする。ネットショッピングが人々に利便性を提供してくれたように、3Dプリンターも人々にそれ以上の利便性を与えてくれるのではないだろうか。そして、3Dデザイナーがもっともっと必要とされるようになり、学校にも専門の学部や講座を開講しなければならなくなると予想する。また、3Dコピー機もいつか製品化すると思う。人々の生活は3Dプリンターと3Dコピーにより、どんどん便利になり、楽しくなるのではないだろうか。

アイデア003 医療の限界を崩す
安田 穣(芦屋市立山手中学校3年、14歳)

 僕の祖母は硬膜下血腫の手術で頭蓋骨を切り取られ、今でもポッカリ穴が開いている。常に衝撃を与えないように気を使っていて、大変そうだ。ストレスもたまっているはずだ。そんな祖母のために、3Dスキャナーや3Dプリンターを使って人工骨を作ることはできないだろうか? 祖母だけではない。きっと多くの人が歯のインプラントや骨折した骨の治療を必要としているはずだ。3Dスキャナーや3Dプリンターを使って、一人一人の骨の形にぴったり合った人工骨を作る。そうすれば、快適に、安心して自分に合った人工骨を装着できる。義手や義足なども、もっと心地よく動きやすいものになるだろう。他にも病気やケガを治すのに3Dの技術を求めている人がたくさんいると思う。3Dの技術には医療の限界を崩し、医療の未来を切り開く可能性がある。


【講評】 岡隆史・日本HP社長

 3D(3次元)のテーマだったせいか、若い方からたくさんのご意見をいただきました。いずれも興味深い内容でしたが、3Dプリンターを宇宙開発や医療に生かすというアイデアに私も共感しました。

 宇宙開発ではすでに米国の宇宙ステーションに3Dプリンターが持ち込まれています。全ての補修部品は持って行けないので、データだけを送り、その場で必要に応じて作るわけです。しかし宇宙船内で探査機まで作るという構想は面白いと思いました。

 医療分野では3Dプリンターで人間の臓器までも作ろうという試みが始まっています。人工骨メーカーに勤める友人がいるのですが、現在は患者さんに合いそうな人工骨をいくつも病院に持って行くそうです。病院で患者さんごとに骨を作れるようになれば、効率は大きく増すことでしょう。

 私は3Dプリンターには大きく2つの利点があると思っています。パーソナライゼーションと、リアルタイム性です。宇宙の例でいえばリアルタイムの対応が重要ですし、医療では患者さん個人に最適化するパーソナライゼーションが大切となります。ネットから好きなデザインを購入し、家具を作ってしまおうという考えもパーソナライゼーションです。

 ご指摘にあったように、そうなると3Dデザイナーや3Dプリントサービスといった仕事が増えそうです。日本は大量生産によるコスト競争では中国などに勝つことは困難です。日本人が持つ感性や文化などを3Dプリンターで表現できるようになれば、新たな強みとなるに違いありません。

 一方で規制改革も重要です。3Dプリンターで日本が出遅れたのはリスクが伴う技術の導入を規制が阻んでいた面があるからです。逆にそうした規制や消費者の厳しい要求に応えられる3D技術の利用法を見いだせれば、世界にも通用することでしょう。
(日本経済新聞2017年5月29日付)

【「未来面」からの課題】
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