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career-働き方

サステナブルな会社選び(2)あのヤフーが石巻で漁業支援
自分たちにしかできないことは

サステナブルな会社選び(2) あのヤフーが石巻で漁業支援自分たちにしかできないことは
authored by 「オルタナ」編集部

 この連載では、ソーシャル・イノベーション・マガジン「オルタナ」が企業の規模や知名度を問わず、社会的課題にも積極的に取り組む企業を皆さんの就職先候補として紹介していきます。大手企業のCSRやサステナビリティ担当部署で働く若手社会人や社会起業家へインタビューし、「社会的課題を解決する働き方」を様々な角度からお伝えします。

 第1弾として紹介するのは、IT大手のヤフー。同社は東日本大震災の被災地となった宮城県石巻市で一般社団法人「フィッシャーマン・ジャパン」を立ち上げ、若手漁師と組んでこの地域の漁業支援を行っています。地元で獲れた魚の販売、マーケティング開発や就労支援を手掛け、昨年には東京・中野駅前に居酒屋まで開きました。一般社団法人を立ち上げたヤフー社会貢献推進室東北共創チームの長谷川琢也さん(40)に話を聞きました。

地元の漁師と知り合い、活動を立ち上げ

――フィッシャーマン・ジャパンは「UPDATE漁業」をテーマに、担い手育成や漁業の課題解決などの活動をしているそうですが、この活動を始めた経緯を教えてください。

ヤフーの長谷川琢也さん(右)と漁師の阿部勝太さん。一緒にフィッシャーマン・ジャパンを立ち上げた

 石巻市のワカメ漁師・阿部勝太さん(31)との出会いが始まりです。当時、ヤフーは被災地支援として「復興デパートメント」というEC(電子商取引)モールを始めたのですが、担当だったぼくはそれに出品してもらえそうな生産者を地元の方に紹介してもらっていて、その中で勝太に会いました。会う前まで漁師のイメージといえば、シャイなおっちゃんで、口が悪くて怖い、昼間から酔っぱらっているというもので(笑)。でも、勝太はそんなイメージとは真逆で、若くてさわやかで、熱く、キラキラしていましたね。

 彼は漁師を継ぐ約束で1度地元を離れ、数年間一般企業で働いていましたが、震災の数年前に石巻に戻ってきました。外から戻ってきたからこそ、漁師の長時間労働に対する収入の低さなどに強い問題意識を持っていました。初めて会ったぼくに対して、めちゃくちゃ熱くその課題を語ってくれて、「尊敬する先輩たちでさえ、津波で船が流され、漁師を諦めようとしている。やるなら今しかない」と訴えてきました。

 その話を聞いてすぐに、彼と何かやりたいなと思いました。IT企業はプロジェクトの企画から立ち上げまでスピード感を持って動くので、その習慣からすぐにやろうとしたのですが、勝太から、「被災地だし、漁業の世界は狭くて、閉鎖的。変わったことをすると潰されてしまう」と止められました。当時彼は26歳で、10歳年下にそう言われたのにはびっくりしましたね(笑)。そこから2年間、「三陸フィッシャーマンジャパンプロジェクト」として、複数の浜から仲間を集め、ぼくと勝太を含めて13人で2014年にフィッシャーマン・ジャパンを立ち上げました。

会社のリソースを巻き込んでこそできること

――長谷川さんは震災前まで東北とは縁もゆかりもなかったそうですが。

長谷川さんは、「プロジェクトが動き出すことで地元漁師の考え方が変わっていくことがうれしい」と話す

 うまく説明できないのですが、東北出身ではないけれど、被災地に対し何かしないといけないという気持ちになっていましたね。震災後、すぐにインターネットを使って会議が開かれました。ぼくはそのとき、「ヤフオク!」「Yahoo!ショッピング」の販促部の責任者を務めていて、大型キャンペーンを企画していたのですが、被害状況から一時ストップすることに決めました。混乱の中でしたが、当時の上司であった宮坂学(現ヤフー社長)が、「自分たちにしかできないことをしよう。それが必ず人のためになるから」と話してくれて、印象に残っていますね。

――「自分たちにしかできないこと」はどんなことなのでしょう。

 初めて東北に行ったのは震災3カ月後の6月です。チャリティーオークションのためにミュージシャンの泉谷しげるさんやソフトバンクグループの有志で石巻市と福島県南相馬市に行きました。炊き出しや泥かき、物資の仕分けなどのボランティア活動を行い、避難所でイベントも開きました。東北の状況を見たとき、改めて、自分たちにしかできないことをやろうと強く思いましたね。でも個人でできることには限界がある。そこで、会社に属しているからこそできることがあるはずだと思い、会社のリソースを巻き込もうと考えました。地元の人からは、産業の復興を手助けしてほしいという声を聞いていたので、社内でECのプロに声をかけ、有志を集めて東北産の商品に特化したECモール「復興デパートメント」(現・「東北エールマーケット」)をローンチしました。

 「立ち上げるだけではダメ。そこで終わったと思うな」。これも震災前から宮坂によく言われていた言葉でした。「復興デパートメント」も立ち上げただけで何の成果も生み出せていないと悩んでいたとき、会社が東北に特化した部署をつくることを発表し、その立ち上げをやらせてもらえることになったので、初めて東北に行った1年後の2012年6月に東北に事業所を立ち上げたいと社内に提案し、承認されました。

 東北に赴任する前、上司の宮坂から、「企業で働くビジネスパーソンの醍醐味は組織の力を使えること。お前一人が無茶をしても会社は潰れないから、おれが止めるくらいのことをしてみろ」と背中を押されました。

漁師のモーニングコールが若者に大好評

――フィッシャーマン・ジャパンでは、漁業の担い手を増やすためにどのような活動を行っていますか。

漁師の手伝いにもすっかり慣れてきた

 担い手を育成するバックアップをしています。漁師専用のリクルーティングサイト「TRITON JOB」を運営したり、都内での就業フェアも行ったり。最近では、漁師と若者をつなげるために、「フィッシャーマンコール」といって、漁師が若者にモーニングコールをするという企画もリリースしました。国内・海外あわせて150以上のメディアに取り上げていただき、1500人以上から申し込みをもらうほどの大反響です。

 実際に、漁師になりたいという若者から連絡を受けると、事務局で面接をして、漁師になるためのマニュアルを渡します。担い手を募集している漁師さんとマッチングして、1週間の体験後、若者はそこに弟子入りします。県外から来た人が住む場所で困らないためにシェアハウスも建てました。現在、担い手候補として20人の若者がいます。

 今後は、漁業の持続可能性についても発信していきたいと思っています。日本人は魚を大量に消費しているのに、海洋資源に対する意識は低く、そこを変えていかないといけないと思っています。

――将来、社会的課題を解決する仕事をしたいと考えている学生へメッセージをいただけますか。

 新入社員のときには基礎を学ぶことで大変かもしれないけど、自分がやっていることや会社がやっていることは必ず誰かのためになっているということを忘れないでほしい。「社会貢献」という言葉を意識しすぎる必要はありません。なぜIT企業のヤフーが漁業支援をしているのかとよく聞かれますが、ヤフーは「ITの力で人と社会の課題を解決したい」と宣言している会社なのです。

 東北が震災によって日本の課題集積地と言われるようになり、ぼくはそこに飛び込んで地域の課題を紐解いていたら漁業に辿り着きました。だから皆さんも、自分で見つけた「誰かの課題」に取り組み続けていれば、その活動が結果的に社会貢献になるはずです。企業はもともと、誰かの困っていることや世の中の課題を何とかしたいという思いでできているはずです。
(聞き手は「オルタナS」編集長・池田 真隆)

◆ITで社会課題を解決:ヤフーのCSR
 ヤフーは漁業支援だけでなく、IT技術を生かした様々な社会貢献活動を行っています。例えば、「災害復興支援」がその一つ。ECプラットフォームでの物資提供、チャリティーオークションやネット募金での資金援助などがあります。本業を生かした取り組みとしては、「リユース」を推奨していく「ヤフオク!」などがあります。
 インターネットの力だけに頼ることなく、現場での活動にも力を入れており、東日本大震災の復興支援活動である「ツール・ド・東北」が有名です。これは2013年から毎年行っており、三陸海岸沿いを自転車で走るイベントで、昨年は3700人が参加しました。各休憩所で東北の食材を味わえることが特徴です。
 約6000人の社員がおり、ダイバーシティ(多様性)にも力を入れています。女性の活躍推進だけではなく、外国人や障がい者の採用にも力を入れています。さらに2016年10月からは新卒一括採用を廃止し、経歴に関わらず30歳以下の方であれば応募できる「ポテンシャル採用」を新設。通年採用も行っています。

【参考情報】
 漁業就業者は1963年には62万人以上いたが、2015年は16万7000人と大幅に減った(農林水産省調べ)。約半数が60歳を超えており、漁船が5トン未満の個人経営の漁師の約9割に後継者がいない状況だ。沿岸漁業者の平均所得は253万円(2014年)であり、労働環境だけでなく収入が原因で継がない若者が増えている。

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