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話題の経済入門書10選

話題の経済入門書10選

 経済に関連する本をじっくり読もうと思っても、実際には、なかなか時間を取れないという読者も多いだろう。そこで、関心がある項目だけを短時間で拾い読みできる構成になっている経済や経済学の入門書を、最近、発売された本の中から選んでみた。

【経済学を身につける】

 最初にご紹介するのは、東大名誉教授の井堀利宏著『大学4年間の経済学がマンガでざっと学べる』。20万部を超えるベストセラーとなった『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』の続編といえる著書で、前作よりさらに初心者を意識した内容だ。「『経済学』って何の役に立っているの?」から始まる様々な問いに、井堀氏が答えていく。

「GWに拾い読みができる経済・経済学の入門書」の「経済学を身につける」編

 『東大生がつくった マンガ やさしい経済学入門』は荒廃した国(ソニア公国という名の架空の国)を訪れた若き学者が、経済学の知識を使って復興の手助けをする姿を描く。物価とインフレーション、経済成長、余剰と市場均衡、独占、失業率、比較優位の6つのテーマ別に章を設けている。フィクションの世界を楽しみながら、「自動的に経済学思考の第1、第2のステップを追体験できるようになっている」(飯田泰之・明治大学准教授)。

 『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』の著者は元週刊ダイヤモンド編集長。経済誌の編集経験を生かし、経済学や経済の基礎知識を40項目に分けて解説している。「経済学的に美しい市場の条件」「日本は裕福なのか 貧乏なのか」「借金大国日本は潰れてしまうのか」といった項目が目を引く。

 杏林大学教授の西孝著『社会を読む文法としての経済学』は経済学の中核をなすキーコンセプトを説明している。取り上げているのは「機会費用」「外部性」「予想の自己実現」など全部で9つ。「予想の自己実現」の章にはこんな記述がある。「ここで重要なことは、その場合の予想は正しい必要もなければ、正しい根拠に基づいている必要もないということです。嘘でも、デタラメでも、迷信でも、都市伝説でも......、何でもいいんです。」

【日本経済を知る】

 学習院大学教授の宮川努ほか著『日本経済論』は大学の教科書向けに編集しているが、日本経済に関心を持つビジネスパーソンらも手に取りやすい分量(約260ページ)におさえられている。高度成長期、「失われた20年」と歴史を振り返りつつ、労働市場、産業構造、環境・エネルギー、金融・財政、人口をテーマに日本経済が抱える構造問題を掘り下げて分析している。事実の記述に挟み込む形で関連する経済理論を各章で紹介しているので、理論と現実を照らし合わせながら読める点が特徴だ。

「日本経済を知る」編

 『日本経済論講義』の著者、大正大学の小峰隆夫教授は旧経済企画庁出身のエコノミストで、データに基づく経済分析には定評がある。副題に「ビジネスパーソンの『たしなみ』としての」とあるように、経済学に関する予備知識がなくても日本経済に関する話題を総ざらいできる。景気の読み方、(安倍政権の経済政策である)アベノミクスの成果と限界、構造改革のカギを握る働き方の改革......。ビジネスパーソンとして知っておきたい項目が並んでいる。

 一橋大学名誉教授の野口悠紀雄著『日本経済入門』は国内総生産(GDP)の定義、計測の方法から説き起こし、統計データを活用して日本経済の問題を示したうえで、解決策を提案する。野口氏は日本経済の様々な経済指標が低下傾向を示しているのは、「新興国の工業化や情報技術の進展といった世界経済の大きな構造変化に対応できていない」のに加え、「社会保障制度をはじめとする公的な制度が人口の高齢化に対応していない」ためだと指摘している。

 「日銀による異次元金融緩和は失敗」と断定する一方で「物価の下落は望ましい」と主張する。独自の見解が随所に盛り込まれた「野口色」が濃い入門書といえる。

 『アベノミクスは進化する』は題名から想像できる通り、アベノミクスの柱をなす金融緩和政策(リフレ政策)に賛同するエコノミストらによる著書だ。「大胆な金融政策」に対する様々な批判を受け止め、12の論点別に反論を展開している。「財政赤字は長期金利を暴騰させるのか」の章では、「経常収支の黒字を安定的に計上している日本では、政府債務危機による長期金利の急上昇は発生しにくい」と主張している。リフレ政策に賛成であれ、反対であれ、有識者たちの間でどんな議論が起きているのかを確認するのに役立つ。

【視野を広げる】

 『エコノミックス マンガで読む経済の歴史』の著者はニューヨーク在住のフリーライターで世界経済のユニークな入門書に仕上がっている。資本主義の社会が誕生した時期から現在に至るまでの経済の歴史を欧米を中心にマンガで振り返っている。同時に、アダム・スミス、カール・マルクス、アルフレッド・マーシャル、ジョン・メイナード・ケインズ、ミルトン・フリードマンらの経済学説が世の中にどんな影響を与えたのか、時代を追いながら解き明かす。著者は大企業や富裕層による市場の支配や、新自由主義と呼ばれる社会思想を批判する立場で、著者の見解がときおり顔を出すが、その部分は明確にしているので、読者は自分の見解と比べながら読めばよい。

「視野を広げる」編

 NIRA総合研究開発機構編『わたしの構想Ⅱ』は有識者によるオピニオン集。日本や世界が直面する様々な課題を取り上げ、12のテーマ別に5人(もしくは6人)の専門家にインタビューを実施して要旨をまとめている。「AI(人工知能)に強い、若いプログラマーに年俸1億円を支払って、プロジェクトの中核に据える」(松尾豊・東大特任准教授)「技術革新が進んで生産性が向上すると基本的な生活コストは低下する。食べるために働くという感覚は弱まり、趣味や仕事の境界が曖昧になる」(御手洗瑞子・気仙沼ニッティング社長)......。(「働き方の変革」の章から一部を抜粋)

 同書は、積極的に社会を支えようとする自負と責任感を持った「中核層」を読者に想定したシリーズ第2弾。各章の巻末にはキーワードや年表を見ながら「あなたの構想」を書き込める欄がある。牛尾治朗・NIRA総研会長は「はじめに」で「読者の皆さんには、自分なりに考えを膨らませ、思いを巡らしていただきたい。是非、『6人目の識者』になってください」と呼びかけている。

 経済や経済学の入門書は例年、山のように出版される。入門書に共通するテーマはあり、重複する内容も多いが、よく読んでみると、著者独自の見解が入り込んでいる本もあり、注意が必要だ。複数の入門書を読み比べて経済や経済学の基礎を身につけ、読者自身の考えを磨いてほしい。

(編集委員 前田裕之)[日経電子版2017年4月27日付]

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